18話
こんにちは! 今日から投稿時間を勝手ながら返させていただきました。
毎日16時を目安に投稿していけたらなと思っております!
これからもよろしくお願いします!
「…安心しろ、すぐに連れ戻すさ」
そう言って今度は立江の頭を優しく撫でた。
とは、言ったものの、今日はの天気はこれから雨の予報だ。。今は降っていないが、朝から太陽の光は厚い雲に隠れていて暗い。
午前11時を回った時、雨は降りはじめ、あっという間に周りの音を支配してしまった。
まるで咲矢の意思を削ぐかのように、夢流への壁になるかのように、雨は激しく降り注いだ。
結局、その雨は記録的豪雨となり来る日も来る日も降り注いだ。
「今日も雨…か」
咲矢は今日も外に出れずに外を見ていた。こんな大雨の日に外に出ようとする人なんてあまりいないと思うが。
「あ、兄ーに」
外を見ていると、後ろから妹の立江の声がする。
「ん? どうした?」
「こ、雨地さんにお礼を言いたいんだけど…」
「メールすればいいじゃん」
と言うと、立江は俯いて咲矢から目線を外してしまった。
「…しい」
「ん? なんか言った?」
「…恥ずかしいの!」
と言って顔を赤くして咲矢を睨んでくる立江。
今のくだりで咲矢になんの非があるのか疑問に思ったが、なんだか立江が悩んでいるようなので相談に乗ることにした。
一応、立江が退院した時に小雨には連絡をしたのだが、2人では未だに話していないようだ。
「な、なんて言えばいいかな…」
「んーそうだな…、普通でいいんじゃないか?」
「え、普通?」
立江は少し驚いた表所を見せ、首を傾げた。
「うん、だって友達なんだろ? 普通でいいじゃん」
「友達ってわけじゃ…」
「違うのか?」
「んーー…」
立江ははっきり言えないのか、言っていいのか悩んでいるのかと言った感じで頭をひねっていた。
「とりあえず話してみろって」
「…わ、わかった…」
と言って小動物が走るような音を立てて自分の部屋に帰って行った。
以前とは違って今の立江はやる事ができて、楽しそうに見える。
「とりあえずは大丈夫かな」
咲矢の口からは安堵を意味するそんな言葉が漏れた。
その時、咲矢のポケットの入っている携帯が振動していることに気がつく。
「真希奈さん?」
振動の正体は真希奈からのメールの通知だった。
咲矢は早速文面を読む。
『突然ごめんね!』
『メルちゃんがいなくなっちゃった!』
「…」
一瞬時が止まった。
『現在接近している台風21号の影響により…』
TVから聞こえる男性アナウンサーの声と、外に降り注ぐ雨音が時の止まった咲矢の中に響く。
「…まじか」
と、言葉に出しつつも、咲矢はこれを好機と捉えた。
情けない話し、咲矢が自分から夢流へのなんらかのアクションを起こすことができないためである。
とはいえ、探しに行かなくては話は始まらない。
真希奈から聞いた話しでは、夢流は寝ている隙に家を出てしまったようだ。
今回に限った話ではないが、夢流のしたいことや、目的、何をしているのか、弟の咲矢でも全く知らない。
とりあえず、雨の中、傘を差し、真希奈から直接話を聞きに行くために真希奈の家へ向かう。
小田急線新松田方面の電車に乗り、螢田駅から2駅の開成駅で下車する。
そこから田園風景が広がる道をまっすぐ行くと見えてくる住宅街の中にある家のインターホンを押す。
中から出てきたのは申し訳なさそうに咲矢から目線を外している一つ上の少女。里宮 真希奈だ。
「…夢流姉は…」
「…ごめん…これしか残されていなかった…」
真希奈は一枚の小さなメモ用紙を渡してきた。書かれていた文字は『ありがとう。』と、丁寧に書かれているだけだった。
「…すみません、うちの姉が迷惑をかけて…」
「ううん。メルちゃんがいなくなったのは私の責任でもあるから協力する」
「…ありがとうございます」
真希奈も真希奈で珍しく焦りの表情を見せている。
ということは彼女のイタズラとか、夢流の命令とかではなさそうだ。
これはいよいよまずい事態になってきてしまった。
今までは夢流の居場所を把握できていたから若干の安心を得られていたものの、夢流の居場所を正確に把握できなくなってしまった以上、また探しに行かなければならない。
「…じゃあ情報、お願いしますね」
「うん任せておいて。なんせ私の彼氏元『学生戦争』の一角のリーダーやってたから」
「っ!!」
とんでもない発言に咲矢は右足を一歩引く。
