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決着

「葵このままじゃマズイにゃ」


クロの口元から白い霧が零れながら後退しつつ事態が悪化していることを告げる。それは葵も承知しながら葵の装備アイテム『魔法使いの衣』が盗まれたことで限られた戦闘を強いられていた。


「……クロ、私も『水色の水』を飲む」


一つの決断が強いられる。


「それはダメにゃ! このアイテムは人間のままでは体が壊れる猛毒。『魔法使いの衣』がなければ結末は同じにゃ」


「でも、このままじゃ…………。それに縁君の方もどうなってるか!」


「他人の心配をしている場合じゃないにゃっ! そもそもアウグーリデセオで他人の心配にゃんて意味のないことにゃ!」


自身の状況を理解しているくせに他人の心配をする葵にクロの激が飛ぶ。


「でも……私が縁君に頼らなければこんなことにはならなかった」


「にゃっ!? にゃにを言ってるにゃ、そもそもあの小僧に会わなければ盗まれる事にゃんてにゃかったにゃ。それにあの時『七番目の流転(ブルージーミラージュ)」を倒せていればこんなことにぃは……」


そう思いつつもその先は何も言えない。この世界では全てが敵、何が起きても全ては自己決断が招いた自己責任、言い訳など……ましてや後悔など持っての他だった。


「どちらにせよ、この話は後にゃ。世界がプレイヤー同士の戦闘を認識したら『移動・逃走』系のアイテムは使用できにゃい。とりあえず、自力で逃げた後に――」


説教など後回しにして逃げることに本腰を入れようとしたところで、上空から場面を再現するように声が届く。


「無駄だ。立場はあの時と真逆になった」


「――にゃ!?」


クロが反応し上を眺めると同時、視界に交差するように緋月が急降下するのを捉える。


そしてその時には――


「がはっ――」


刃が葵を串刺しにしていた。


その光景を目前にクロが動かなくなる。


「…………次は」


目的を完了させ緋月の白い刀『花木』が引き抜かれた。


信じきれない光景から力が抜けきった様子でクロが再び動きを見せる。


「ばかにゃ……」


緋月は刀をしまうわけでもなく嘆きと思われる声に反応し、体ごとその声のする方に向けた。


――――後始末。


緋月が一歩、歩を進めた途端。


「にゃひゃひゃは! 本当にバカニャッ!」


クロが憎々しい表情で高笑いを始めた。


パキ、とひび割れる音にそちらを向いた緋月の目に、串刺しにされ胸辺りに穴が開き、今にも倒れ込む姿勢で止まっている氷でできた葵がいた。


そして、緋月が持っている『花木』の突き刺した刃が凍り付いている。


「にゃにゃにゃっ! 動く氷人形なんて造るのは簡単にゃ、プレイヤーの葵さえ逃がしてしまえば逃走用のアイテムが使えるにゃ! すでにはこの場にいない、残念だったにゃ。今回は引き分けにしておいてやるけど、次は――」


剣先が凍り付いた刀を無造作に持ち上げ、刀としての特性が失われてもお構いなしに緋月は刀を振りおろし地面を叩く。


「次はない」


叩いた拍子に脆くなった刀が折れ、その断面に驚いた声を上げたのはクロの方だった。


「それに奇遇だな。形は違えど効力は同じだ」


言われ遅れて主人に起きる危機に叫ぶしかなかった。


「あおいッッッッ!!!!」


刀の折れた断面は木でできていた。



本物の緋月が持つ『花木』の鍔がガチャリと音をたてる。


「あ、あ、ぁあ」


「私の勝ちだ」


本物の葵の首に向けられた刀が容赦なく引かれた。



「『プラティカ』」



「――っ!?」


葵のゲームオーバーが確定する直前、緋月の手元から『花木』が消えた。


正確には、別のプレイヤーの手に移っている。


「え……?」


突然の声に葵がそちらを振り向く。


「目を離す度に争ってもらうのは困るんだけどな」


「何言ってるのさー。この世界では当たり前ぇー」


なぜだか二人もいるプレイヤーの一人の名前が呼ばれた。


「縁君っ!」


「結縄縁…………」


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