20話
こんにちは! 今日もよろしくお願いします!
最近寒いので皆さんもお体に気をつけてください!
翌朝。咲矢の心は一層に気強く、そして硬い決心を持って目覚めることができた。
「自身の再確認って大事だな」
「どんな独り言?」
「聞いてたのかよ…ってうわぁっ!! な、なんでここで寝てるんだよ!!」
タオルケットをめくると、下着姿と、あられもない姿で咲矢の隣で寝ていた立江の姿があった。
立江は「寒い」と言わんばかりに体を丸めた。
「寒っ。今はここが立江の部屋だよぉ」
立江のこと通り、咲矢の部屋は寒かった。
様子がおかしいと思ったらそこは自分の部屋だったのだ。
いつもなら、立江の部屋で寝ているのだが、昨日はうっかり自分の部屋で寝てしまったようだ。
「あ? まじか、すまん。っていうかお前もエアコン回しすぎだ」
と、立江の頭頂部に手刀を落とす。
「いてっ…」
「さてと…今日も…ん?」
その時、咲矢の携帯が低い音を立てて振動していることに気がつく。
咲矢は携帯を手に取り、メッセージを確認する。
「真希奈さん?」
メッセージは真希奈と新屋からのものだった。
『新情報』
『メルちゃんが咲矢くんに決闘を申し込むってさ』
『あっくんが言ってた』
『先輩から聞いたけど、お前、喧嘩売られてんぞ大丈夫か?』
どちらも同じような内容だった。
同じ名前を使って暴れまわっている人の話を聞けば、気になるのは向こうも同じということだ。
「…」
「兄ーに? どうしたの?」
「ちょっと…な」
「ちょっと?」
「夢流姉とケンカしてくる」
そう言って出て行ったわけだが、真希奈からの追伸によると、『テメエの思う場所に来い』だそうなので、これまたひねくれた問題を出されてしまった。
咲矢は先に協力してくれた真希奈と新屋、そして朝日にはしっかり礼と、これからどうするのかを伝え、咲矢は歩き出す。
「俺の思う場所…か…」
咲矢には心当たりがあった。
「…あそこしか無い…かな」
咲矢が向かったのは今年の春、夢流に告白された場所。
咲矢たちが通う高校の裏にある海。
「…なんだかんだで久しぶりだな…」
前に行った湯河原手前の海は人の気配があったが、こちらは学校が近いにもかかわらず、人の気配は少ない。
ダメ元で訪れた場所だ。
「…」
静かな風と波の音が何度も繰り替えされ、おまけに空を覆う厚い雲は冷たく、夏とは思えないほど風景は冷たかった。
咲矢の目の前にいる、一人の少女も含めて。
「…」
「…来たんだ…」
そう小さな声で言って振り返っては凍てつくような目線でこちらを見つめて来た。
咲矢はそれに構うことなく夢流のもとへと歩みよる。
距離は直線で約15メートル。
「なんだ、来たんだ」
今度は聞こえるように話しかけて来た。
「別に来なくても良かったのに」
つぎは皮肉たっぷりの表情で悪者らしく。
だが、咲矢は歩みを止めない。
夢流との距離が徐々に縮まって行く。
「あんな挑発に乗るなんて馬鹿みたい」
距離にして5メートル。
「なんだよ! 言い返してみろよ! お前に私の何がわかんだよ!!」
怒りを投げつけれた。
2メートル。
「お前なんか!」
咲矢は残りの距離分の助走をつけて夢流の頰を右の拳で捉えた。
「ぶっ!!」
夢流は後ずさりをして固まる。だが、咲矢はそんなのを関係なしに夢流の胸ぐらを掴み上げた。
女に暴力を振るう最低男になろうがなんだろうが知ったことでは無い。
咲矢は昔の『悪ガキになった三崎 咲矢』に喧嘩を売っただけだ。
「…テメエか、俺の名で遊んでるやつは」
「!?」
夢流は一瞬面食らった表情をする。咲矢は胸ぐらを離し、少し距離をとった。
「…いいぜ。お前が俺の名前を欲しがるならくれてやるよ…」
「な、何言って…」
