6 真面目に修行します!
「おやおや、メルったら、困ったことをしでかしたね」
おばあちゃんは、森にも降ってきた雨に気づいて、大きな溜め息をつきました。
でも、ロビンに送られて帰ってきたメルが、凄く疲れていたので、お説教は後にして、ベッドに寝させました。
「ちゃんと、修行もしないで、いきなり雨乞いの術などするからだよ」
おばあちゃんは、やっぱりお見通しだったんだと、メルは謝ろうとしましたが、眠くて目蓋が自然と下がってしまいました。
『大丈夫なのか?』
黒猫のルーが、心配そうにメルの顔をツンと鼻先でつつきます。
『大丈夫なものですか!』
おばあちゃんは、メルの身体が冷えきっているのに気づいて、看病しました。
雨は、枯れかけていた小麦畑に降り注ぎ、倒れかけていた小麦もシャンと立ち上がりました。
村の人達は、大喜びしました。
ロビンとアンナは、メルが雨乞いしたお陰だと、みんなに教えたくてたまりませんでしたが、キツく口止めされていたので、黙っています。
メルは、おばあちゃんにいっぱいお説教されたし、当分は外出も禁止にされました。
おばあちゃんは、厄介な事にメルが巻き込まれるのを、心配して、外出禁止にしたのですが、本人は酷いと内心では愚痴っていました。
『村の人達を助ける為に、雨乞いをしたのよ。
なのに、家から出ちゃいけないだなんて、厳し過ぎるわ』
むぎゅと抱き締められた黒猫のルーは、迷惑そうにメルを見上げました。
『おばあちゃんの言うことを聞け』
猫にまで、お説教されて、メルはうんざりしました。
家の中の手伝いばかりで、メルが退屈しているのには、おばあちゃんも気づいていましたが、外には出さないと決めてました。
『あの子の魔力は強すぎるわ……きちんと修行させないと、命とりになるかもしれない』
雨乞いの夜、メルは疲れて眠ってしまいましたが、身体が弱って冷たくなっていたのを、おばあちゃんは必死で看病したのです。
本人は、次の朝に起きて、けろりとしてましたが、初心者なのに心を飛ばしただなんて聞いたおばあちゃんは、ゾッとしました。
『心が身体に返らなかったら、死んでしまったかも……』
何時もは、優しいおばあちゃんですが、今回はなかなか許してくれませんでした。
はじめは、雨が降ったことを、大喜びしていた村の人達は、今度は心配しだしました。
「そろそろ、雨が止まないと、川が氾濫してしまう」
ロビンとアンナは、勝手なことを言う大人達に腹を立てましたが、川がごうごうと音を立てて流れているのを見ると、心配になってきました。
「ねぇ、メルに雨乞いを止めて貰おうよ」
二人は、降りしきる雨の中、森へと急ぎました。
「駄目だわ! メルは出てこないわ」
出来たら、おばあちゃんには内緒でメルとはなしたかったのですが、家から出てきません。
その上、カラスがカーカーと威嚇するように鳴いているのが、アンナには不気味に思えて、家に帰りたくなってきます。
ロビンは、メルは外出禁止の罰を受けているんだと気づきました。
「ここで待ってても、メルは出てきそうにないよ。
きっと、おばあちゃんにバレたんだ」
「ちょっと、ロビン……ええい! こうなったら、仕方ないわ!
私も一緒に、ついていくわ」
二人は、メルだけに責任を取らせるわけにはいかないと、勇気を振り絞って、森の魔女の家の扉をノックしました。
「何か用かい?」
おばあちゃんに睨まれて、二人ともぶるぶる震えましたが、ロビンはメルに会わせて欲しいと頼みました。
「ロビン、アンナ、何かあったの?」
寝室へ行くようにと命じていたのにと、おばあちゃんは腹を立てました。
「メル! 寝室へ行きなさい! あんた達も、とっとと家に帰りなさい。
言う事を聞かないと、カエル変えてしまうよ」
アンナは、大嫌いなカエルになるのは御免だと、一目散に逃げ出しましたが、ロビンは、グッと踏みとどまりました。
「メル! 雨を止めないと、洪水になっちゃうよ!」
『出ていけ!』
ロビンに黒猫のルーは、シャーと威嚇しました。
「人の家に来て、勝手な事ばかり言うだなんて! とっとと、帰っておくれ!」
おばあちゃんはロビンを怒って追い出しましたが、メルは自分が仕出かした結果に、茫然として立ち尽くしています。
「ほら、村の人達の頼みをきいてはいけないと、あんなに言ったのに……ほら、そんなに泣くんじゃないよ。
もう、二度と雨乞いなんか、してはいけないよ」
メルは、おばあちゃんに抱きついて、わんわん泣きじゃくりました。
「でも、村が流されたりしたら、私は自分が許せないわ!
お願い! 雨を止める術を教えて!」
おばあちゃんは、全く懲りないメルに呆れました。
「メル! あんたって子は……」
おばあちゃんは、自分の孫の後始末として、雨降りを止めてくれました。
「雨乞いをしようとしてるのに、気づいていたんだけど、失敗するとばかり思って放置してたんだ。
だから、今回だけは、私が止めたけど、二度としてはいけないよ!
それと、メルには強力な魔力があるから、ちゃんと修行しなきゃいけないよ」
メルは雨が止んだのに、ホッとしておばあちゃんに謝りました。
「ごめんなさい、雨乞いを勝手にしちゃって!
これからは、真面目に修行します!」
『本当かな?』
黒猫のルーにまで、疑われてメルはぷんぷん怒りました。
『ルーちゃん、お風呂に入ろうか?』
メルが黒猫を追いかけ回している騒いでいるのを、おばあちゃんは呆れて眺めます。
おばあちゃんは、メルは村の人達に頼まれたら、また術を使ってしまうのではと心配しましたが、それも、おいおいと言い聞かせていこうと頷きました。
「先ずは、基礎から修行しなくてはね!」
どんな修行だろうと、わくわく目を輝かしていたメルでしたが、ええっ~! と抗議の声をあげました。
「そんなぁ、夏休み中、術を使っては駄目だなんて!」
文句をつけるメルに、おばあちゃんは厳しく言い聞かせます。
「先ずは、自制心を身につけなきゃ、いけませんよ!
それと、師匠の言うことに逆らってはいけません」
チェッとくちびるを尖らせましたが、村の子ども達と遊んでもよいと言われて、飛び上がって喜びました。
おばあちゃんは、他所から流れ着いた自分と、村に親戚もいるメルとは違うと、ロビンやアンナを見て感じたのです。
大きな森の小さな魔女は、これから何年も修行しなくてはいけません。
でも、この夏休みは、魔法の術を使うのを禁止されたので、家の手伝いが終わると、のんびりと森の中を散歩して、野イチゴを摘んだり、魚を取ったりして過ごしました。
そして、時々はそのイチゴや魚や茸を持って、アンナやロビンの家に遊びに行きました。