12話
こんにちは! 今日もよろしくお願いします!
なんだかんだでもうそろそろ物語も佳境に入ってまいります!
一学期最終日。周りはいつもと同じようにはしゃぎ散らかし、いつも通り騒がしかった。
咲矢の心情は心配事がさらに増えたからか、いつもより重かった。
結果から言えば、そんな中、事件は起きてしまう。
終業式を終え、すぐに下校となった咲矢達は、今日も学校近くのファミレスに集まった。
「さて、明日から夏休みだが…」
「咲矢…どうするんだ? 夢流様に会いに行くのか?」
咲矢が冗談で言った言いつけを守っているのか単なるからかいなのかはさておき、『様』に一瞬気をとられそうになるが、一応触れないでおく。
「あぁ…立江も部屋から引きずり出さないと…」
「それなんですけど、咲矢先輩!」
今日はなんだか自身に満ちあふれた表情をしている小雨が手を挙げた。
「?」
「私! 咲矢先輩の家に…その…通ってもいい…ですか?」
その発言に巴の眉が少し動く。咲矢はそれをたまたま見てしまった。
別に小雨が家に来ても問題は無い。巴の小さな反応に疑問が残る。
「…え、あぁ別に構わないけど…」
「けど?」
「…こんなこと言うのもあれだけど…心が折られるかもよ?」
「へ?」
急な脅しに小雨の顔が曇る。
「おい、咲矢、なんで脅すんだよ」
新屋は焦った表情でツッコミを入れる。
「いや、今の立江は完全に塞ぎ込んでるし…誰の呼びかけにも反応しないから…」
「…」
小雨の勇気が踏みにじられる可能性が高い。そう言いたかった。小雨の心が折れてしまったら立江のこの先の明るい高校生活は絶望的になってしまう。
だからこそ、小雨と言う手段は大切にしたかった。
「小雨さん次第だけど…それでも来たい? 家へ…」
「…私…立江さんと仲良くしたい…です」
「…そうか…じゃあ鍵は開けておくよ」
小雨の表情は半ば不安そうではあったが、ここで咲矢にできることは無い。任せるしか無いだろう。小雨が立江を部屋から出してくれれば仲直りもできる。
「さてと、俺は明日からランニングがてら夢流様を探してみるよ」
「え、正気か? お前…」
「おう。体鈍っちまうからな」
彼は一体どれだけの距離を走る気なのだろうか。さすがは体力お化けといったところ。
「じゃ、じゃあ頼むな…俺は夢流姉と会うための準備がある」
「準備? なんだ?」
話せない、絶対に。
これ以上、生々しく新屋に暴力的な印象を持たれたく無い。
「いや、準備は準備だよ」
苦しいが、新屋はそれ以上詮索はしてこなかった。
その日の集まりはこれにて解散。
帰る際に、小雨から連絡先を聞き、巴と一緒の方角のバスに乗った。
「巴、最近元気ないな」
「別に」
明らかに巴の態度は素っ気ない。捉え方としては怒っているように思える。
小田原駅についたあと、小田急に乗るのだが、巴は足を止めた。
「巴?」
「…うん、そうだよね」
何やら咲矢と目を合わせずに独り言を言っている巴。
そんな巴を見て首をかしげる咲矢。
「?」
「私…咲矢に話がある」
巴は咲矢を小田原駅の駅ビルの屋上へ連れていった。
そこには緑豊かな箱庭のようなラウンジがあり、いつもなら子連れの奥様が話場所としているのだが、今日は気温も高いため、人は一人もいなかった。
「なんだよ、話って」
「私さ、咲矢が好き」
周りからは車が通る音や、室外機の音。
そしてそれに紛れて聞こえる風に揺られる葉の擦れ合う音。
咲矢の耳にその言葉は届いていた。
「…え」
「私、咲矢のことが好き」
今度ははっきりと、咲矢の目を見て言った。
またしても咲矢の理解を置き去りにする出来事。
咲矢は空を見上げて考える。
色々あったせいか、嬉しさを上回る驚きと困惑が咲矢を支配している。
彼女はなんといっただろうか。
「好き」
そう言ったのだ。
…違う、それは俺が言うつもりだった言葉だ。
…俺が巴に言って自分をハッキリさせたかった。
…今言われたら、自分が何をしたいのか…どうなりたいのか、また分からなくなってしまう。
「咲矢?」
咲矢の中で、すでに返す言葉は反射的に決まっていた。
自身を今の地獄に引きずり込んだ一言。だが、咲矢にとっては都合のいい一言。そして、自分に思いを寄せてくれる女の子を悩ませる一言。
一言で言うなら、逃げの言葉。
「…ごめん…。今は返事が出来ない」
帰り道、咲矢は一人、虚しい気分で歩いていた。最寄り駅から家までの5分も長く感じた。
頭の中は「虚無」そのもの。何もない。
体の記憶だけを頼りに毎日に行動をたどる。
幸いなことに今日はバイトがなかった。
「今日はいい感じに無心じゃないか」
「…え? あ、はい」
流石に何度も受けている掌底はかわせる。
だが、それ以上に無意識に彩葉の攻撃をかわしていく咲矢。
「いい動きだな…」
「えぇ」
「?」
彩葉は急に動きを止めて咲矢の動きを空回りさせて転ばせる。
「のわぁっ!!」
道場内に鈍い音が響く。
「あ、あぁ…!」
腰から背中にかけて鈍痛がはしる。割と痛い。
「今の君なら夢流には匹敵まではしないだろうが、渡り合えるまでには成長した」
「そ、そうですか…」
「だが、会話はできないっだろうな」
「そ、それはどう言う…」
「夢流はな? 力を手に入れた時、人の心を失った」
それは知っている。ある日を境に、夢流は別人のように強くなり、そして冷たくなった。友人に、人に、そして家族にも。
そして喧嘩に明け暮れた。まるで自分の強さを示すかのように。
「今のお前は…心も信念もない…まるで人形みたいだな」
「…」
「たしかに俺が教えている武術には無心は不可欠だが、『虚無』はあってはならない…。単刀直入に聞こう、何があった?」
「…いや…別に…」
この人に話せば命が危ない気がする。
と言うか、話してもどうにもならない気がする。
「…そうか? 若い奴の考えてることはわからんな」
「…」
「よし、後は君の好きにしろ」
「え?」
彩葉はそれだけを言い残して道場から出て行った。
取り残された咲矢は静寂の中、自分が何かをやらかしたのではないか、と考える。
「さ、咲矢お兄ちゃん?」
可愛らしい声に呼ばれて咲矢の意識は元に戻ってくる。
目線をあげると、彩葉が出て行った扉からひょこっと楓が顔を出していた。
「楓…」
「今日はお姉ちゃん体調が悪いみたいなので私が代わりに手当てをしますね?」
「巴、どうかしたのか?」
「はい、今日はご飯も食べないで帰ってきてからずっと寝てます」
きっと仮病だろう。直感でそう思った。
体の心配はしていないが、心が心配だ。
「良くなるといいな、巴」
「はい…」
巴よりは下手な手当てであったが、頑張る楓の姿を見ていたらズレている湿布なんて気にならなかった。
「ごめんなさい、下手で…」
「いやいや、大丈夫だよ。痛みが引いてきた」
楓の頭を撫でるといつも可愛い反応をするので咲矢のマイブームとなりつつある。
咲矢はその後、挨拶をしてから自分の家に戻った。
立江の部屋の前から半分残してある夕食を下げ、風呂は巴の家で入ったのでそのまま自室のベッドに飛び込む。
「…明日、夢流姉を探しに行くか…」
咲矢はそのまま目を閉じた。
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