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縁の戦い

相変わらずのマンションの廊下から抜け出し、二人に遅れてフィールドへと足を踏み入れた俺は森の中にいた。


どうやら、抜け出した最後の場所からのスタートになるらしい。森そのものはあの時と違って破壊された部分が無くなっているが、この世界の力なのか復元していた。


ひとまず、この世界の不思議な現象は放っておいて、二人に会って為すべきことをするために俺は辺りを見渡しながら二人を探し始めた。


俺が戻った位置が同じだとしても二人が争った場所は森の中とは限らないから、少し時間が掛かっているのかもしれない。それまで俺はここを移動しない方が良いだろうと思い、また初期装備に頼って時間を潰そうとした時だった。


「ひゃっほーい、ラストプレイヤー!」


上空から光に体を包み落下してくるあのプレイヤーの少年。地面ぎりぎりで停止して包んでいた光が消える。


「待ってたかー!」


少年の登場に本を片手に警戒を高める。意外と言えば意外だった、そんなに俺に執着するとは思っていなかったからだ。


そんな警戒に気付いてなのか、一方的に話される会話はキャッチボールまではする気も無いようで、少年は呪文を唱える。


「『プラティカ・黒破』」


「――――」


話しに訊いていた盗まれた緋月の刀。


「驚いたかー! 有言通り試し切りだー!」


少年の思考からそう考えているだろうと思った記憶はあるが、有言された記憶はない。


「訊いた覚えがないけど」


「どうでもいいんだよー!」


何一つ間を置かないこの世界のやり方に戸惑いがないわけでもない。それでも俺がやるべきことは、時間稼ぎをして二人を待つこと。形は違ったが、それで俺の役目は達成される。


それに、時間稼ぎぐらい俺にもできる能力がある。


「『プラティカ・黒破』!」


「あっ、こんのっ!」


試し切りがどうのとか言ってはいるが獲物そのものを俺の手に納めてしまえばアイテムの出しあいで戦いにすらならない。


「――――っ!?」


――はずだったのだが、予想に反して俺の手には刀は握られず、まだ少年の手の中に黒刀は納まっていた。


少年が不敵に笑う。


「ラッキー!」


こうなった瞬間、俺に使用できるアイテムがない。


「ゲームオーバーだ、ラストプレイヤーっ!」


「くそっ」


その時――なんてタイミングで二人が現れるのは都合の良い話だ。当然、そんなことは起きなかった。俺は雑に振り回すだけの刀を視界から外さないで、前方に転がることで刀を避け距離を取る。


「あーらら、やっぱり使い慣れないなぁ。ま、いっか試す時間はあるもんねー」


俺は二人が間に合わないことも考慮に入れ時計に手を伸ばそうとした。


「触らせないよーっ」


「くっ」


間一髪、ヘタな剣捌きのおかげで偶然避けられた。体を後ろに倒しそのまま地面へと尻餅をつく。そのまま座っているなんて隙を作ってもいられず、上体を低く後ろに跳ねると同時距離を取った。


なによりも問題なのがこの時計の意味をこの少年が知っていることだ。


「そうか……」


考えてみれば二人のアイテムを同時に盗んだ時、すでに少年は俺たちの動向を窺っていたはずだ。だから、あの二人から同時にアイテムを盗むなんてことを成功させることができたのだ。その時俺の姿も見られていた。


「それ良いアイテムだよねー。訊いたことないアイテムだし、最後に奪えばいいけどねー」


少年はそう言って、一般的にも知られる型で構えた。


「メェええええン」


ふざけた口調で突進してくる少年に一つ疑問が浮かぶ。あの時三人で話していたのを見ていて、なぜこの少年はこんなにも悠長に遊んでいるのか。あの二人が来るとは思わないのか…………。


「ちゃんと避けろよー」


急に刀の速度が上がりタイミングをズラされた。咄嗟に飛び退こうとした瞬間、同じ動作ばかりしていたせいもあり、少年は対応してくる。


「まずいっ!」


少年はどんな表情で俺を見ているのか確認している余裕はない。できればそれを材料に次の攻撃の予測を付けたかったが、今はこの攻撃を塞がなければ人間の体が真っ二つに別れてしまう。


思いついたことは一つだけ。避けることができずに被害を抑えるには自分の体のどこかを犠牲にするしかない。完全にイカレている考えだが、それしか最小限の被害で食い止められない。


