3話
こんばんは、今日もよろしくお願いします。
ほかの人の小説を読んでいて、ちゃんと文章になっているのに憧れます。
翌朝、咲矢が家を出ると、近所の小学生が咲矢の前を登校班を作って通り過ぎていった。
その際に咲矢のことを知っている子供数人が挨拶してくれた。
「おはよう、みんな」
「あんたって本当に子供にはモテるのね…」
「そんな事ねぇよ…ってうわぁ!? 巴!?」
「何よ朝から変な声出して…」
「いや、なんでもない」
咲矢は素っ気ない感じで歩き始めた。
「何よ…」
巴は咲矢の後を膨れっ面で追いかける。
「やっぱりお前、付き合ってるよな…」
学校に着くなり、新屋にそんなことを言われた。
「あー? まだそんなこと言ってんのか…」
「いやぁ、だってマジで毎日一緒に来るじゃん」
「だから前も言ったけど近所なんだって」
「の割には仲がよろしすぎるようで…」
「幼馴染なので…てか、なんでお前はそこまで巴を気にするんだよ…」
「いや別に、気になるだけだよ」
謎だ。
新屋レベルのイケメンになれば彼女の一人や二人以上、いてもおかしくはないと思うのだが…。
その時、咲矢の感の鋭さが、無いはずなのに働いた。
…こいつ…巴の事…。
だとしたら、大変だ。
ルックス、学力、人気度、人間性、その他の評価科目が咲矢を完全に上回っている。
そんな誰もが羨むであろう物件が巴を狙っているとしたら咲矢に望みはないかもしれない。
頭がぼーっとする。
テスト週間なのに…。
「あぁ…まじかぁ…」
「さーく」
昼休み、いつものベストプレイスで一人、食事を摂っていると後ろから頭を小突かれる。
「夢流姉…」
「本当に寂しいやつだね…」
「お互い様だろ」
「私は舎弟が何人かいるから…」
なんだかとんでもないことを言っているようだが、咲矢には突っ込む余裕すらなかった。
「はぁ」
「ため息なんかついちゃって…悩み事?」
「別に…」
夢流に相談に乗ってもらうわけにはいかない。
相談してしまえば、また大変なことになってしまう。
「まぁ、困った事があったら言ってね? 私、お姉ちゃんだし」
「うん、ありがとう」
その時、昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
「じゃ、戻るな。夢流姉もちゃんと戻りなよ」
「言われなくても…」
「そう…じゃあね」
夢流は不真面目な性格ではあるが、咲矢や立江の事になると真面目になってくれる。
そんな姉の事は嫌いじゃないし、むしろ好きだ。
咲矢のこの想いとは裏腹に夢流に想いは咲矢の想像をはるかに超えているのだろう。
結果として咲矢が置き去りになっている状況が出来上がっているわけだ。
確かにこの世において家族より大事な物は巴を除いて他に無い。
だが、恋愛対象となると、話はまた違ってくる。
夢を見た。
姉が頑張っている姿。
自分のために体をボロボロにしてまで戦い続ける痛ましくて、勇敢で、自分が情けなくなる夢。
朝、咲矢を眠りから引き戻したのはまた寝苦しさだった。
「さーく…おはよ」
「ん…ん?」
聞き慣れた姉の声。だがなんだか色っぽい。
「夢流…姉…」
暑苦しい。
そして甘い匂いと甘い空気。頭がおかしくなりそう。
「っ!! 夢流姉!?」
咲矢は反射的に起き上がった。
「な、なんで…」
「立江ばっかずるい…。まだ立江は寝てるからさ、少し騒いでも大丈夫だよね」
夢流はそう言って咲矢を押し倒して体の主導権を奪ってくる。
細い腕からは予想もできない力で体を押さえつけられる。
その際はだけた胸元に目線が行ってしまう。瞬間、姉を一人の女性として見てしまった。
「私…もう我慢できないみたい…。咲矢も…いいんだよ…? 触っても…」
夢流は強く握った手で、咲矢の右腕を自分の胸に持っていく。
「…いや…ダメだ!!」
