4話
毎日ありがとうございます!
本日もよろしくお願いします、
「はあ、色々大変だなぁ」
「何が?」
「いたのか、新屋」
咲矢の独り言を拾ったのは高校からの友人の新屋だった。
いつも通り近くの席から椅子を引っ張ってきて座っている。
「気づけや」
「見たくないもんで…」
「お前ってやつは…ただでさえ少ない友達すら大事に出来ないのか…」
別に嫌いではないが咲矢は自分と絡んでいることで新屋のイメージに及ぼす影響を気にしていた。
「お前だって友達はいるだろ? たくさん」
「お前も含めてな? …それがどうした?」
「…いや、なんでもない」
こいつならそんな事も気にしなさそうだと思った咲矢。
ほんとうにいい友達を持ったと思う。
「テスト明けさ、お前、予定あるか?」
「親が帰ってくる」
「! …が、頑張れよ」
何かを察して気を使ってくれる新屋。
新屋も一回だけ母に会ったことがあると思うが、その記憶は根強く新屋の中に残っているようだ。
「ありがとうな」
その日、咲矢はいつもと比べて勉強に集中できた。
次の日、咲矢は今日も雑念を捨てて勉強に勤しむ。
テスト前日、咲矢、否、三崎家の緊張感は色んな意味で限界に達していた。
一つはテスト。もう一つは『母親』の帰還。
特に夢流は母親には少しトラウマに近い思い出があるらしく、あまり帰りをよく思っていない。
そして迎えたテスト当日。
現代文、数II、家庭が1日目の科目。
どれも授業の内容はしっかり聞いていたので心配と言う心配はないのだが、応用問題は捨てるのが賢明だろう。とにかくわかるところだけ正確に。
次の日は英語表現、古典B、。
どちらも暗記科目。それなりに点は取れる科目なので、流す気持ちで取り組む。
最終日はコミュニケーション英語、物理基礎、選択科目の三教科。
ここまで来ると1日目以上の集中力で取り組むことができる。
ちなみに選択科目はビジネス実務。社会における礼儀や作法の学習だ。
楽そうなので選んだ、と言うのが咲矢の本音。
最終日は保健体育のみ。
まぁ、男子高校生なら問題ないだろう。という甘い考えで取り組む。
テスト終了のチャイムが鳴ると、他の生徒達から脱力の声が漏れる。
その日は先生方の採点作業の影響で午前授業だけとなった。
咲矢は早く帰って休もうと、群れる学生の脇を通って行く。
下駄箱に差し掛かった時、
「ん…?」
「あ、咲矢…」
咲矢と同じく帰ろうとしていた巴と鉢合わせる。
「帰りか? 部活はどうした?」
「部長の気分で休み」
「適当だな…だいぶ」
剣道部にしてはだいぶ士気が無いようで。
気づけば二人は当たり前のように一緒に正門を出ていた。
「今日なんだけどさ、楓の迎え行きたいから寄り道するね?」
「構わないよ。でも迎えなんて珍しいな」
「あ、あぁ、準備があるんだよね…あの人が明日帰って来るから…」
巴は暗い顔をして言った言葉に、咲矢も「お前ん家もかぁ」と言って頭を抱える。
「咲矢の家もお母さん帰って来るんだ。大変だね、お互い…」
巴が怯えている人物とは、彼女の父親なのだが、これがまた事情を抱えたひとで、「三崎」とどこか似ている人物。
二人は小田原駅行きのバスに乗り、揺られる事10分。
本来ならそこで電車に乗るのだが、二人は電車には乗らずに線路沿いを歩き始める。
「久しぶりだなこの道」
小田原駅から小田急経由の足柄駅までの道のりを徒歩で進んで行くと丁度10分くらいの地点、駅と駅の間あたりに木の内小学校という小学校がある。
時間も時間なので咲矢達の周りには下校中の小学生がたくさんいた。
「なんか沢山いるな」
「獲物が?」
「そうそう…って、やめろ!」
しばらくして正門に着くと、見知った女子児童がこちらを見つけるなり駆け寄ってきた。
「おかえりなさい! お姉ちゃん! 咲矢お兄ちゃん!」
「うん、ただいま、楓…」
巴の腹に頭から突っ込む楓。
なんだか戦闘漫画でよく見るな、こういうシーン。「貫け!」とか言ってそう。
「おふっ!」
巴は痛みに耐えながらも楓の頭を撫で回す。
「むふふふー」
「さ、帰ろ?」
巴が、楓の手を握ったその時、
「じゃあなー楓ー!」
若々しい男子児童の声。
「またねー! 剣得くん!」
楓は振り返ってその男子に大きくてをふった。
「なんだ? もう彼氏ができたのか?」
「ち、違いますよ! もぉ、咲矢お兄ちゃん!」
楓は恥ずかしそうに頰を膨らませて咲矢を威嚇した。
咲矢にはそれも天使に見えていたが。
「可愛い…」
「どうした? 咲矢」
なんだか和む雰囲気に浸っていると、楓を挟んで隣にいる巴から冷凍光線張りの視線をもらい、すぐに目を逸らす。
「な、なんでもない」
神野姉妹とは、家の手前で別れた。どうやら母親に買出しを頼まれているらしく、仲良く手を繋いで去って行った。
知らない人から見てもあの2人は仲良しに見えると思う。
「ほんと、互いにシスコンだな。あの姉妹」
咲矢も家に帰り、制服を着替えてジャージ姿になるとテストの疲れを癒すためにソファに横になって目を閉じた。
「ん…静かだ…」
その昼下がりの静寂も後二日ほどで壊されるとなると心苦しい。
と考えていた矢先、静寂を咲矢の携帯のバイブ音が壊す。
「?」
『遅くなります』
立江からのショートメール。
「まぁ、連絡して来るだけマシか」
『あまり遅くなるなよ』
テスト終わり、立江も友達と遊びたいのだろう。
それを考えて、咲矢はあえて早く帰る事を促さなかった。
明日は土曜、特に予定もない。
今は寝よう。疲れを癒すために。
その時、インターホンの音が再び咲矢の邪魔をする。
「今度はなんだよ」
若干の苛立ちを抱きながら玄関の扉を開けると、そこには申し訳なさそうに巴が立っていた。
「巴…?」
「さ、咲矢…あの、家に来てくれる?」
「え?」
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