俺は左手を刀の刃へ目がけて伸ばす。掴むつもりはない。左腕が切られても軌道を逸らすことができなければ意味がないからだ。だから、切断されてでも振り払うことを選んだ。


「バイバーイ」


少年の余裕が勘に触る。


こんな少年ごときに左腕すらやりたくない。


「はっ」


だから鼻で笑ってやる。挑発のつもりはない。左手を伸ばしたことで俺の視界に左腕を守って尚且つ軌道を逸らす方法が思いついたからだ。


「むかっ」


キィイイイッ! と金属がぶつかり合う音を奏で、少年の体は俺の力によって大きく弾かれる。力んだ手から振り落とされる刀に俺の左腕に嵌められた博士特製の時計をぶつけたのだ。


「いぃっ!?」


刀の重さも加わりバランスを崩した少年を俺は見逃さない。


「手加減している余裕はないぞっ!」


フルスイングで振りかぶった拳が少年の顔面を貫く。


「ぐぅあ!」


地面に投げ出された少年に追い打ちを掛けに走り出す。


「あっけなく終わるに越したことはないんだよ!」


もう一発拳を振り上げたところで、少年の手から黒刀が消えた。


そして、


「『ポルダント・魔法使い』」


装備の呪文、その瞬間少年の衣服が魔法使いのものに変わる。


「葵のアイテムっ!?」


「凍れぇえええええええ!」


無差別に放たれた氷の砲弾があちこちの木々にぶつかり木々も地面も凍らせる。


だが、殴るのをヤメ守りに入った俺の体に異変はない。


「当たらなかった……」


「くそーっ!」


初めてのアイテムを使いこなせないなら、確かに俺みたいな初心者を狙うわけだ。それはお互いに運が良い事でもある。


「ああっ、動きづらいっ! 『プラティカ・黒破』」


少年は魔法使い長いローブがお気に召さないようで服を消し、黒刀だけを呼び直す。


「魔法使いは今度だ。ラストプレイヤー、お前はこれで絶対に斬る!」


「子供だな……」


おかげで状況は悪化したことが分かった。


葵と緋衣がここに来るまですでに時間が経ちすぎている。ならなぜ来ないのか……。あの二人は俺のプレイヤー名を知らない恐れがある、それに接触と言える行為も行っていないから俺の居場所を調べることができないでいる可能性が高いのだ。


……だが、安易に出した自分の解答に何かが引っかかる。本当にそれであっているのだろうか、他にも理由があるのではないかと。


「ふー」


深呼吸をしてもっと思考をフル活動したい。そのために目の前にいる少年と決着を着ける必要がありそうだ。


「確率の低い賭けだけど、俺の分野だな」


幸い相手も刀を使いこなせていないし、俺の拳の感触がそれを覚えている。


「なに、喧嘩? うっひひ甘いよー、ラストプレイヤー。そんなんで俺は負けたりしないぜー!」


「負けは論外、勝てば上出来、目的を達成できれば最高ってとこだな」


「マジ……? ぷふふふっ面白い!」


笑っていろ、残念なことに俺の幼馴染の親友は喧嘩最強。その相手をしたことも昔はある。


「殴り合いで勝ったことはないけど……」


そんなこと気にする必要はないな。相手は林檎じゃない、単なるプレイヤーの少年だ。


「こーいっ! ラストプレイヤーッ!」


俺の戦いが始まった。



少年は喧嘩だと理解した途端、またも饒舌になり始める。


「おらおらおらー!」


本当に刀を使いこなす気があるのか、丈に合わない武器をまるで子供同士のヒーローごっこのようだ。


ただ闇雲に振り回すだけの懐に入り込みかちあげるように拳を叩みこむ。戦略などない。ただ相手の動きに合わせただけ、そんなシンプルな行動でも喧嘩というこの世界での甘さが、少年の動きに余裕を与え楽に攻撃は成功する。


「ぐぇっ」


少年は腹部の痛撃に視線を彷徨わせ体格の差から浮かび上がる体を刀で止める。そして、また誰もいない空間に刀を無造作に振るった。


「や、やっるー」


痛みを伴いながらそれでも余裕で勝ちたいがための虚言。このまま続けば俺は勝てるだろうが、少年の余裕の根源は消すことができないのも事実。だからと言って俺は止めたりはしない。喧嘩だと思っていてくれるなら、そのまま俺は続ける。


頬の一発、腰に蹴りを、腹部に同じく殴打、何度となく体格差と喧嘩歴から食らわせていく。何度となく繰り返し、一太刀もかすりもしない苛立ちと痛みから少年の表情がいよいよ苦々しく汚れていた。


悲しいことに俺の拳など林檎のように一撃の威力はない。だから、体格差があろうとこの世界で生き延びてきた少年には決定的なものは与えられないでいる。


それを少年は挑発されているように思ったようだ。


「こ、このやろう……」


それは俺のせいではない。


身の丈に合わない刀の所為で少年は刀に弄ばれているからこそ、刀の振りは遅いし、そもそも持ち上げられる高さが徐々に下がってきてしまっている。体力の低減が出てきていた。


