5話
こんにちは。今日もよろしくお願いします!
数分後、咲矢は神野家の居間で正座していた。
「あ、あのー?」
目の前には巴の母親の翔さん。隣には巴と、なにやらテンションの高い楓。
「ごめんね、咲矢、急に呼び出して」
翔は申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「いえ、何かあったんですか?」
「それがね…」
その時、翔さんの言葉を遮るように玄関の引き戸が音を立てる。
「噂をする前に来るとは…。まぁあの人らしいか」
その後、足音が咲矢達のいる居間向かってきた。
「帰ったぞ…」
その部屋の中に一瞬で緊張感を漂わせた声の主は神野 彩葉。言わずもがな巴と楓の父親であり、神野家の当主。
「ん、来てたのか、咲矢君」
三崎家の母親と同じく世界中を飛び回っているらしいが、何をやっているかは、詳しく知らない。
頰の傷跡を黒い髪の毛で隠し、目つきは異様に鋭い…が…
「ど、どうも」
「で? 俺の娘達は?」
「お、お帰り、パパ」
「お帰りなさい!! パパ!!」
緊張している咲矢と巴を差し置いて彩葉に抱きつく楓。
抱きつくというよりは腹への頭突き。
「おぉ、元気にしてたか? 楓」
彩葉は容姿からは想像もできないほどの笑顔で楓の頭を撫で回す。
まぁ、一言で言うなら、親バカ。特に楓に対しては甘々。
だが、咲矢を見る目だけはどこか警戒心というか、受け入れていない目をしている。気がする。
「な、なぁ、巴、親父さん、帰って来るの明日じゃなかったっけ?」
咲矢は巴に彩葉が聞こえない程度の声で喋りかける。
「あぁ、それがさ、急に連絡して来てさ。予定より1日早くなるって」
「そうか…。大変だな。で? 俺を呼んだわけは?」
「久しぶりだな咲矢君」
「っ!! はい!」
急に呼ばれた咲矢はどこから出ているかわからない声をだす。
「呼び立ててすまないな。少し男だけで話をしようじゃないか」
その彩葉の言葉に、咲矢の背中を得体のしれないものが走っていく。
彩葉に連れていかれるまま、神野家の庭にそびえる道場の中央で向かい合うように正座させられた。
「あ、あのー」
「…」
何故か訪れた沈黙。否、恐怖。
「お、俺何かしましたかね…」
「咲矢君…。君に折り入って話があるのだが…」
息を呑む咲矢。
幼馴染の父親兼、多彩な武術の有段者である人物が真剣な眼差しでこちらを見つめているのだ。
小動物なら死んでしまうのではないだろうか。
「君は、巴をどう思っている?」
短いたったひとつの質問。
彩葉がどういった意図でその質問を投げかけて来たのかは全く見当がつかない。
「そ、それはどう言う意味、ですか?」
「質問をしているのは俺だ」
鳥肌が立った。
「…と、巴はいい奴だと思います…優しいし、一人ぼっちな俺を見過ごせないような性格で」
「そうか…それは良かった」
「でも、どうしてこんな質問を?」
「いや、まだ君たちの中に色恋沙汰は芽生えていないものかと気になったものでな?」
と、彩葉は一変してイタズラな笑顔を向けてきた。
「な!」
まさか、この彩葉がそんな事を言いだすとは、咲矢には予想もできなかった。
「ふっ、どうした? 顔が間抜けだぞ」
「はぁ、彩葉さん…、彩葉さんがそう言う態度を取るならこっちもそれ相応に対応しますよ?」
「なぁに、君が勝手に怯えているだけじゃないか」
その後、咲矢が神野家の玄関から出るときにはあたりはすっかり暗くなっていた。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「うん、今日はごめんね咲矢」
申し訳ないと、巴は顔で表しながら咲矢を見送ってくれた。
「いや、お父さんによろしく言っておいてくれ」
「うん」
靴を履き、引き戸を開けた直後。
「あ、咲矢お兄ちゃん! この前はありがとうございます!」
「うん、また…」