咲矢は、やっと入るようになった力を振り絞って夢流の拘束を解く。
「!?」
「ダメだ、絶対に…!! っ!」
我に返った咲矢は暗くなった夢流の表情を目の当たりにする。
「…い、いや、夢流姉…これは」
「…いや、こっちこそごめん…驚かせちゃったよね…」
夢流も我に帰ったのか顔を赤くして俯いてしまった。
「んーー…うるさいなー…」
その時、咲矢の部屋のドアが開き、眠そうに怒りながら立江が入って来た。
「立江…?」
「あれ、姉ーね、兄ーに、何してんの…。てか、特に兄ーに…?」
生気の無い冷たい目で咲矢を睨む立江。
「ま、またこれかよ…」
朝、昨日とは変わって今度は立江が機嫌悪そうに食事をしていた。
だが、立江だけではなく、夢流もどこか落ち込んでいる様子。
「り、立江?」
「なに」
「テスト勉強、大丈夫か?」
「別に、大丈夫だけど」
「そうか」
会話終了。
夢流とは違って立江の機嫌をとるのはなかなかハードルが高い。
大人な夢流は言えば理解してくれるが、思春期真っ最中の立江は何を言っても動じないし、逆効果になる恐れすらある。
学校にいるときも、立江の機嫌の取り方について考え、勉強なんか二の次だ。
放課後、いつも通り咲矢は学校には長居せずに一人足早に帰路に着いた。
「……んーー」
その時、後ろから軽くお尻を蹴られる。
こんな馴れ馴れしいことをして来るのは一人しかいない。
「新屋…」
「よっ」
いつも通り爽やかな顔で挨拶をしてくる新屋。
「部活は?」
「今日はバイトだから、帰らせてもらった」
「そうか。…そうだ、お前妹がいたよな…」
咲矢は唐突にそのことを思い出した。
「あぁ、いるけど? どうかした?」
「いや、ケンカした時ってどうしてんのかなーって」
新屋には中3の妹がいる。何か参考になるかもしれない。
「何、立江ちゃんと喧嘩でもしたの?」
「まぁな、てか、気安く『ちゃん』をつけるな…。『様』をつけなさい」
「へいへい、で? 立江様に何言っちゃったんだ?」
「いや、多分ヤキモチが空回って怒ってるんだと思うが」
「じゃあ簡単だよ。死ぬほど遊んでやれよ」
「遊ぶ?」
その後、新屋と別れ、いつも通り、螢田駅から家まで歩くと思いきや、咲矢は逆の方向へ進み始め、行きつけのスーパーに立ち寄った。
「あれ、三崎くん…テスト週間でしょ? 勉強は?」
顔見知りのおばさんに心配されてしまった。
無理もない、テスト休みをもらっているのに、お菓子を大量購入している咲矢を不審に思うのは仕方がない。
「いえ、気分転換です」
「そう」
家に着くと、玄関には立江の物と思われる制服が散乱していた。
咲矢はその制服を拾い上げ、軽くたたみ、立江の部屋まで運ぶ。
「立江、入るぞ」
返事はない。
ここはいつも通りなので気にはならない。
部屋に入るとこれもまたいつも通り、ヘッドホンで両耳を塞いでモニターと向き合っている立江の姿。
部屋には、キーボードを叩く音とクリック音だけが響いていた。
たまに立江の独り言も。
「立江、制服置いておくぞ」
「…」
聞こえるわけでもなし。
いつもならそこで咲矢は退室するのだが、今日はやることがあった。
「立江」
声には反応しないので。咲矢は立江の肩を叩いて振り向かせる。
「なに」
相変わらずゲーム中の立江の目線は鋭い。
それに一瞬見ただけですぐにゲームに向き直ってしまった。
「こっちを向けよ」
「あと10分待って」
咲矢はそう言われると、すぐ脇にあるベッドに腰をかける。
20分後。
「終わったよ」
「やっとか」
「雑魚が味方にいるお陰で延長までもつれ込んだ」
立江はヘッドホンを外して椅子を咲矢の方にひねって向けた。
「で? 用って?」
「いや、たまにはお前と遊んでやろうかなーって」
「結構です」
「即答かよ。まぁまぁ、お菓子かってきてやったから」
「なら遊ぶ」
