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チームになる条件

「どういうことだ……」


言われても仕方がないのは分かるが、こっちも同じ質問を訊き返したい。


「説明はしてもいいけど、なんでこんなことになってるのかな?」


「そんなの決まってるじゃないか、プレイヤーは他のプレイヤーを消す。これここのルール」


訊きたいことはそんなことじゃない。


二人は口を挟んできた少年を探すために俺を訪ねてきた。それなのにそれを自分たちで無視してこの場で争っていることが納得できないのだ。


「見る限りあれだよねー。『七番目の流転(ブルージーミラージュ)』がアイテムを使って『冷たい博覧会(エンドレスタナトス)』を見つけ出して倒すって感じ」


うるさく口を挟んでくる少年に止めるように注意したいところだけど、仕方がない。二人から直接聞いたところで返事は返ってこないだろう。


「それだと、二人が俺の所に訪ねてきた理由が分からなくなる」


「ん? 訪ねて……。あれラストプレイやーがここに来たとき、すぐに俺がきて……、んんん、その前……元の世界で……? あれ、まさかっ、知り合いだったのか!?」


そういえば、アイテムを取り返しに三人で話し合ったことを教えていなかった。といっても、狙っていたことを話して納得するとは思えない。どうにかして誤魔化した方がいいな。


「続きを教えてもらってもいいかな。君の説明が重要で役に立つんだよ」


と言ってもどうやって誤魔化すか……、褒めるにしてもこの程度じゃ――


「え、俺そんな役に立つ? し、しかたないなー」


……………………この少年、林檎よりも扱いやすい。


「それで訊きたいんだけど、緋月の方は葵を見つける接点がなかったはずなんだけど」


「接点? ああ、それならそんなの探せるアイテムを使えばいいだけじゃん」


「というと?」


「なんも知らないんだなー」


呆れたように、さらには自慢げにこちらを見てくるが、だからこそ少年は俺を狙ったはず……。


「しゃーない教えてやるよー」


すでにそんなこと覚えていないようだから、放っておく。


「似たようなアイテムでも価値が違って、それによって効果が違うんだよー」


つまり、俺が知っている木の実のアイテムよりも良質なアイテムを緋月は隠し持っていて使ったということになる。


そうなると、


「なるほど、緋月が俺の所に訪ねてきたのは葵の動向を窺うためか……」


「それがどうした。『プラティカ・花木』」


どうやら、これ以上話す気は無いようで緋月は俺の手から刀を奪い返して戦闘の意思を見せる。


「いっ、二つ名持ちなんかと戦う気はないよー! もし戦わせる気なら盗んだ『黒破』か、『魔法使いの衣』を返せ!」


「なっ!?」


「えっ!?」


少年の軽い口で二人のアイテムが俺の持ち物としてあることが伝わった。正しい意味で伝わったかは別として。


「かえって利用されることになったか。だが、返してもらうぞ!」


より緋月の目に強い戦気が宿る。何を混乱しているのか、俺が黒刀を得る為に動いたことにされていた。


「うわーヤバイヤバイッて、早く『黒破』を出せよー!」


少年の言うとおりこのまま緋月と戦って勝ち目はないだろう。だけど、それは黒刀を出しても変わらない。黒刀のアイテムの能力は『アイテム破壊』、アイテムである『花木』に触れられなければその効果は発揮されないし、それを十分に知っている緋月は遠距離での戦いを選んでいる。仮に違ったとしても、刀を使い慣れている緋月と違ってこっちは剣術なんてものはできるはずもない。