「またマッサージしてください! あれは病みつきになりますよ! 私の知らないマッサージでしたけどあれはあれで気持ちよかったです! まぁ、途中ちょっと痛かったりもしましたけど、なんだか大人になれた気分です!」
「か、楓!? ま、待ってもらえ…」
咲矢は弁解しようと声を出すが、虚しく。
既に彩葉が咲矢の背後をとっていた。
「っ!!」
「俺がいない間に娘に手を出すとは、いい度胸じゃないか」
「あ、あれ…? さっきは推進派じゃなかった…?」
「楓は別件だ」
刹那、彩葉が咲矢の胸ぐらを掴もうとした彩葉に凄まじい威力の飛び蹴りが入り、咲矢の体は軽く玄関の外に投げ飛ばされた。
彩葉はそれをとっさに両腕を交差させて防ぐ。
「なぁ!?」
咲矢含め、その場にいた皆が目を丸くし、飛び蹴りをした本人、夢流を見つめる。
「…夢流…か…この馬鹿弟子が…」
「お帰り! 師匠!」
…ん? 師匠と言っただろうか、夢流が、彩葉を。
そんな事より今は逃げたほうがいいかもしれない。そう思った咲矢だが、腰が抜けて立ち上がれない。
「さ、咲矢! 逃げるよ!」
その時、巴が駆け寄ってきて手を引いて立ち上がらせてくれた。
「す、すまねえ!」
咲矢はそのまま巴に連れられて自分の家に駆け込んだ。
「はぁ…はぁ…わ、悪いな…巴…」
「…ねぇ、咲矢? あの日、楓に何をしたの? 正直に教えてくれたら…」
「と、巴?」
明らかに巴の態度と声音が変わった。
嫌な予感がする。
「マッサージ? って?」
「あ、いや楓の体を揉んであげただけだよ?」
「も、揉んだ…?」
「うん…揉んだ…隅々まで…」
直後、どこからともなく竹刀を取り出した巴は容赦なく咲矢の脳天を捉えた。
「ダギャスッ!!!!」
その後、帰宅し、包帯で体を覆われた姉と兄を引いた目で見る、立江であった。
「何やってんの…兄ーに、姉ーね」
「「た、たふけへ(助けて)」」
土日は先日ボコボコにされた傷を癒すために安静にしていたせいか、三崎家はいつもより静かであった。
そして迎えた月曜日。
鬱々とした気分のまま学校へ。
そして行われる無慈悲なテスト返却。
結果はボチボチ。よくも無ければ悪くもない。
これなら成績をキープできるだろうと言った感じの点数。
半ば朝より鬱になって帰宅する。
「オッカエリー!」
「え」
長く綺麗な銀髪。
一瞬、夢流と見間違える。
「た、ただいま…母さん…」
「んーー! 会いたかったヨーー! 咲ーー!」
靴を脱ぐ前に挨拶がわりの熱いハグ。正直マジで暑苦しい。
ロシア人の母、三崎 マリアはいつもこんな感じ。
ロシア人なのに何故かThe・欧米スタイル。
容姿は完璧で近所の方々にも明るく振舞っているせいか、ご近所アイドル感が強い。
「夢流ちゃんと立江ちゃん、まだ帰らないのネ」
「あぁ、いま連絡して見るよ(多分わざと帰ってこなくなるかもしれないけど)」
結果はもちろん両方とも未読無視。
まったく、薄情なやつらだ。
咲矢はしばらく母親との急激な温度差に耐え続けた。
その後、遅くなった姉妹は咲矢と全く同じ目に遭い、二人とも死んだ魚のような目で母親に抱きしめられていた。
咲矢はそんな2人をいい気味と言った感じの視線を送る。
どうやら、母は一足早い夏休みをもらったらしく、一週間は家に滞在すると言う。
言い換えれば地獄が一週間。
べつに母親が嫌いなわけではないが、温度差、無駄なスキンシップ、家の外での常識が外れた行動。
その他、ツッコミたくなる言動は三崎三姉弟の精神をすり減らすのだ。
「夢流ちゃん、またおっぱい大きくなっタ?」
「う、うん。まぁね。離れてくれないかな、母さん」
「あぁ、ごめんネ。立江ちゃんも身長高くなったネ!」
「あ、ありがとう」
「さぁ! 明日は家族みんなでお出かけヨ!」
「「「え…」」」
一人でウキウキして右腕を高く掲げている母親を様々な感情を抱いた目で見つめる3人であった。
5話いかがだったでしょうか、新キャラを出してみました!
これからも頑張っていきますので、ブクマ、評価や感想をいただけたら幸せです!
よろしくお願いします!