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俺の姉妹は問題あり  作者: とぅるすけ
18/22

19話

こんにちは! 今日もよろしくおねがします!

16時投稿にはまだすこしなれていませんが、なるべく居間に自分の良いものを届けられる様に頑張ります!

応援よろしくお願いします!

翌朝も、咲矢は小田原市内を駆け回った。悪そうな奴に声をかけては夢流のことを『三崎』の名で脅しながら聞き出した。


「んー…。割とそれっぽい情報はあるんだけどなぁ…」


どれも的外れだったり、また別の女の人だったり、怯えられすぎて情報を引き出せなかったりでなかなか夢流に近づけている気がしない。


「はぁ…。三崎の名誉もクソもないな」


三崎の名を汚している割にはそれに見合った対価を得られていない気がする。

そんなある日だった。


「…ふあぁ…」


その日も情報収集を開始しようと、着替えている最中、咲矢の携帯の一本の連絡が入る。


「…新屋…?」


『最近三崎が噂になってるけど大丈夫か?』


「…」


言葉にはならなかったが、咲矢の中で「しまった。やりすぎた」という感情が飛び出した。


『先輩から三崎を名乗る奴が暴れているって情報が出たぞ』


暴れている訳ではないが、あながち間違っていないのでなんとも言えない。


『そうか』

『ありがとう』


その情報は自分のことだと確信した咲矢は落胆の意味を込めて返事をする。


『銀髪の女っていうし、お姉さんじゃないのか?』


「え? は?」


一瞬にして頭の中がひっくり返された気分だ。


『まじで?』


『うんまじで』


『なんか声をかけては「三崎 咲矢」だって言って喧嘩を売ってはボコボコにして消えるらしい』


『物騒だな』


何気ないように返事をしているが、その時点で、今、夢流が何をしているかがわかる。

だが、何のためにそのような事をしているのかが疑問だが。


『情報ありがとうな』

『ちなみに場所は?』


『秦野』


やっとまともな情報を手に入れた咲矢は少ない手持ちで急遽、秦野を目指し、小田急に乗った。

電車の中は朝という事もあって主に会社に行く人で混雑していた。

咲矢はそんなスーツ姿の人たちに揉まれながらも無事に乗り換え下車する駅である新松田にたどり着いた。

乗り換えと言っても皆、乗り換えるので地獄はここからなのだが。

結局、席取り合戦に敗北した咲矢はつり革を右手に握りしめ、秦野へ向かう。


「ぷはー!」


乗り物に弱い訳ではないが、人の群れに揉まれながら箱の中で揺すられるとまた格段と違う不快感がある。


「マジでやばかった」


いつも朝の電車では席を確保できている上に立ったの2駅なので気にはしていなかった。


「さて、調査開始と行きますか」


と、言っても咲矢には当てがないため、適当に悪そうな奴らがいる人目につかない路地などをほっつき歩くしか作戦はないのだが。


「にしても、昼間っからうろついてるのは俺くらいか…」


思わず、今日の秦野の路地裏は平和。と、心の中でつぶやいてしまう。

結局、誰とも出会わずに時間だけがすぎて行き、気づけば時刻は朝の8時から夕方の3時になっていた。


「そろそろ出てくるんじゃないか?」


咲矢は滞在していたファミレスから出て、再び路地裏を徘徊し始める。


「おい」


と、早速声をかけられ、どんなチャラい男が立っているのやら。と思いながら振り返った。


「え?」


容姿は至って普通、むしろしっかりしている大人。だが、それ以上になぜそんな人間がこのような路地裏、人目のつかないところにいるのか、疑問というよりは不気味さを感じる。