「俺に勝ってみろよ!! 三崎 咲矢!!」
「!!」
その言葉に夢流の体は反応し、いつもの姉とは違う、獲物を狩る狼のような目で咲矢を捉えた。
「…面白い…オレに喧嘩売るとはいい度胸じゃねえか」
口調も完全に不良モード。
咲矢の作戦に乗っかって一人称を『オレ』にしてることも、夢流が咲矢や、立江を守るために強くなり、やがてその強さを制御できずに暴走し、必要以上に戦って後戻りできなくなったことも知っている。
そして、咲矢に迷惑をかけ、後戻りできなくなってしまったことも。
今、夢流は苦しんでいる。苦しみの正体こそわからないが、咲矢にはわかる。
「来…」
『来い』と発音する前に夢流の咲矢の体はきりもみ回転をしながら吹き飛んでいた。
「!?」
ただ混乱した。
気がつけば咲矢の体は地面に転がり、身体中に痛みが走る。
「…っ!! …!?」
痛みを感じる隙もなく、夢流の追撃の蹴りは咲矢の腹を捉えた。
「グフっ!!」
咲矢の体は軽々しく転がり、あっという間に喧嘩の主導権を握られてしまう。
「おいおい、なんだよ口だけかよ…」
「…ま、まさか…。仕返しにしちゃ、ちょいと軽いんじゃないか?」
と、言いつつも震える腕で支えながら立ち上がる咲矢。
一瞬目の前が真っ白になる程の衝撃だった。
痛みを押し殺して、『学生戦争の覇者』を立ち振る舞う。
「テメエこそ、もう終わりじゃねえよな?」
会話は無用と言わんばかりに、夢流は応答せずに突進して来る。
スピード、技術、そして情けないことに筋力まで夢流の方が完全に上回っている。
自分より細身で低身長の、しかも女性に吹き飛ばされるのは不思議でならない。
「…」
「…ぶっ!! ゲフっ!! がはっ!!」
一方的に痛めつけれる咲矢。
別に夢流が女だからとか、姉だから反撃しないとかでは無い。
ただ純粋に隙が無い。攻撃は最大の防御という言葉をうまく使いながら戦っている。
「はぁ…はぁ…うっ!!!!」
結局、最後に良いのを入れられてKO。
咲矢の体は力を失ってその場に倒れこむ。
「…まあ、サンドバッグにはなったよ。もう、関わらない方がいいよ。咲矢の名前使ったことは謝る。これからは私の名前を」
「まだ! 終わって…ねえ!!」
「!」
咲矢は立ち上がった。
咲矢を突き動かすものは何かはわからない。ただ、失いたく無い
それだけ。
咲矢の頭の中で泣いている夢流の姿が消えない。
「ごめんね」と何回も泣きながら謝り続ける夢流の姿。
『私…強くなるからね』
そんなことも言われたような気がする。
痛みのせいで記憶が曖昧になってきた。
「はぁ…はぁ…来い!!」
声が裏返った事はこの際どうでもいい。
その後のことはよく覚えていない。
夢流にタコ殴りにされている事だけはよく覚えている。
「はぁ…はぁ…ま、まだ立つの…?」
「ゼエ…ゼエ…なんだよ…もうスタミナ切れか…?」
スタミナ切れは咲矢の方だ。
体はすでに痛みを感じなくなっている。
立っていられることがすでにおかしい状況。
「うっ…」
その時だった。
咲矢の体はついに限界を迎え、跪いてしまった。
「咲矢!?」
「まだ…だ…。俺は…夢流姉を助け…たい…」
「っ!!」
「帰って…来い…夢流姉…!!」
不意打ちかもしれないが、夢流の腹に潜り込ませるような一撃。
だが、手応えを感じられなくなるほど全身が麻痺しているのか、それとも完全に威力が無いのか。
おそらく後者の方だ。
「な、なんで? そこまでして…私は…ただ…咲矢に憧れて…」
「…」
「ずっと咲矢みたいになりたかった。咲矢に守ってもらわなくてもいいように…。強くなって、咲矢が認めてくれるように…」
「…」
「私…強くなったでしょ? だから、もう大丈夫だから。咲矢はもう休んでよ…」
