15話
こんにちは! 今日もよろしくお願いします!
年末の忙しい中でも読んでいただき幸せです!
私事ですが、年末の29、30、31は投稿を休ませていただきます。
一月の一日に、新年の挨拶も兼ねて投稿を開始させていただきますのでまたお願いします!
夢を見た。
降りかかる不良たちをなぎ倒し、自分を傷だらけにしながらも守ってくれる姉の姿。
頼もしくて、自分が情けなくて、どこか悲しい夢。
『咲矢は! 私が守る!!』
そんな事…前に言われた記憶が…あるような…無いような…。
あれ、その後…、俺なんて言ったんだっけ…。
やがて、咲矢の意識はげんじつに引き戻される。
翌朝、咲矢の憂鬱は晴れず。
「…さて…小雨さんからの返信は無し。既読すらつかない」
咲矢は今自分に出来る事を考えた。
立江と連絡を取ろうにも完全に拒絶されている。声かけをしても何も答えてくれない。だからと言ってしつこく呼びかけるのは逆効果だろう。
唯一の手段の小雨でさえ撃沈してしまった。
夢流には会う事ができる。問題は話が通じるかどうか。
それ以外にも咲矢は真希奈のことがどうも苦手というか、話しをしていて疲れるというか。
とりあえず咲矢は仕方ないので真希奈に連絡をする。
『夢流姉はどうですか? 変わりありませんか?』
すると、数分足らずで返信が返ってきた。
『お姉ちゃんのことがそんなに心配かにゃ?』
「う、うぜぇ…」
忘れていた。彼女のもう一つの問題。それは三崎家の問題を軽視していること。
『いいえ、家族なので気になるだけです』
『あっそ。変わりないよー、メルちゃん寝顔が可愛い!』
という返信の後に写真が送られてきた。
夢流の寝顔が中心の写真だが、なぜか真希奈もツーショットを狙うかのように入り込んでいる。
『2人の朝♡』
「…」
夢流が変わりなく真希奈の家に泊まっていることがわかったので、最後のメッセージはスルーする。
「…なんだろ…腹が痛いな」
内側が痛いというよりは外側に痛みを感じる。
咲矢が服をめくると、風呂に入った時には気づかなかった痣がちょうど溝のあたりに出来ていた。
「…あぁ、あの時か…」
昨日の夜。
ふたりの不良に絡まれ、一発もらってしまった時に出来た痣だ。
「…はぁ…」
咲矢はおもむろに冷蔵庫の中を確認する。
醤油、卵と牛乳が切れていた。
「…ちっ」
咲矢は無意識に湧いた苛立ちを誤魔化すように着替えて外に出た。
向かうのは徒歩15分のスーパー。
「あら、三崎くん。買い物?」
「あ、どうも…色々切らしてたんで」
「偉いねぇ」
帰り道。ちょうど家から数メートルの所で大根が突き出たバッグを重そうに持って前を歩く少女が見える。
「楓ー」
咲矢はその少女が楓だと判断すると、声をかけた。
楓は振り向いて咲矢と目を合わせると、ハッとしてすぐに前を向いてしまう。
「?」
様子がおかしい。
「重そうだね、持とうか?」
咲矢は楓に近づき優しく声をかける。
だが、楓は、
「…大丈夫です」
と、素っ気なく歩いていく。
「そ、そう…?」
咲矢も戸惑いを隠せず、楓に置いてかれてしまう。
そのまま楓とは一言も会話せずに楓は立派な門をくぐって行ってしまった。
「なんなんだよ…」
いつもの楓なら尻尾を振る犬の様にいい笑顔を見せてくるのだが、今日はなんだか犬というよりは猫。
冷たく当たられてしまった。
咲矢も家に帰り、買ってきた物を冷蔵庫にしまうとソファに深く腰をかけて深くため息をつく。
時刻は午後12時。いつもなら小雨がやって来て、声かけをしてから帰っている時間だ。
その時。
ガタッ
上の階から物音が聞こえる。
何かを落とすような音だ。
「立江? 起きてるのか?」
立江の部屋のドアをノックする。
「立江?」
返事はない。
「おい、大丈夫なのか? 立江! 返事をしろ!」
いよいよ心配になって来た咲矢はドアを叩き始める。
さっきの物音からして立江が頭を打ったんじゃないかと思った咲矢は声を上げて呼びかけた。
「大丈夫か! 立江!!」
「…大丈夫!」
その立江の声には苛立ちが聞いて取れた。
「立江…」
「立江に構わないで!」
それを最後に立江の言葉は途切れてしまった。
「…」
今になって、咲矢の中に立ち込めた、ある感情。
前にも感じたことがある。
沢山の出来事があって、もう自分が自分で嫌になって、何もかもがどうでも良くなる。
そんな感情。
苛立ち、というのは充電される。そしてそれを解放するのはいつも自分ではなく他人だ。
「ふざけるな!!」
咲矢の苛立ちはコップから水が溢れ出すように解き放たれた。