「君、こんなところで何をしている?」


話し方からして何か怒っているのか、テリトリーを汚されて気に障っているのか、感情が読み取れない。

だが、ここで小さく出てしまうといざという時に何かと困る。


「お前こそ何者だ」


取り敢えずいつも通り虚勢を張っておく。


「…? 驚いた…君、三崎かい?」


男は驚いた事に咲矢の顔を知っていた。


「!!」


「咲矢君だよね?」


「ま、マジで何者ですか?」


思わず不良キャラを引っ込めてしまった。


「ああ、ごめんごめん、俺は東海 朝日。真希奈の彼氏って言えばわかるかな?」


「マジすか?」


「うんマジマジ」


「…で、その彼氏さんが俺に何のようですか?」


朝日はニッコリと笑って「とりあえず移動しよう」と言って路地裏から秦野駅の正面にある大通りに沿うように流れている川の脇に設けられている長椅子に腰をかけてゆっくり話すことになった。


「君のことは真希奈と夢流から聞いているよ」


「そうですか。夢流姉とはどう言った関係…まあ察しはしますけど」


「夢流姉…か、なんだか家族を感じるなぁ。夢流とはライバル関係だったよ? まあ、結局は負けて舎弟になったんだけど…」


またとてつもない過去を聞いてしまった気がする。

夢流の強さは話を聞く限りだと無敵なのかと感じてしまう。


「でも、夢流は俺を蔑むようなことはしなかったのを覚えてる。俺なんか目もくれずに、もっと、遠くを見ているような、自分を磨き上げて行くような…そんな感じだったな、あの頃の夢流は…」


「あの、夢流姉は今どこに」


本題を切り出す。


「さぁね。でも、さっき君に声をかけて言おうとしたのは、この辺りで辻斬りまがいなことが起こってるから気を付けなよって言おうとしたんだけどね」


おそらく新屋から聞いた情報のことだろう。


「それって…」


「君も聞いてここまで来たんだろうけど、この辺りで夢流と思われる人物が『三崎』を名乗ってはボコして回ってるらしい」


新屋の言っていることど間違いなさそうだ。


「…」


「だから俺も俺の舎弟を使って調べてるんだけどね」


「すみません。なんだかうちの姉が面倒なことをしでかしてしまって」


「良いってことよ。あいつも俺の友達っていうか恩人みたいな人だし」


咲矢が思っている以上に夢流の行動力は高いらしい。

色々な人に迷惑をかけ、その上に協力をしてもらっていて、咲矢は頭が上がらない思いでいた。

朝日と別れ、秦野駅から小田急に乗った咲矢は家へ向かう。

行きと比べて車内は程よく空いていて、席取り合戦の勃発もなく、咲矢は席を獲得することができた。しかし、咲矢の頭の中は席を獲得した喜びなんかではなく、夢流への心配でいっぱいだった。