真希奈は申し訳なさそうにしながらとんでもない真実を伝えてきた。
「あははっ…そりゃあビビるよね…」
と、笑い声を上げるも、真希奈はあまり気分の良い表情をしていない。
『学生戦争』は真希奈にも影響を及ぼせていたようだ。
「…な、何かあったんですか?」
野暮とはわかりつつも、同じような立場として気になってしまった咲矢は尋ねてみる。真希奈の身に一体何があったのか。
どういった経緯で今の彼と出会ったのか。
「んー今は話したくないかな。とりあえずは君の想像に任せるよ」
真希奈は以前、笑顔で何かを隠した。
「そうですか」
真希奈のことも気にはなるが、今は、真希奈のことよりも夢流の方が優先だ。
「…まずは新屋を頼ってみるか…」
帰り道、真希奈の家から開成駅までの道のり、咲矢は携帯の画面に終始、目を落としながら歩いていた。
幸い車通りの少ない道だったのであまり気にはならなかったが、やはり足元はおぼつかない。
『姉のことで何か情報はないか?』
『? どうした? 急に』
『いや、先輩の彼女さん家から消えた』
『まじか』
『まじだ』
『わかった。色々聞いてみるよ』
『聞いて驚くなよ? 俺の先輩、学生戦争の経験者だったぞ』
『それさっき聞いた』
『んだよ』
『悪いな、俺も頑張るからもう少しだけ情報提供に協力してくれ』
『任せておけ』
家に着くと、悪いとは思いつつも、手がかりのために夢流の部屋の中に入る。
立江の部屋とは対照的でベッドと机、それとクローゼット以外何もない。寂しい部屋だ。
「…」
まずは机の中からだが、あったのは筋トレ用の小さい道具や文房具だけ。
クローゼットも同じように日用品が敷き詰めれているだけだった。
「はぁ…」
「兄ーに何やってるの…?」
「!?」
突如、背後から呼ばれて飛ぶように起き上がる。
「…な、なんだ立江か…」
「姉ーねの部屋で何やってるの?」
「いや、手がかりを探して…た」
「手がかり?」
「…まあな」
ここで咲矢は悩んだ。立江に全て教えるべきなのか、まだ隠しておくべきなのか。
と、いうよりは、教える必要があるか否か。
「…兄ーに?」
考え事をしていると立江が半ば呆れたような目でこちらを睨んできていることに気がつく。
「また、立江に隠し事してない?」
立江の質問は鋭く、核心をつく。
「…」
咲矢の沈黙は立江にとっての答えになってしまった。
「やっぱり…何があったの?」
咲矢は全てを話した。夢流に何があったのか、そして立江以外に咲矢に思いを寄せている人物たちのことを。
「兄ーにってモテるんだね。以外」
「失敬な」
「友達すらいないくせに」
「それはお前もだろ!」
「小雨ちゃんがいますぅ!!」
「お」
「? なによ」
咲矢はそれ以上何も言わなかったが、妹の問題が解決したことを実感できて1人で感動する。
「いや、成長したんだなって」
「…兄ーにキモいよ」
「この愛い奴め」
立江の頭を軽く撫でたところで、立江いじりを止め、手がかりの捜索を再開する。
「むぅー…」
「立江も手伝ってくれるか?」
「まぁ…姉ーねのためだから」
と言って、立江は下着ゾーンを担当してくれた。
「なにか、目印とかないの? ノートとか…。何を探せばいいかわかんないよ」
「それもそうだな…。夢流姉は日記とか付けてないのかな?」
「あ、それなら知ってるよ?」
「まじか! 助かる」
立江は夢流のベッドの下からお菓子が入っているようなアルミ製の四角い箱を取り出して咲矢に渡してきた。
「これは?」
「宝箱じゃない?」
咲矢は立江から受け取った箱をゆっくり開け、中身を確認する。
「これが日記か?」
中には一冊の大学ノートが入っているだけだった。
咲矢はそのノートを手に取り内容を確認する。
どうやら毎日一行から二行の簡単な日記をつけていたようだ。
『4月1日 今日から三年生。立江も同じ高校に入学できてよかった。日記をつけるのは久しぶりだけど続くように頑張る!!』
『4月2日 姉として2人の面倒は見なきゃいけないけど、正直あまり自信はない』
『4月3日 前の友達からケンカの助っ人を頼まれた。けど2人のためにも参加はしない方が良さそう』
そこから日記は少し日付が飛んでいた。
『4月15日 しばらく日記をつけれていなかった。まるで三日坊主だ。結局私は喧嘩に巻き込まれた。でも、このことは2人にバレないようにしなきゃ。』
『4月16日 最近疲れが出てきた。無性にイライラする。だから気に入らない奴を殴った。けど、悪いことをした。』
