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想定外の決戦と結末

正々堂々と言う言葉はこの世界には似つかわしくない。特攻、賭け、裏切り、嘘、罠、戦略、その他全ての思いつく限りの知恵を使わなければ生き残れないからだ。


それでも、一人の人間が持っている物は限られている。だからこそ、ラストプレイヤーと別れ現実世界に戻った少女の一人は、再び敵としてもう一人の少女に会いに行った。


深夜に間もなく到達する時刻、学園のだだっ広い校庭に二人の少女が立ち向かう。


「決着を着けませんか? いずれ戦わなければいけないですし、なによりそうしなければあなたはいけないですよね?」


そう天柚葵は付きつける。


そして、緋衣月華はそれに了承した。


敵が罠あるいは戦略が練られていないと判断できるからこその同意。三人のプレイヤーが別れてから時間はさほど立ってはおらず、その時間の中で葵が月華を探す分を考慮しても、準備はできていないと判断できたからである。それは事実上の真っ向勝負。刀を主に戦うプレイヤーとして、後手に回るよりも圧倒的に戦いやすい。


「場所は移動しなくてもいいな。移動するだけのアイテムが勿体ない」


対して葵が戦う理由は一つ。縁の不思議な力によって縁が狙われることを葵自身が失くそうとしている。


「はい」


二人の少女が腕を伸ばし再びゲームの世界の扉を開けた。


「『コンタクト』」


「『コンタクト』」


二つの闇が二人の少女を飲み込んだ。


アウグーリデセオに入場した場合、最初の登録を除き行先は決まっている。最初にマンションの廊下から部屋へ、そして部屋の二つ目の扉をくぐり、帰還時に留まっていた場所から始める。


二人+一匹が破壊された山の中腹で争うために対峙した。


「結局こうなったにゃ」


魔女姿の葵の肩で猫が最初に言葉を発する。


「魔女姿に黒猫……聞いたことがある。『冷たい博覧会(エンドレスタナトス)』お前も強さを表す二つ名持ち」


「はい」


一つ二つの会話の間、少女らは一瞬の隙すら見せない。


「今回は邪魔者がいないにゃ。この状況は想定外で損ではあるにゃが、有利に代わりはないにゃ。葵、本気で行くにゃ!」


猫が肩から飛び降り、地面に着地するのが合図となった。


「『氷槍(ランチアギアッチョ)』」


先制でいきなり差が開いた。魔女ゆえ自身から出す魔法に対し、武器を使うために引き出さなければいけない時間のロス。


「それでいいにゃ! 黒刀の能力はアイテムの破壊にゃ、技そのものを消す能力はにゃい! 勝ったにゃっ!」


「『プラティカ・花木(カキ)』!」


「っ!?」


「にゃっ!?」


想定外の銀色のアイテムの名に勝利を確信した猫は歯を剥き出しに驚き、知らないアイテムにさらに葵は距離を取る。


「黒刀を出すといった覚えはない」


黒刀で戦うなら事前に出している。それをしなかったということは相手にそれを悟られないため、加えて敗北者の時に葵の戦い方を月華はすでに知っている。それゆえ、敵が知っているアイテムを使う必要はない。


そして、緋月が離れた距離にもかかわらず剣を振った。


「『木の(ラディーチェ)』」


「空に行くにゃ!」


「遅い!」


猫の掛け声に反応して新たな魔法で浮かび上がる前に、根が葵の足に絡みつき浮かび上がることを防ぐ。緋月は距離を詰めに倒れた大木を次々足蹴に跳躍した。


葵との距離はまだ先、それでも常人を遥かに超えた装備によって強化された脚力がその距離を一気に縮めていく。


「くっ! 『プラティカ・水色の小瓶』」


新たに葵が出したアイテムが使われる前、また刀が振るわれる。手に現れたアイテムは木の根に弾かれ地面へと転がった。


「『プラティカ・黒破』」


手は届かず、銀刀『花木』でも届かなかった距離。二つ目の刀を左手に持つことによって、黒刀『黒破』の長刀が触れられる距離へと変える。


「まずはその装備を全て破壊する」


「まだですっ! 『氷壁(アイズバーグ)』!」


ラストプレイヤーを守った氷の壁、だがそれが出来上がるまでの時間では振り下ろされた刀の刃先すら避けられない。黒刀はカスリでもすればアイテムと名の付くものは全て破壊してしまう――