「夢流姉…帰って来てくれ…」
「…私は…」
「俺が…夢流姉のしたいこと…全部手伝うから…! お願いだ…!」
夢流の服にしがみつく咲矢。生まれて初めての悪あがきをした。
「っ!」
今の咲矢、否、咲矢には夢流に勝てない。
そのことがわかっただけでも収穫だ。結局、拳で語り合うなど、咲矢には無謀なことだった。
届かなかっ…
「咲…うん、咲矢の言葉、届いたよ」
「…夢流…姉…」
予想外の言葉に咲矢の思考は止まった。
「ほ、ほんとに!?」
「う、うん。まあ」
「よ、よかったぁ…」
咲矢の腕から一気に力が抜け、そのまま体の力まで抜け、仰向けになる。
安心感と、今までの緊迫感からの解放による脱力。
「…なんか…よくわかんないけどさ…。やっぱり私、咲矢の事が大好きみたい」
夢流のその言葉を聞いて咲矢は無言で立ち上がり、夢流と対面する形になる。
「…」
咲矢も正直言って夢流のことは好きだ。でなければこんな真似なんかしない。
けど、答えられない事情がある。
「…夢流姉。夢流姉の気持ちはすごく嬉しい」
「うん」
「けど、俺、他に好きな奴がいるんだ」
「うん」
「ごめん」
「うん…。そっか、咲矢は意外と普通の男子してたんだ」
「…」
「私のせいで苦労してると思ってた」
「してるよ、苦労」
「…」
「学校では浮いてるし、教師からも間接的に警戒されてるし、何より友達も少ない。それに、夢流姉が俺のことを好きだから俺も、巴への想いに正直になれない」
「さ、最後のは私のせい?」
「まあ、一応」
「…な、なら私だって…咲矢のせいで姉としての面子丸つぶれだし!」
「俺のせいか!?」
「咲矢の事が大好きなせいで! …私…」
「っ!」
昼にはまだ早く朝には遅い時間。
夢流の頰を流れる一筋の光を登っていく太陽の光が照らした。
その光はやがて、流星群のように増えていく。
とめどなく、夢流の内に秘めているものを吐き出すかのように。
「なんで私を強くいさせてくれないのよ! 私は咲矢みたいに強くなりたいだけなのに…! どうして、こんなに…ダメになっちゃうかな…!」
夢流は悔いた表情を浮かべ、拳に力を入れる。
「咲矢に認めれたくて…ずっと頑張ってきた…! どんなに辛くても…!
悲しくても! …でも咲は振り向いてくれないから…」
「…」
「咲…私…どうすればよかったのかな…」
咲矢は弱気な顔をしている夢流に近づき、勢いよく抱きしめた。
「えっ!?」
「俺も同じ気持ちに決まってんだろ! 馬鹿姉!」
「っ!!」
「いっつも追いかけても離れていきやがって…! 夢流姉の事が好きなのに俺や立江を守る事で頭いっぱいの夢流姉はそばにいてくれない!」
「…」
「頑張りすぎなんだよこの馬鹿!」
「咲…」
夢流を抱きしめる腕に力が入る。
「俺も夢流姉の事は大好きだっ!!」
「っ! なんで…なんで振ったばかりの相手にまた告白するかなぁ…。…なんで咲はそんなに…私に…優しくしちゃうかなぁ」
夢流の体は震え始めた。
「なんでかなぁ…! うぅ…」
夢流は強気ではあるが、声は震え、嗚咽が混ざっている。
「家族だから…俺の大切な人だから」
「うわあぁぁん!!!!」
まるで子供みたいに、咲矢の胸の中で声を上げて泣く夢流。
そんな夢流の体を強く抱きしめ、「もう離さない」と咲矢は小さく囁く。
しばらくすると夢流の呼吸は落ち着きを取り戻した。
「大丈夫?」
夢流は無言で頷く。
「…さて、昼時だし何か食べて帰…」
「三崎ぃ!!」
このまま行けば綺麗にまとまって事件解決というところで阻まれる。
それが三崎 咲矢の性なのかもしれない。
咲矢と夢流が帰ろうとした時、数人の男の怒号が浜辺に響き渡った。
「あらら、咲って本当に付いてないね」
と、夢流は困った表情で笑う。
