スポーツの夏、始まります?
「それで、結局帰らなかったんだ?」
萌ちゃんにそう聞かれたのは、ゴールデンウィークが明けてしばらくたった頃。そろそろ冬用の制服を着ているのがツラくなっていた、5月半ばの昼休み――萌ちゃんと2人でお昼ご飯を食べながら、おしゃべりしていた。
「あたしは帰ったけどね。まあ優子は・・・いろいろ大変なのよ、あの子も」
「そういえば、優子ちゃんは?」
「ああ、優子なら、委員会の仕事があるからって、どっか行っちゃったわよ」
ふーん、と萌ちゃんはうなずいて、「優子ちゃん、体育委員だっけ?」と聞いてきた。
「ええ、確かそうよ」
「そう、それじゃあれか、球技大会の話か」
「球技大会?」
あたしが訊くと、萌ちゃんは「うん、先輩が言ってた、毎年7月にあるんだって」と答えた。
「7月って・・・まだ5月よ、ちょっと準備が早いんじゃない?」
「それがそうでもないみたいなの。6月の初めに中間テストがあるでしょ、それが終わったらすぐ動き出すみたい」
「結構本格的なのね、優勝したら何かもらえたりするのかしら」
「うん、たぶんね。まあ、1年生のうちらにはだいぶ不利だけど」
「なんで?」
首をかしげて訊くと、「上級生とも試合するんだよ」と教えてくれた。
「学年の壁を越えて、クラス対抗。当然、校内優勝は毎年3年生」
「それはそれで楽しそうじゃない。1年生が優勝したら面白いわよ」
「無理でしょ」
萌ちゃんは苦笑して、「翔子ちゃん、球技得意?」と聞いてきた。
「まあね、中学の時バスケやってたから」
「そうなの?それじゃ、バスケもあるって先輩言ってたから、大活躍できるんじゃない?」
萌ちゃんの言葉に、あたしは「本当?じゃ、あたしはバスケ一択だわ」とうなずいた。
「ちなみに、他には何が?」
「えーっとね、バスケの他には、バレーと、テニスと・・・フットサルなんかもあったかな? 先輩からちょっと聞いただけだから、私もよくわからない」
萌ちゃんはそう言って、「ま、詳しいことは、それこそ優子ちゃんに。ね?」と笑った。
「まあ、そうね。まだ5月だし」
あたしも笑って、お皿に残った最後の一口を口に運んだ。