「クロッ!?」


――だが、猫の名で勝負の行方が変わる。


黒猫の口から白い蒸気が噴き出されたのを確認した時には、緋月の右半身が氷漬けにされ黒刀は振り下ろすことを許されない。


「ちっ!?」


猫の傍に転がる空になった小瓶、敵との間に出来上がると思われた氷壁が猫と葵との間にできていることで緋月は状況を理解した――時には、緋月の象った氷の彫像が出来上がる。


「『(ヴェント)』」


瞬時に足に絡まった根を切り裂き葵は自由を取り戻した。


そして――


ガラスの破壊音と地響きが混ざり合うような破裂音と共に、緋月が閉じ込められていた氷の彫像が中から破壊された。氷の破片が当たりに散らばり、その物体は氷の型の原型として木の人形がそこにある。


「木人形にゃ……」


人型の木でできた人形は次第に幽霊でも消えるようになくなり、中から無傷の緋月が出てくると刀の刃音が響く。


「二つ名持ちはしぶといにゃ……」


互いの力を確かめるような一ラウンド目を終え、休憩を挟まず二ラウンド目へと移る。


緋衣は二つの刀の内銀刀を消し、黒刀を握りしめた。


対して葵は何も持たず、何も発しない。その瞬間まで集中力だけを高め、黒猫のクロと共に二ラウンド目の合図となる瞬間を待つ。


が、予想外の事態が起きる。



「一瞬の隙が命取りーっ!」



第三者の少年参入の声。


「う、後にゃっ、葵っ!?」


「――っっっ!?」


警告の声はあまりに遅すぎた。


ドンッ! と息を止められるような強い衝撃で前方に押されると、次の瞬間にはもう次の標的へと第三者は移動していた。


当然、事態の変化に緋月も行動が遅れる。影だけ視界に入り無造作に払った刀の動きはあまりにお粗末。払った腕の停止に合わせて第三者は黒刀を一撫でしていた。


「計画とは違うけどー予想外のチャンスに予想以上の結果だよーっ!」


少年は二人と一匹との距離を瞬時に空けた。


「『プラティカ・瞬間移動』」


少年が逃げるアイテムを言葉にしている。


それでも葵と緋月は動けない。敵はお互いにもう一人。さらなる隙を作れば最悪の結果につながってしまうからだ。


その途中、葵は縁の言葉を思い出していた。


『実はここに来る前に他のプレイヤーに会っているから、もしかしたらここに来るかもしれない』


「縁君が言っていたプレイヤーッ!?」


全てを見られ、絶好のタイミングを見計らい待ち構えられていた。

その結果、状況は最悪な方向へと流れる。


「葵っ、全てを巻き込むにゃっ!」


途端、葵は両手を広げて標的を二人に広げる。


その間、最悪な結果に一足先に気が付いた緋月は少年へと向かって走り出していた。それも、一番ポピュラーな暴力的行動で。


「???」


異変。


葵を無視するかのように必死な表情で少年に向かう緋月。その手には持っていた刀がない。そして合図を送ったにも関わらず少年が飛び去るこの瞬間まで攻撃を仕掛けていない制服姿の葵。


「そんにゃ……」


場違いにも可愛らしい声で絶望を感じ取るクロも気が付いた。


「バイーバーイ」


計画の大成功に笑顔で振る手に嵌められたアイテム。


「『盗賊の証』にゃ……」


触るだけでプレイヤーのアイテムを盗み取るレアアイテム。


この瞬間、葵の『魔法』と緋月の『黒刀』はまんまと盗まれた。


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