誰のせいだと思っているのだろうか。と、咲矢は言いそうになるが、ここはぐっと飲み込む。
「んじゃ、早速だけど咲! 手伝ってくれる?」
「! うん、わかった。そのかわりに約束通り家に帰ってきてもらうからね」
「わあってるって」
と、咲矢と夢流が準備体操を始めたところで数人の柄の悪い男たちがこちらに大声をあげて突進してきた。
「咲」
「ん?」
「大好きだよ」
その言葉を吐き捨てるように咲矢に伝えて来ると、咲矢を置いて男達に突進していった。
「…まったく…俺もだよ!! うおおおぉぉああ!!!!」
それからどのくらい時間が経ったのかはよくわからない。
次々と迫り来る不良達をなぎ倒し続け、咲矢も夢流も疲弊していった。主に空腹で。
「はぁ…はぁ…いつまで続けんだ…」
「はぁ…わかんない…取り敢えず、私はお昼カツ丼食べたい」
「いいね、決定」
「「「ナメんなゴルアァ!!!!」」」
「「うるせえ!! 雑魚どもぉ!!」」
負ける気がしない。
『学生戦争の覇者』とその弟だ。
どんなに束になってかかろうと負けるはずが
「…ぐわっ!!」
咲矢の後ろから夢流の苦鳴が聞こえ、振り返る。
「夢流姉!!」
咲矢が夢流を視界に捉えた時には夢流は砂浜にぐったりと横たわった状態だった。
「…!」
咲矢の内に自然と怒りが湧いて来る。
「…テメエ…」
男達はその覇気に怖気ついてのか、後ずさりしていく。
だが、様子がおかしいことに気がつく。
「…?」
誰も咲矢を見ていない。と、いうか視線を感じない。
「なんだよ…」
「う、うし…ろ」
直後、咲矢の背後に迫る猛烈な気配に気がつく。
「…!! しまっ!!」
咲矢が振り向くよりも早く首に強い衝撃が走り、咲矢の視界はぼやけ始め、意識が遠のいていく。
「…う…あ…」
「こいつは俺が貰って行くぞ…構わんな? …」
「…い…彩葉……さ…ん…」
夢を見た。
弱いと思っていた弟がいつの間にか強くなっていて、守られてしまった。
そんな悔しい夢。
だから強くなることに決めた。
振り向いて欲しくて、近くにいて欲しくて、ずっと見ていたくて…。
「…はっ!!」
夢流が勢いよく起き上がると、そこは三崎家の自室のベッドの上だった。
「はぁ…あれ…私…痛たた…首ぃ…」
右の首の付け根あたりが痛む。
おそらく何者かに殴られたせいだろう。
「起きたか」
声がして初めて部屋にいるもう一人の存在に気がついた。
「っ!! し、師匠!? な、なんで!」
夢流にとって師匠である神野 彩葉は母親の次に怖い存在だ。
密かにこれは悪い夢だと思い込むほうが楽だ。
「つか、ここ私の部屋! 変態!」
「うるせえ、近所迷惑だから騒ぐな」
「…首痛いんだけど…」
「知るか、油断しすぎだ」
「むぅー…。あっ、咲…咲矢は?」
「自室で寝てる。お礼を言っておけよ?」
「うん」
「巴と楓、あとはお世話になった人々にもな」
「え…」
「俺が何もしないで見ているだけだと思ったか?」
「み、見てたの? 私たちのこと…」
「いや、見てねえけど。興味ないし」
「んな!? どっちだよ」
「見たって分かんないしな。で? どうだったんだ?」
「どうって、なにが?」
「俺が教えた力は…どうだった」
「…正直…私にはあまりすぎた…」
「だろうな」
「わ、わかってた…の? こうなること」
「まぁ、視野には入れてあった」
「…師匠…私、どうすればよかったのかな…」
「知らないが、間違えだと思ったならそれは間違いだ。昔言ったはずだ。後悔だけはするな。と」
「…」
後悔。
咲矢に迷惑をかけて、学生戦争での高い地位を手に入れて、そして家族にも迷惑をかけた。
咲矢に思いを告げた。
自分の初めて芽生えた不思議な感情。
