13話
こんにちは!
今日もよろしくお願いします!
夢を見た。憧れの存在が自ら手を差し伸べてきた、幸せな夢。
だがその男は、その手を…
払いのけた。
自信がないのか、迷っているのか、その両方なのか…。
翌朝、咲矢はいつもの癖で学校に行く時間に目を覚ました。
「…ん…あ、学校無えじゃん…」
重い瞼を開けてリビングに下りる。
朝の静けさだけが咲矢を出迎える。
「…暑い…」
それと篭った熱気。
咲矢は耐えず、エアコンのリモコンに手を伸ばし、朝からエアコンを働かせる。
次にテレビをつければお天気のお姉さんが今日から来週にかけての天気を明るい笑顔で説明していた。
この暑さでどこからそのスタミナが湧いてくるのか不思議に思う。
『7月24日のお天気は…』
天気は快晴。それによる高い気温に注意とのこと。
たしかに外を見てみれば眩しい太陽に耳障りなセミの鳴き声は夏を感じさせる。
「さて…。ん?」
咲矢のスマホにメッセージが届いていることに気がつく。
「小雨さん…」
『おはようございます。今日、早速お邪魔してもよろしいでしょうか? よろしければ、最寄り駅が螢田駅と言うことは存じておりますので、お手数ですが10時に螢田駅までお越しいただけないでしょうか』
流暢な文面で送られたメッセージ。小雨の丁寧な性格が良く分かる。
咲矢はそれとは逆に、
『ほいよ』
と、適当に返事を返した。こっちの方が咲矢のスタンスにあっている。
『ありがとうございます。では、10時に螢田駅でお待ちしております。今日はよろしくお願いします』
咲矢は『OK』とデカく描かれたラフなスタンプを送った。
「さて、10時ね…ん?」
続いて、スマホの振動と共に新屋からのメッセージが入る。
『おい! 先輩の彼女の家に夢流様が寝泊まりしてるって!!』
急な連絡に咲矢の眠気は一気に覚める。
「っ!!」
咲矢はすぐに文字を打ち込んだ。
『その先輩の彼女って?』
新屋からその彼女の住んでいる地域を聞いた。
そう遠くない地域。咲矢の家から3駅分の距離だ。
急に向かったらその先輩の彼女さんとやらに失礼かもしれない。
だが、これは二度とないかもしれない好機。
咲矢の体はすでに動いていた。
…まずはズボンを履け!!
咲矢は着替えてから螢田駅まで向かい、新松田方面の電車に乗った。
螢田駅から3駅のところにある開成駅で下車し、先輩の彼女の承諾の元、夢流がいる家へと向う。
駅から15分ほど歩いたところで、新屋から教えてもらった住所にたどり着く。
そこは長閑な田園風景と、綺麗な新築の家が隣接している場所で静かな自然を感じさせる場所だった。
「ここか…」
普通の白い一軒家。表札には『里宮』と書いてある。聞いたことがあるような無いような、多分無い。
咲矢は深呼吸をしてからインターホンを押した。
『はーい』
「…み、三崎です…」
しばらくして玄関のドアが開き、家の中から茶髪ポニーテールの女性が出てくる。
「? …あ、君が咲矢君ね?」
「どうも…あの…」
「ごめんねー? 夢流ならさっき急にコンビニに行きたいって言って出て行っちゃったの」
「…そ、そうですか」
感づかれていたのだろうか、タイミングが良すぎる。
世の中うまい話はないという事を久し振りに体験した。
「すみません、突然お邪魔して…」
咲矢が方向転換して帰ろうとしたその時、
「あ、ちょっと待って?」
ポニーテールの女性は咲矢を呼び止めた。
「せっかくだから上がって?」
「え…」
「君の事ちょっと聞いてみたい」
と、流されるままに咲矢はいつのまにか里宮家にお邪魔していた。
「ここが私の部屋だよー」
可愛らしい動物のクッションや、ピンク色に壁はまさに女の子の部屋と言ったところ。
何より他人の家の匂いが慣れない。
「まま、座ってー」
「あ、あの…」
「コーラかお茶?」
「お、お茶で…。あ、あの…」
「ゲームは? 何やるー?」
「いや、あの」
「あっ、その前にお菓子持ってくるねーまだ午前中だけど。暑かったでしょー」
「あの!?」
「…ん? どした?」
驚きたいのは咲矢の方なのになぜか彼女の方が驚いた顔をしている。
直感で分かった。自分はこの人が苦手だと。
「え、あ、いや、色々聞きたいことがあるんですけど…」
直後、彼女の顔が咲矢の目の前に迫る。