だったら、


「『木の(ラディーチェ)』」


木を操る刀が木の根を使って俺を攻撃してくる前に伝えることがある。


「俺がまたこの世界に来たのは緋月、お前の願いの手助けをするためだ」


木の根が地面から先端を鋭い針のような形状に形を変え、俺の腹部へと到着する寸前で動きを止めた。


「……なにを言っている?」


大きな疑いの中に小さな真実を信じたいがために緋月は俺を見る。


「やっぱりか……。緋月、お前まだ人との関わり合いを断ち切れていないだろ?」


決意と覚悟を揺るがされていくことに緋月の表情が苦々しく歪んでいく。


「縁君……?」


「緋月は学園で人との関わり合いを断ち切っている。きっとこの世界で他人を倒すと決めた時、あることを考えてしまったんだ」


「あること?」


「友達や知り合いと出会うこと。もし、そうなってしまった時、覚悟が揺るがないために現実の世界で繋がりを絶つしかなくなった。どんなことをしても妹を取り戻すために」


幸一の情報を元にカマをかける。


何も情報を与えないようにするためにか、「くだらん」と漏らす緋月の吐き捨てる言葉も攻撃を止めてしまったあとでは虚勢でしかない。やはり妹はこの世界でいなくなっている可能性がある。


「だから、口調もここと現実で使い分けているんだろ。全てを嘘に変えるために」


それは自分自身が分かっているからこそ、


「……なら、今それを改めて決めるだけだ!」


新しい嘘で自分を隠すことを決める。それも妹のためという大切な思いがそうさせているはずだ。


それも、


「無理だな」


「――ッ!? だまれっ!」


それは絶対的に無理だ。妹が根底にある限りその覚悟は必ず破たんする。


「妹を仮に取り戻せたとしても、その先にある全てを捨てた緋月の心の負担を妹に背負わせられない。緋月……いや、緋衣月華は妹思いの優しいお姉さんだからだ」


「く…………違う……私は…………」


『花木』を持っている手が震えだした。混乱を正しい形に意識させたことで緋月は崩壊しつつある。俺はそんな緋月を見捨ててはいけない。ただ壊すだけなら誰でもできるし、なによりこの世界での生き残りはまだ続く。


「負担……、助けているつもりでもその後に残るのはそれだけ……?」


そんな緋月を見て葵が膝をついて崩れ落ちた。葵も自身に思い当たることで押しつぶされていた。


「葵……」


問いかけに顔を上げた葵は静かに頷く。


幸一の話では怪我の一言だけで終わっていたが、それが一生治らないものだったとしたら――この世界で治せることを知った葵は自らを犠牲にしても治してあげたいと思う女の子だ。


「俺なんかを助けようとしてくれたぐらいだからな」


「なぁなぁ、それだったらタナトスの方の願いを叶えた方がいいんじゃないか? あ、といっても俺が生き残るけどねー」


一言多いがそれも一理ある。


「そうだな。だけど、それは現実世界で起きたことでこの世界で起こったことじゃない。だから、俺は葵の願いは受け止められなかった。もちろんそれが悪い事じゃないと思うし、いいことだとは思う」


「だったらさ――」


「問題はそこじゃない。問題なのは本当にこの二人が生き残れることかが問題なんだよ。こんなことを言っていても願いがかなわなければ意味がない」


「……そこ三人にしてよー」


…………。


「三人が生き残れることが問題なんだよ」


「ほう。それで?」


……………………。


「……ちょっと待っててくれ。説明は後だ」


少年の対応は後回しにして二人を立ち上がらせなければいけない。


「緋月、全てを解決するには誰かの手を借りるしかない。一人では生き残るのは無理だ」


それが緋月へと結論。


「葵、一人で抱え込んでいる限りは生き残れない。緋月との戦いでクロの指示でようやく決意しているようじゃ、いずれ負けてしまう」


これが葵への結論。


「まだ始まったばかりなのは運が良かっただけだ。肝心な時に綻びを出す前に結論を出すしかない」


俺が言えることはこれまでだ。ここからは二人がどうするか考えるしかない。


「なぁなぁ、ラストプレイヤー?」


二人の回答を待つ間に、また始まった。


「それだと、どっちかをラストプレイヤーが助けて片方を見捨てるってことか? ……はっ! お、俺は助けないからな」


誰も頼んでいないことを勝手に思いつくのは止めてほしい。だいたい俺が二人を助けられるほど強くないのは分かっているだろう。少年に勝ったのだって少年の油断があってこそだ。