小学3年生の頃、夢流はまだ幼く、姉としての気持ちもまだ未熟だった時期。
夢流には悩みがあった。
綺麗な銀髪。小学生は他人と違うだけでそれをネタとし、心無い言葉で傷つけ合う。
自分との違いを認めるということを知らない魔の巣窟。
仕方のない事だが、その理不尽は夢流を容赦無く襲った。
どうしようもできない。逃れようものなら次は立江が餌食になってしまう。
悩みも打ち明けられず、一人で悩み続けていた時、彼は助けてくれた。
とある公園で今日もまた男子達から執拗なからかいを受けていた夢流を救ってくれたのは咲矢だった。
「夢流姉を馬鹿にすんなーー!!!!」
咲矢はそう叫んで大勢の上級生に一人で立ち向かった。
同じ日、ボロボロになった咲矢にどうしてそんなことをしたのかを尋ねてみても『だって、夢流姉が馬鹿にされんの見てるの嫌だし…家族だから当たり前じゃん』と当たり前のように笑った。
本人が当たり前に笑えるのだから覚えてすらないのだろう。
けど、その当たり前が夢流を救った。
そしてそれが夢流の初恋だった。
しかし、弟に守られることは姉の夢流として屈辱に近い感情を抱かせた。
弟に守られるなんて情けない。自分が惨めに感じる。
本当なら守らなけらばいけない人だ。
そんな感情がやがて夢流にとある決意を抱かせた。
『もう、咲矢に守られなくてもいいようにする! 私が咲矢を守る!』
そこからは早かった。
咲矢を抜かすことなんて容易かったし、周りにいる人間全員が雑魚に感じた。
しかし、その強さは夢流の中に虚無感を与えてしまった。
『このままでいいのか。最強になって咲矢との関係はどう変わった? 悪化した?』
『わからない。怖い。寂しい』
『私は咲矢の近くにいたい。認めてもらいたい。咲矢を…もっと、もっと近くに感じたい…』
「で? どうなんだ。後悔は?」
「してないって言ったら嘘になります」
「そうか。じゃあ、俺も後悔した。たった今な」
「え?」
「お前がそんなだったら俺が『学生戦争の覇者』とやらに成り代わった意味がないだろ」
「…? あ、あの? 言ってる意味が」
突然のことでついていけない。
成り代わった。そう言ったのだろうか。
「最強の称号を持つ三崎姉弟を一人で黙らせたんだ。当たり前だろ?」
「じゃ、じゃあ」
「弟子の尻拭いくらいならしてやる。…ま、師匠だしな。お前は胸張って咲矢君の姉をすれば良い」
彩葉はそう言って気恥ずかしそうに部屋から出て行った。
「……し、師匠…。ふふっ、ありがとう」
普段はあんなに冷徹な人が見せる人間の情に自然と笑いがこみ上げた。
夢流はベッドから降り、咲矢の部屋へ向かう。
咲矢の部屋のドアを開けると、咲矢が寝ているベッドの横で布巾を絞っている少女が目に入る。
後ろ姿を見ただけで誰かは判断がついた。
「…? 巴ちゃん? …咲矢を見てくれてたの? ありがとう」
「夢流さん…? あ、いえ…お父さんから言われて…。その…失礼します」
巴は水が入った丸い容器を抱えて夢流の横を通り過ぎ用としたので、夢流はとっさに呼び止める。
「あ、巴ちゃん」
「…は、はい」
「なんか、私のことで迷惑かけちゃったみたいだね…ごめん」
「…咲矢の頼みなので…き、協力はします…」
「うん。助かる。ありがとう」
「…では…」
巴の後ろ姿を見て夢流の中で一つの疑問が浮かぶ。夢流はそのまま口に出した。
「ねえ。咲矢の事は好き?」
20話を読んでいただきありがとうございます!
夢流には少し力を入れてみましたが、少し心情を表現するのが下手なのが目立ってしまいましたw
少し無理矢理なところがあるので分からないところがあれば補足したいと思いますのでお気軽にコメントをください!
ブクマ、評価や感想お待ちしております!