「もういいっ! 使いこなすのは今度にしてやる!」


癇癪が刀を引込めさせた。


それはお互いにとっての合図。少年が掌を上に新たなアイテムを引き出した。


「安心しなよー。これはアイテムでもさっきまでの物とちがうんだからさー。そもそも『プラティカ』っていうのはアイテムの取り出しの呪文じゃないんだよー。あれはアイテムの能力を使う為であって、出すだけなら呪文なんていらないんだー」


また少年の余裕。


「あの二人からアイテムを奪った時もこれを使ったんだー。だってあの二人から『盗賊の手袋』だけじゃさすがに無理だろ。だいたい、あの二人はずるいんだよー。あんないいアイテムを持って戦うなんて、俺なんて武器一つ手に入れられなかったのに。あ、今は違うけどねー」


その余裕に腹は立ってこない。むしろ警戒させてもらうだけありがたいくらいだ。


「そうそう、この木の実はね。『回復』――」


一つの実を少年は飲み込む。するとさっきまでで殴打の後がスッっと消えた。


「――と、こっちは『倍力』」


もう一つの実を含んだが今度は変化が見えない。


「盗った時は『倍速』もあったんだけど、あれが最後だったんだよねー」


そう言った途端、傍にあった大木を拳の横で殴りはらった。


ドンッ!!


「なっ!?」


大きな音をたてて中間から折れた大木が地面に転がる。体格差など意味がない事を見せつけられた。少年の細目の腕で簡単になぎ倒された大木を見ればあの木の実が意味していることが理解できる。


その結果、少年に近づくのは自殺行為。


触れたら死ぬ。


「こんどは――ッッッ!?」


だからこそ俺は正面から最短の道を行き少年に突っ込んだ。


近づくことができないということをアピールしたかったんだろうけど、それに引っかかってやるほど俺もバカじゃない。なによりしゃべり過ぎだ。力が人間離れしたのは見て分かるが速度は上がっていないのなら、隙だらけの内に近づくことは可能。そして、回復したことで俺の攻撃に無意味さを知らしめたつもりだろうが、少年が攻撃スタイルを変えたタイミングで俺の狙いも実行させてもらう。


俺の狙いは初めから、


「しまっ――」


腰にぶら下がっている鍵の方だ。


懐に飛び込んだ瞬間の少年の表情は間違いなく予想していなかった俺の行動に驚いていた。それは俺も想定の範囲内で起きて当然の出来事。


だが、そこからは俺の目論見が大きく外れていく。


――――死ぬ瞬間、全ての時間がスローになるなんて話は有名だが、実体験することになるとは思っていなかった。


度重なる予定外の連続に少年が慣れ始めていたということが問題だった。


少年の驚いた表情が次第に崩れ、勝利を確認しての冷静さを取り戻す。


まずい! そう思った時には少年は伸ばされた俺の手を無視して触れることだけを許し、逆転の一発を入れるため小さく拳を振るったのだ。


第三者がこの光景を見ていればおそらく拳が優しく触れた程度、それでは人間を悶絶させるどころか態勢すら崩せないだろう感想を抱く。ところが、現実世界ではありえないアイテムという効果がそれを可能にした。


見た目では、トン、といった程度の拳の触れ合いが鈍器で思いっきり殴られる効果音を生む。


ガッ、ゴッッッ!


「がぁあああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」


脇から滑り込むように俺の腹を叩いた少年の拳はアバラの数本を砕いていた。意識を繋ぎとめていたのが奇跡、鍵に指先を触れさせてもらえたことが現実、それはあまりに大きな代償。


「ふー、あぶなー」


痛みを感じるよりも呼吸ができない。


「がっ…………あ………くはぁっ…………」


プレイヤーとしての経験値の差が明確にでた結果。


俺が何度も与えたものが無駄に終わり、一つのアイテムだけで状況をひっくり返された、力の差。これがアウグーリデセオのルール。


強いものが生き残り、弱いものはゲームオーバーを迎える。


このまま放置されても絶命するが、少年はそれを許さない。


苦しむ俺の後ろの方で地面が踏まれる。


…………逃げないと……、


じゃり。


せめて距離を……………。


「『プラティカ・黒破』」


影が俺の上へと忍び寄る。行きも絶え絶えに俺の右手が少年の足を掴み、左手は苦しみに口元を抑えた(・・・・・・)。


「がんばった方だよー。初心者(ルーキー)


「―――――…………ィ…………か」


俺の声を無視して黒刀が下ろされた。



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