家に着くと立江がリビングで寝て出迎えてくれた。正確には出迎えてはいないが、部屋から出て来ている立江を見るだけで新鮮な気分になる。


「立江、起きろ」


「んー…」


「エアコン…19度って風邪引くだろ」


「兄ーに…」


「ん?」


「…寒い」


咲矢は立江が下敷きにしているエアコンのリモコンを救出し、エアコン本体へ向けて電源ボタンを押す。


「起きろ、晩飯だぞ」


「んあれ…? 兄ーに? 帰ってたんだ」


まだ寝ぼけている様子の立江を尻目に咲矢は台所に立つ。

冷蔵庫を開けてみれば、長ネギ、ベーコン、卵が目に入ったので、おまけのかまぼこを取り出して、チャーハンを作ることにした。

手軽に作れるので、立江が完全に上体を起こす前にテーブルに並べることができた。

作るのが早いのではなく、立江が起きるのが遅いだけなのだ。


「ほれ、早く食え」


チャーハン2人前をテーブルに並べると、その香ばしい匂いにつられたのか、立江は引きずられるようにテーブルの席に着いた。


「いただだきます…。って、兄ーに?」


「ん? どうした?」


「姉ーねは見つかりそう?」


「あぁ、手応えのある情報を手に入れたぞ」


「あっそ。でもほどほどにね」


立江は内容も聞かずにスマホの画面を咲矢に見せてきた。

そこには、『三崎とか言う奴怖すぎwww』と言うタイトルの下にいくつもの目撃情報が寄せられていて、ネット上ではネタとして扱われつつあるようだ。

ネタにされている時点で咲矢ということがわかる。

夢流であればしていることが傷害事件に匹敵するほか、ちゃんと相手を選んで襲っているのでネタにできない。


「まじか…」


「ただのイキリトじゃね…だって」


ネット用語はよく知らないが、煽られているのは間違いなさそうだ。


「どういう意味だ…」


「ま、とにかくこの掲示板にいいことは書いてないよ。ていうか、エゴサしてみれば良いじゃん。意外と自分でも知らない他人からの自分が知れるかもよ?」


「そういうもんか」


咲矢はその夜、ベットに寝そべって立江に言われたエゴサーチというものをやってみた。


「…うわ…ひどい言われようだな…」


『ただのバカで草つか、くだらねー』


『力こそパワーってか?wwwいつの時代だよ』


『学校で浮いてるの気づいてないのかな』


『マジで喧嘩強いのかなw』


『それな、ヒョロヒョロじゃねえか』


咲矢は途中で見るのをやめた。

こちら事情を知らない奴らが心の無い言葉のナイフを並べているだけなので気にしないことにした。


「まあ、全部俺のしたことだけどな…」


話は学生戦争の末期にまで遡る。

その頃の夢流はいつも隠してはいるが、新しい傷を作って帰ってきていた。

そしていつも家族とは会話の一つも交わさずに自室にこもってしまう。そんな日々が1年続いた。

咲矢が受験の季節を迎えたある春の日。


「咲…」


申し訳なさそうに、咲矢の部屋に入ってきては、怯えた様子で話しかけてきたのは夢流だった。

その時点で話すのは1年ぶりだった。


「咲に謝らなきゃいけないことがある」


受験を控えた弟がいるのに暴れまわった姉だ。『三崎』の面汚しにもほどがある。

咲矢は元々、いつかは謝ってもらうつもりではあったので、夢流から話しかけてくれたことによって多少は寛容になっていた。


「私…。私ね? 咲矢に迷惑…」


夢流の言葉は続かなかったが、咲矢にはその言葉の先を悟ることができた。「咲矢に迷惑をかけてしまった」このことが言いたいのだろう。

言葉を詰まらせてしまった夢流はその場に泣き崩れてしまった。

察するに、暴れまわったせいで変な勘違いをされてしまったのだろう。

女がこんなに強いわけがない。そんな偏見が三崎家唯一の男である咲矢に向けられたのだろう。

三崎=咲矢と。


「ごめん…なさい。ごめんなさい…」


夢流は掠れた声で何回も言葉を繰り返した。

咲矢に湧いてきた最初の感情は怒りだった。だが、それも一瞬のこと。

目の前で泣き崩れている夢流のことをなぜか悲しく、虚しく、可愛そうに思えた。


「…顔上げて? 俺は気にしないよ。たしかにそのせいで少しは受験の障害にはなっちゃうかもだけど、それで夢流姉が助かるなら俺は良い。謝ってくれたし」


咲矢の言葉を聞いた夢流は目を丸くしていた。


「今日から夢流姉は夢流。俺は夢流姉が残した咲矢として、頑張っていこう」


「…咲矢…っ…あ、ありがとう…ありがとう…!」


「そのかわり、いつか落ち着いた時に、夢流姉のこと全部教えてね」


そう言って、咲矢は夢流から『最強の不良』の名である三崎 咲矢として世間に振舞うことになった。

だが、咲矢も最近知ったことなのだが、幸いにも、咲矢たちが意識しているほど、「学生戦争」の存在は浸透してはいないようだ。きっかけになったのは新屋の反応だが。

咲矢自身、実質、夢流の身代わりになった訳であるが、後悔はしてない。

咲矢の夢でもあったからだ。姉の助けになることが。


19話を読んでいただきありがとうございます!

16時投稿のおかげか、少し読んでくれる方が増えた気がします! ありがとうございます!

ブクマや評価お待ちしております!


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