それと同時に迫る女子の芳しい香り。
「!?」
「いいよー? 何から聞きたい?」
なんなのだろう、この終始悪戯な態度は。
「じゃ、じゃあ、まずお名前から…」
「ああ、まだ教えてなかったね。私は里宮 真希奈。真実の真に希望の希、それと奈良の奈で真希奈だよ」
真希奈はそう言って一つのグラスに麦茶を注ぐ。
「お、俺は…」
「咲矢君でしょ? 有名人だよー」
…そうか、俺って有名人なんだ。(棒)
咲矢は今度から自分の名前を名乗らなくてもいいかもしれないと、考えていた。
「さてと、割となんでも知ってるよ? 私。例えば、夢流の好きな人とか…ね?」
真希奈は麦茶を注いだグラスを咲矢に差し出す。
咲矢は流れに乗ってそのグラスを受け取った。
「…まじすか…」
「君が夢流と喧嘩してるってことも知ってるし、学生戦争のことも知ってる」
彼女は一体何者なのだろう。素直に最初に出てきた感想だ。
「あ、あなたは一体…」
「ただの夢流の友達だよ? 昔からの」
友達。
思い返せば前に友達、もとい、舎弟はいると聞いたことがるが、彼女がそうだろうか。とても層には見えないが。
「…あ、あの、夢流がここに寝泊まりしてるってのは…」
だが、今は目標を見失っている場合では無い。本題に入る。
「うん本当だよ? 急に泣きながら駆け込んできたから匿ってあげたの」
真希奈はもう一つ、おそらく夢流が使用いていたであろうグラスにも麦茶を注ぎ、それを一気に飲み干す。
話を聞くかぎり、彼女は優しい人で間違いなさそうだが、なんだか咲矢の内は警戒している。
だが、彼女には実際、世話になってしまっている。
「そうですか…その…迷惑をかけました」
「? ぶっ! あはははっ! なんで謝ってんのー? 夢流のためなんだから当たり前じゃん」
盛大に吹き出して腹を抱えて「保護者かよー」と笑い始めた真希奈。
こちらの警戒心を馬鹿にしている喋り方だ。
「…多分もうそろそろ夢流が帰ってくると思うよ? さて、君はどうする? 夢流に会いたい? それとも逃げる?」
真希奈のその選択肢には悪意を感じる。
似たような事を別の誰かに言われた記憶がある。
「会います」
「オッケー、家の中で喧嘩だけはしないでねー」
10分くらい待っただろうか、真希奈の部屋の中では何かと話しずらい事があるので、迷惑かもしれないが、咲矢は玄関先に移動した。
「…」
目の前の道路、右方向から気配を感じ、咲矢はすぐさまそちらに目線を送る。
「…夢流姉」
「…え、なんで…」
夢流もこらちに気づいて目線を地面から上げてくる。
その目には困惑が見て取れた。
出て行った時と違って、制服ではなく、Tシャツに短パンと、ラフな格好をしていて、長い銀髪を一つに束ねてアップさせている。
「ヤッホーお帰りーなんか弟君が来たよー?」
真希奈は完全に自分は関係ありません。と言った感じだ。
真希奈はフォローをする気ゼロと見れる。もとより、助けを求める気はなかったが。
「…」
「…」
数メートル離れたところで沈黙が続く。
先に口を開いたのは夢流だった。
「…なんで来たの」
「…」
夢流は凍てついた目つきで咲矢を睨みながら歩み寄ってくる。
「夢流姉が心配だからに決まってんだろ…」
「余計なお世話…」
夢流はそう言い捨てると咲矢を通り過ごして家の中に入ってしまった。
まるで自分の家のように当たり前の顔で入って行ってしまった。
「…」
「…んー」
取り残された咲矢と真希奈に気不味い空気が訪れる。
「ありゃ、結構怒ってるね…。…咲矢君? 人には禁句と言う名の逆鱗があってそれに触れてしまうとどんな人でも怒るよ…」
この人はどこまで聞いているのだろうか。鋭すぎる。
「はい…」
「まぁ、咲矢君じゃなくてお母さんが言ったらしいけどさ。とにかく、仲直りできるといいね。私のI.D.教えるからいつでも連絡して? それと、夢流はウチにいる限り安全だから安心していいよー」
真希奈は呑気に口笛を吹きながら咲矢と連絡先を交換するとそのまま家の中に入ってしまった。
「…話すらできなかった…」
夢流の剣幕に圧倒された訳ではない。見つからなかったのだ。かけるべき言葉が。
分からなかった。話し方が。
あれほど話して来た人なのに、まるで初対面のように話ずらかった。
「…あ、もう10時か…」