「はは、結局そうなるんだよ。誰かと手を組んで生き残れ? 願いがない結縄を仮に信じたとしても、お前は二人と手を組めない!」


「そうです。結局はどちらかを敵として見捨てないといけない。それをここで決断しなきゃいけないんですか……?」


なんでそうなってしまうのか。


「根本が違うんだよ。さっきも言ったけど、最終的に生き残らなければ意味がない。ここに来て思ったけど、二人以上のチームを組んで戦っているプレイヤーはいると思うか?」


「まーた言ってるのかー? いるわけないじゃん。その為にプレイヤーとして一人が最後まで生き残っていないといけないんじゃないか」


「そこが違うんだよ。まず考えなければいけないことは、結末じゃなくてその途中経過。戦うたびに生き残れるかなんだよ」


「ん?」


「…………」


「…………」


少年には理解できなかったらしい。後の二人はそんな当たり前のことを言われて、何が言いたいのか分からないといった態度だ。


「つまり、緋月と葵が手を組めばいいんだ」


「は? だからっ――」


「それって……」


「ひとまず最後の二人になるまで手を組んで最後に決着をつける……?」


「その中に俺は含まれないし、それで願い事を叶えられるのがどっちかも決められるだろ。さっき緋月の願いを手伝うと言ったけど、それは葵の願いも含まれるんだよ。だけどそれを俺は決められないし、決める権利も――」


「ようは優柔不断ってことだな――いでっ」


少年の余計なひと言を黙らせる。


「話を戻すと、必ずチームを組んでいるプレイヤー達がいる」


「頭殴るなよー。だいたいなんで初心者にそんなこと分かるんだよー」


「理由なんか簡単だよ。例えば、願い事が同じ――」


「――っ!?」


「――あっ!?」


「なるほどねー……」


三者三様の反応。


「理由は他にもあるかもしれないけど、敵が必ず一人だと思っていたら」


「生き残れる可能性は低い」


そういったのは意外にも緋月だった。


だが、すぐには決断できないだろう。今まで一人が当たり前、そして裏切りが生き残るために必要だと信じていた世界での変化。


「全ては妹を取り返すため」


手は結ばれない。


「私もまだ自分の願い事を諦めるわけにはいきません」


代わりにお互いの強い意志でお互いを理解していた。


「さて」


残っているもう一人のプレイヤーに視線を送る。


すると、


「ん? 俺? 俺はヤダねー、いつ裏切るかもわからないのに手なんて組めるかよー。あ、でも俺を狙うのはナシなー。その代わり二人のアイテムには手を出さないってことでいいだろ」


取引にしては価値が薄い気はするけど、バカなりに考えていることはあるらしい。それだったら、無理に誘う必要はない。信用がない限りチームが崩れる可能性があるのは危険だ。


「まぁ、いいけど三対一になったときは容赦されないぞ」


「げ?」


少年の甘いところが再確認したところで、一旦の終着だ。俺は頭に浮かんだ二つのアイテムを左右の手に呼び出した。


「黒刀……」


「魔法使いの……」


二人に近づいていく。


「予定とは色々と違ったけど、これで元通りだろ返しておくよ」


本来一度別のプレイヤーに渡ったアイテムを取り返すのは難しい。それは他人の物を手に取ったところで盗んだことにはならず、プレイヤーの能力ですぐに手元に戻すことができるからだ。仮にプレイヤーをゲームオーバーにしたとしても、アイテムは勝者に移らず、持ち物は敗北したプレイヤーの物のまま。だが今回は『盗賊の手袋』によってそれを可能にさせた。


そして今は……、


「完全な受け渡しなら、持ち主が変わるはずだ。念のため試してみた方が良い」


二人は受け取ると葵は呪文で魔女の姿に、そして緋月は『花木』を消して黒刀に持ち変える。


「これで――」


「まだだ」


元の世界に戻れるという前に緋月が遮った。


「仮に結縄の案で葵と手を組むならば条件がある」


言わずとも俺の顔は険しくなったはずだ。解決したと思い込んだうえでのこの状況は完全に意表を突かれた。これで変な条件を出されればこの関係性は崩れる可能性が出る。だが、無視はできない。その結果を速めるだけだからだ。


まだ手を組む決断はされていない。


だから、俺は尋ねるしかなかった。


「それは――」



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