「いつまでそうしている気だ! お前はそうやっていつまでも子供みたいに駄々をこねている気か!? お前はそれで満足なのか!? 一人ぼっちになって、みんなを拒絶して…!」
立江は悪くない。悪いのは咲矢だ。それを分かっているはずなのに…。
止まらない。
「俺の想いも知らないで!!」
その言葉の直後。またも部屋の中から「ドンッ」という物音が聞こえる。
「?」
部屋の中から足音が小刻みに聞こえて来たかと思うと、次の瞬間。
「…あがっ!!」
咲矢の鼻先に開いたドアがぶつかり、咲矢は尻餅を着いてしまう。
「わかるわけないじゃん!! 兄ーにのことなんて!!」
出てきた立江の第一声は咲矢の心に響く。
顔を少し赤らめて目の端には涙が浮かんでいる。
「っ!!」
「立江は兄ーにに思いを伝えたのに! 兄ーには答えてくれないじゃん!!」
潤んだ瞳の奥に見える立江の感情。
それは怒り、そして失望、咲矢に対する、立江自身の本気の思い。
「何が今は答えれないだよ! そうやっていつまでも先延ばしにして! いつも立江を待たせて! もううんざりなんだよ! 待たされるのは! 裏切られるのは!」
「ま、待て…! 立江! 俺は…立江を裏切ったの…か?」
「裏切ったよ…」
「いつ…」
「…はぁ…覚えてないの…。そっか、兄ーににはそんな事なんだよね」
立江は肩を落として落胆し、呆れた目を向けてくる。
何を立江にしたのかはっきり言って咲矢は覚えていない。毎日の声かけの中で何か立江の気に触るようなことを言っただろうか。
「…お、俺は…何を…」
「ショックだったよ…兄ーににあんなこと言われて…されて…。兄ーには立江の事信じてくれていると思ったのに…」
その時、咲矢の中で繋がった。立江の言っている裏切りという言葉の意味。
あの日、母さんが帰ってきて立江のゲームについて言い争いになった日。
ゲームだけに夢中になる立江には友達がいないことを知った。いや、暴いてしまった。
あまりにも無神経で、最低で、兄として、家族として、1人の男として許されない行為。
「…すまなかった…。もうしない…」
「じゃあ、立江にもう構わないで」
大きな交換条件。
それはできない。
だが、立江にそう言ってどうなるのだろうか。
承諾してしまえば立江との関係はより悪化する。
否定をハッキリしてしまうと「あっそ、じゃあ勝手にすればいいじゃん」と、一蹴され、同じく悪化してしまうだろう。
咲矢にできる事、それは、
「……」
沈黙だけだった。
逃げの一手。今までもそうして来たんだ、今更どうという事はない。
心が痛む。
また俺は逃げる。それを自覚する。
「そうだよね…答えないよね。兄ーには立江に何も答えてくれないもんね」
真顔で皮肉を言う立江。
どうという事はない…。
立江は部屋の中に戻ってしまった。
そして始まった、これまでの生活。咲矢は現状維持に成功したのだ。
立江との関係を保つことに、成功…した。
「…クソ…。大失敗じゃねえか…」
その後、夕飯を届けに立江の部屋の前に行くときも、寝る前に立江の部屋の前を通ったときも、立江に声をかける事はなかった。
翌朝、咲矢は朝からバイトへと向かった。
今日はなかなかのロングで、朝の開店時間の9時から夕方の5時までの時間。
疲れているからか、客の失礼な態度に舌打ちをしそうになるのを我慢しながら己と戦った。
そしてバイトから解放され、疲れた体を癒すためにまずは風呂に入った。そして夕飯を作って立江の部屋の前に置き、自分も食べる。
それ以外は何もやる気になれない。
案の定、咲矢の睡眠欲は正常に働き、午後6時、そのまま深い眠りについてしまった。
驚いたことに、起きたのは翌朝の7時。
「…まじか…すごいな俺の睡眠欲…」
不思議と何もやる気が起きない。
「今日は何をしようかな…」
なんて考えていた、その時。
「ん?」
咲矢のスマホが振動しているのに気づく。
「小雨…さん?」
スマホには小雨からのメッセージが届いていた。
『おはようございます。突然なのですが、立江さんから連絡があって…』
「!!」
咲矢は眠い目をこすってもう一度文面を読む。
「立江からの連絡」そうはっきり書いてあった。
咲矢は慌てずにその続きを読んだ。
『会ってもらえませんか?』
咲矢は急いで返事を返した。
15話を読んでいただきありがとうございます!
ついに関係が悪化してまいりました。
これからも彼、咲矢の苦難にお付き合いください!
いつも読んでいただきありがとうございます!
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