咲矢はそのまま開成駅へ向かった。
夢流に気を取られて小雨との約束を忘れていた。
螢田駅につき、咲矢はスマホを確認する。
画面には小雨からのメッセージを知らせる表示があった。
『着きました』
との事。
咲矢は急いでロータリーに向かい、小雨の姿を探す。
その時、ふと、目に入った、白いワンピースにつばの長い帽子を被った少女。
咲矢はもしかしてと思い、声をかけた。
「あ、あの…小雨さん?」
「…? あ、咲矢先輩! おはようございます」
小雨は明るい笑顔で顔をあげて挨拶をして来た。
今の咲矢には眩しすぎる。
「ごめんね、待ったでしょ」
「いえ、今来たところです」
予定より30分は遅れているのだが。
咲矢は小雨を連れて家へと向かった。
「わあぁ…大きいお家ですね!」
「そ、そう?」
咲矢はこれほど分かりやすいお世辞を聞いた事がなかった。なぜなら先ほど神野邸を見た際にも同じことを今よりも高いテンションで言っていたから。
「ま、まぁ、上がって」
「お邪魔します」
小雨をリビングに通し、お茶を出して座らせる。
「あ、あの、立江さんは…」
「…部屋だよ」
小雨は少し不安そうな表情をする。
だが、すぐに顔をあげて自信に満ち溢れた表情をしてくれた。
彼女もそれ相応の覚悟で家にまで足を運んでくれたのだろう。
「行ってもいいです…か?」
小雨を立江と会わせることは咲矢も緊張するし、不安だ。
しかし、ここで立ち止まっていては、いつまでたっても立江と仲直りするこたはできない。
「…よし…行こうか」
咲矢はとりあえず、立江の部屋の前まで小雨を連れて行く。
だが、明らかに空気が重くなったのを感じる。
「…立江。クラスメイトが来てくれたぞ」
「あ、あの立江さん! 急にお邪魔してごめんなさい。こ、これ夏休みの宿題と、立江さんが出れなかった授業のノートとプリント!」
驚いた。小雨は立江のために口先だけではなくしっかり行動を起こしてくれていた。
本当に小雨は良い子だと咲矢は心の底から思った。
巴より早く出会っていたら惚れていたかもしれない。
しかし、そんな優しい小雨の声にも反応しない立江。
「私、臆病で人となんかろくに話せなくて頼りないと思うけど、立江さんの味方だよ? だから…一度だけでいいから私とお話してくれない…かな…」
「…」
小雨の声は喋り続けるにつれて段々、小さくなったいった。
遂には、
「……」
一言も喋らなくなってしまった。
それに少々の悪寒を感じた咲矢は
「…小雨さん、ありがとう。今日はもう…」
「はい…」
小雨を立江の部屋の前から一旦退却するように促した。
「り、立江さん! 私…また…来るね…?」
咲矢は小雨を連れてリビングに降りる。
「…宿題とかプリント、立江に渡しておくから」
「…はい、お願いします」
「…その…なんかごめん…」
「いいえ…私、毎日来ます」
「え?」
あれだけ無視されて、小雨の心はまだ折れていないようだ。
悲しい表情ではあるが、どこか自信のある表情にも見える。
小雨が帰ったあと咲矢は昼食を作り、小雨が置いていった物と一緒に立江の部屋の前に置いて行く。
「…」
時刻は午後一時。テレビもつけず、エアコンだけが稼働しているリビングのソファに沈み、無機質な天井を見上げていた。
セミの鳴き声は夏の暑さを感じさせると言うか耳障りだ。
今日の午前中だけで色々な事がありすぎて、咲矢の頭の中はすでに真っ白。
立江は咲矢以外の人に呼びかけられても反応しなかった。同じ女子高校生で、あそこまで一途な子なら可能性はあったかもしれないが、咲矢が思っていたより壁は厚いようだ。
そして夢流は完全に咲矢を拒絶していた。今は夢流に家族という概念は通用しないのかもしれない。
真希奈が言っていた禁句。それは『弱い』という言葉。
いつからかは知らないが、強さを求めていた夢流にはたしかに禁句だ。
そして咲矢の行為。これは夢流のプライドを傷つけてしまった。
謝りたい。今すぐ謝りたい。けど、彩葉の言っていた夢流に通づる言語というのがわからない。
夢流のいる場所はわかった。
咲矢にできることは夢流との話し方を学ぶ事。
「…よし!」
咲矢は思いっ立ってすぐに行動に移した。
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