『4月17日 なんだろう。気持ち悪い。喧嘩の後に咲矢を見ると心が落ち着いてしまう。わからない。今回だけじゃない。いつも、咲矢を見ていると冷静になれたり心が安らいだりする。気持ち悪い。』
『4月18日 真希奈と映画を見に行った。主演の人の名前はわからないけど咲矢に少し似ていてなんだかやる気のない顔をしていたことは覚えている。今度咲矢も誘(消えていて読めない)』
『4月19日 今日はずっと咲矢と話していた。すごく幸せだった。明日は咲矢
バイトだから今日みたいに話しができないから不安。』
『我慢できなかった。咲矢とずっともっといっしょにいたいその一心で思いを告げ(文字が滲んでうまく読めない)』
『6月1日 しばらく開いてしまったけどもう一回書こうと思う。主に咲矢の観察日記としてだけど。』
そこから怖くなり咲矢は静かにノートを閉じた。
「あれ? その先は? 読まないの?」
「え、ああ、怖いからな」
身に覚えのある咲矢には身の毛もよだつ内容であることは間違い無さそうだ。
とはいえ、何か情報を得られたわけでもなく、ただ単に夢流の生活や咲矢と立江に伏せられていた出来事を知ることができた。
「一人で戦ってたのか…」
「…姉ーね…立江達を巻き込まないようにしてたんだ…」
「「バカだね」」
そこは立江と同意見だったようだ。
だが、夢流の居場所がわからない以上、打つ手はないことには変わりはない。
「これからどうするの? 兄ーに?」
「…明日から探しにでも行くか」
「立江も…」
「立江は家にいてくれ、何かとややこしくなる」
「むぅー。まぁいいけど」
翌朝、咲矢は朝早くに家を出た。向かうは小田原城から南西の方角にある早川の海。夢流がよく好んで訪れると言われている場所だ。
どこかのホテルに泊まっているかもしれないし、野宿をしているかもしれない。
ほんとうに情報が無いのだ。
かと言って警察に連絡をとってしまえば、中は険悪になってしまう一方だろう。
「ったく、どこにいるんだか…」
朝の静かな空気と、心地よい潮風はとても気持ちいい。
たしかに夢流が好むのも頷ける気がする。
朝のジョギングをしているおじさん、散歩に連れ出されている犬。その全てが今の咲矢には綺麗なものに見えた。
「いい場所だな」
「おい…テメェ、三崎だな?」
今のような柄の悪い声さえ聞こえなければだが。
咲矢が振り返ると、金髪、茶髪、緑、赤…と、色とりどりの髪の色をした5、6人が立っていた。
戦隊モノの真似事だろうか。と、咲矢は率直に思った。
「人違いです」
咲矢は適当に拒否をしておく。厄介なことになったら面倒だ。
「…な訳ねえだろ!」
厄介なことになった。
咲矢の目論見も虚しく敗れ去り、男たちは迫ってくる。
これでは夢流探しどころではなくなってしまう。
だが、咲矢には今までもやってきたとある手がある。
「…はぁ。テメェら覚悟できてんだろうな…」
そう。それは完全に『学生戦争の覇者になりきる』こと。
「「っ!」」
こうやって言葉をそれっぽく言い放つでけで大抵の不良でもその他一般市民でも一歩引いて恐怖を覚える。
噂というのは凄まじい力を持っていると、改めて実感した。
「朝から病院のお世話になるか? あ?」
やりすぎくらいがちょうどいい。
だが、この手が通用しなくても今の咲矢なら喧嘩で負けることはないだろう。
「…構わない方がいいぞ。あ、そうだ、一つ聞いてもいいか?」
少し声をかけただけで戦意を喪失しているようだったので、夢流のことを少し聞いて見ることにした。
「この辺りで銀髪の女、見なかったか?」
「い、いえ…見てないです…」
変わりようが凄まじい。
「そうか、今日はお前ら、家に帰れ」
今のが咲矢流の決め台詞。割と気に入っている。
不良たちが尻尾を巻いて逃げて行くのを見て、深く深呼吸をした。
「はぁ…」
うまく行っている作戦であるとは言え、本物の不良相手だと流石に緊張する。
「ん?」
しかし、咲矢はそこで閃いた。
「あいつらみたいな奴に聞き出せばいいのでは?」
18話を読んでいただきありがとうございます!
最近少し伸び悩んでいる事を自覚しています。なので工夫を凝らして時間をズラしたり、手動で投稿したりして見ることにしてみました! 他にもいい方法があったら是非お聞かせください!
これからもよろしくおねがいします! ブクマや評価、感想お待ちしております!




