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敗因

結果は変わっていたのだろうか。


例えば、葵と緋衣に『エン』という名を教えていれば……。


例えば、二人がここに辿り着いていたら……、


例えば、二人の頼みを断っていたら……、


例えば、少年のことを詳しく教えていたら…、


たら、れば、の架空の話はどれも過ぎ去ってしまった、だからどうすることもできない。だからこそ、俺は後悔するような選択をしないために考えて行動したのだ。



「当初との予定とは違うけど、目的は達成したかな?」



だから少年の腰にぶら下がっていた鍵を、少年のアイテム『盗賊の手袋』を嵌めた手で掴み取った。


俺は呆然と地面を眺める少年に言い放つ。少年は声を頼りに俺を視界に捉え、追い付かない思考の代わりに叫ぶ。


「なにが……なんで……、なんでッ!?」


「キミが最初に教えてくれただろ。この世界では全てを使えって」

動揺は隠せないようで、少年は失くした黒刀の事も気づかずただ無防備に吠える。


「ふざけんな……俺が勝ったはずだ。なのになんでっ!?」


「一言でいうなら『嘘』。全部、嘘だったんだよ。君に二度目に会った時から俺はこの世界の基本ルールを知っていた。だから――」


「そんなこと……」


起きている事態を認めたくないがために少年は否定し続ける。


「最低減必要な言葉で君のアイテムを使わせてもらった。『回復』の実の使用は体内に取り込めばいい」


それよりも、何度も「なんで、なんで、なんで」と復唱している少年を落ち着かせる必要がある。


「これキミなら知っているよね」


そういって、呪文を唱えず唯一所持している自分のアイテムを手元に取り出した。


「……初期装備の……本」


そう全てはこれがあったから、俺の行動は始まった。


「これ、ただの本じゃなくこの世界のルールブックだったんだよ」


と言っても基本的なことばかりで、アイテムの種類やどんなものがあるとかは書かれていない。それでもプレイヤーの能力の細かな情報は役に立つ。さっきまでの戦闘中で少年が呪文の事を教えてくれたことも書かれていた。


「そんな…………」


アウグーリデセオでの初心者と経験者の違いはルールの把握がもっとも差が出やすい。何も知らない人間がいきなり襲われたら逃げる行動を取るが、この世界で逃げるというのは無理な選択。少年もそれを知っているからこそ、初心者(ルーキー)である俺を狙ったのだ。


だが、俺はアウグーリデセオへ正規の方法で入場していなかったため、行動の選択が大幅に広がることになった。そして、ルールを知ってしまえば俺と少年の差は経験の差ぐらいのもので、初心者と思っている相手への油断はその差すらもないものにしたのだ。


さらに、もう一つ……。


「俺がラストプレイヤーとしてなのか、使える能力」


「他人のアイテムを使う能力……、でもそれは」


言って少年も分かったようだ。さっきの戦闘の始め、あの能力は不発に終わっている。


「あれには焦ったけど、俺は最初から不思議で考えてはいたんだ。それで気付いた。この能力は使う上で条件がある」


「まさか……」


「ああ、どうやらプレイヤーの鍵を触ることで所持しているアイテムを使うことができる」


緋衣の鍵を拾ったことがこの条件を導き出すきっかけになったものの、それはここに来てからの少ない行動から消去方法で出した答えだった。だけど、実のところあれが別の条件で失敗に終わっていたと思うとゾッとする。それでもあの時できる事を思えばそれしかなかった。


「…………ズルイ」


小さく零した少年の言葉に納得はできるが、初心者(ルーキー)をいきなり襲った人間が口に出すには説得力はない。


「さて……」


これ以上時間を使う必要もなくなった。なによりこの場にあの二人が来ていないことが俺にやらなければいけないことを増やしている。


少年に一歩近づく。


「あ…………あぁ」


さっきまでの余裕はもうない。あるのはゲームオーバーを目の前に突き付けられた恐怖から来る絶望の色。鍵を失ったことで少年からは全ての能力はなくなった。


だから、俺はこの場を終らせるために少年の鍵を翳す。


鍵の破壊はそのままプレイヤーの死を意味する。


「ははは…………いやだ、いやだよ……」


乾いた小さな嘆きに失っていく色を目の当たりにして、俺は頬を掻いた。


「あー、感傷に浸ってるところ悪いんだけど手伝ってほしいことがあるんだけど」


勝手にゲームオーバーを受け入れている少年に勘違いさせたことを申し訳ないと思いつつも言い放つ。


「はぁへ? 今更何を、だいたい生き残れるのは……」


アホ面を作っているところ悪いが俺は端っからそんなつもりはない。そんなことをしても何の意味を持たないからだ。


「俺はこの世界で叶えたい願いがないんだよ。だから、それに意味はないし、そもそもここのルールに従って行動するのは、アウグーリデセオの目的ではないよ。あくまで俺の目的の為に行動するだけ、といっても結局協力関係になるなら信用は必要になる」


「そんなの……」


「はぁー、俺はこの世界に敵を作りに来てるわけじゃない。だから、手伝うなら鍵は返すよ」


何を迷っているのか選択肢は与えない。


「て、手伝うっ! 手伝うよ!」


「ん。それと分かっているとは思うけど、あの二人のアイテムはもう盗ってあるし、鍵は返すけど逃げ出すのは無理だからね」


そこまで言って鍵を投げ返そうとして止めた。少年が二人からアイテムを盗んだ時と同様、誰かに見られたりしていると危険、この世界ではこれぐらいの警戒は必要だ。だから、少年の目の前にまで言って手渡して鍵を返す。


「ほ、本当に返した……。――っ!? アイテム使おうとしてもラストプレイヤーの能力で奪うんだろ! それぐらい分かってるよ」


さすがにこの状況だと身の立場を考えていた。


「それで、何を手伝うのさ」


「まだ確かなことは分かっていないんだけど、とりあえずあの二人の所に行きたい。アイテム盗ってるぐらいだし、できるよな」


「できるに決まってるだろ。それに自分だってできるじゃないか」


「アイテムをどれ使っていいか分からないんだよ」


「あそ」


そう言うと二人の所へ行くためのアイテムを投げ渡してきた。


「これか……」


緋衣を見つけた時に使用した木の実だ。


「名前は何て言うんだ?」


こんな時でも情報は知っておきたい。なぜなら、ルールブック曰く、アイテムの引き出しは念じればできるが、名前かそのアイテムの特徴を頭に入れておかなければいけない。そう考えると緋衣の黒刀を最初に引き出せたのはランダムからくる偶然で、その後は特徴があまりに覚えやすかったからできたことだった。


「人の回復アイテム勝手に盗んでおいて、気安く訊いてくんな、バーカ!」


「あ、おい」


「お先っ『プラティカ・移動』」


悪口だけ残して先に行ってしまった。


「着いて来てほしいとまでは頼んでなかったのに……」


後を追いかける形になったことを呆れ、少年が見る俺が敵として認識が確実に減っていることに嬉しくも思う。


そして、あの二人にも気づいてほしい。


全てが敵と思っている間は、この世界で勝者にはなれないということを……。


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