そう、立江は楓と同じで割と食べ物に弱い。特にお菓子には目がなく、誘いは出費さえあれば簡単だ。
「よし、じゃあリビングで待ってろ」
問題はここからだ。
立江は依然として御機嫌斜め。
立江の機嫌を取れる有効な手段としてはゲームだが、デジタルゲームをやろうものなら立江を興じさせることなく惨敗してしまう。
咲矢には自ら有利に立てる土台を作る必要があった。
「で? 何やるの? 兄ーに」
「これだ」
咲矢は立江との間にあるテーブルに緑色に黒線が入ったオセロ盤を広げる。
「オセロ?」
「知らなかったとは思うが、俺はオセロだったら負けなしだぜ?」
「へー、まぁ、ゲームで勝てると思った自が墓標よ」
立江の目の色が瞬時に変わる。どうやらこちらの作戦に乗ったようだ。
対局を始めること30分。2人は咲矢が買ってきたお菓子を摘みながら石を並べて行く。
盤面は黒が割合を占めていた。
「ま、負けた…兄ーになんかに…」
「言ったろ? 俺は強いって」
「くく、面白い…。我をもっと興じさせよ! 雑種!!」
「雑種!?」
どこの英雄王だよ…。なんだか妹の中二病が再発症している気がするが…。
これはこれでテンションが上がっているので良しとする咲矢。
対局し続けること6時間。
二人にとっては気がつけば6時間。
「ダメだー…勝てないよぉー」
「まぁな、まだやるか?」
「のぞむとこ…」
ぐぅぅ
そんな音が立江のお腹から聞こえてきた。
さっきまでお菓子を馬鹿みたいに食べていたのに。流石、底なし胃袋と言ったところ。
「…お腹すいた」
「まじかよ。俺は腹減ってないけど、時間も時間だな…夢流姉はまだ帰ってないのか…」
時刻は夜9時。
咲矢に悪寒が走る。
夜ももう更けてきているのに帰ってこない夢流。
「最近、帰りが遅いな…夢流姉」
その日は先に風呂に入り、11時前まで夕飯を待ったが、メールを送っても返信がないのでインスタントラーメンで済ませることにした。
夢流を心配しながらも明日の学校を考えて家族しか知らない鍵の隠し場所である家の外のポストに鍵を入れ、戸締りをし、寝ようとしたその時。
家の電話に着信が入る。
「はい、三崎です。…っ!!」
翌朝。
咲矢を起こしたのは痛みだった。
「っがぁ!! 痛――!!」
「あ、起きた…」
「夢流姉!?」
「どした? 早く起きな?」
若干の懐かしさを感じながら上体を起こし、夢流を見上げる。
「いつ帰ってきたの?」
「んー、1時くらい?」
「何してたの…」
「野暮用」
咲矢の表情は眠気から、だんだん怒りを帯びていく。
「俺が言いたいことわかる?」
「わかるよ? けど…」
「わかるならやるんじゃねえよ…心配かけんな!」
声を荒げて夢流を睨む。
「…仕方ないじゃない」
小さい声でそういうと、夢流は俯いてしまった。
「…とにかく帰ってきてくれてよかった」
「うん、ごめん…。ご飯にしよう」
布団を出てリビングに行くと立江が鼻を抑えて座っていた。
「あ、兄ぃに、おはよー」
「おはよう」
数分で朝食が準備され、3人は定位置に座った。
「さて、少し報告がある…」
「「?」」
「来週、テスト明け…あの人が帰ってくる」
「「!!」」
姉妹の箸の動きは止まり、顔を引きつらせ始めた。
咲矢の放った一言で姉妹は理解したようだ。
昨夜、三崎家の電話に一本の着信があった。
「はい、三崎です…っ!! 母さん!? …うん分かった。伝えとく。じゃあ、がんばって」
その短い通話は姉弟3人を震撼させる内容だった。
母親が帰って来る、ただそれだけ。
その日を境に、三日後のテストへ向けて咲矢は勉強を本格的に始めた。
3話を読んでいただきありがとうございました。
自分も集中力に自信がないため、誤字があるかもです。もし見かけたら教えてくれるとありがたいです。
本日もありがとうございました。