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プロローグ「人口神隠し機械(仮)」

再UP作品です。


読みやすいように全編集していますが、作品の内容自体には変化はありません。


編集終わり次第次々UPします。

停電が一時間も続いている中でソレは完成した。一人の老人が歓喜と徹夜の不思議なテンションで踊る姿は、暗闇の中で微かに光を照らす非常灯で不気味さが増している。


「ついに、できた! やっとだの現!」


主人の喜びも共に徹夜を経験したペットの犬のはそれどころではなさそうに、欠伸を一つする。犬の年齢でいうなら老人と変わらないからか、たまらなく眠そうだ。


その様子を見ていた老人はようやく時計に目をやり、現在の時間を知る。すると停電から回復した合図と言わんばかりに電気が暗かった部屋を明るく照らした。


「おお、タイミングがいいの。これで……、とその前に嵐は止んだかの」


そう言いつつ、部屋に備え付けられているモニターの一つの電源を入れ外の様子を、監視カメラを使って窺い始めた。


カメラ越しに見える外の風景は、穏やかな天候になりつつある。あと数分もすれば止むだろう。


「これなら、いつも通りには来るはずだの」


確認し、この家にやってくる人間の到着時間を割り当てる。それならば、と急ぎ足で完成させたソレの傍まで行けば、何度も確認して何度も調整したことをまた繰り返す。失敗はないとすでに確信していても心配がそうさせている。


「テスト段階終了。問題なし。後は実装するのみ……」


完成時はあんなにもはりきり喜んでいた心も、いざソレが動く時が来ると思うとどこが寂しい気持ちと一つの諦め、そして、最後の方には声は消沈させた。


「できたというのに、もうこんなに歳をとってしもうたの。長い年月だった……本当に長い」


考え深そうに呟くその言葉の中に老人は思うことがあるのだろう。昔の記憶を思い出しながら、それでも辿り着くのは喜びが大きい。


「ふ~、あとはこれを使う者に任せるしかないの」


本来ならば自身がソレを使ってみるはずだったのだが、長い年月で人の体は脆く老け込んでしまっている。だから、そこは諦めて他人に任せる(すべ)しか残っていない。だが、それも長い年月の間でめぼしい人物を見つけている。


「あやつは使ってくれるだろうか?」


許可など取っていない。取らずともその人は必ず使ってくれると信じているからこそ、今までソレを作ってこられたのだ。


「さて、準備だけして少し眠るとしよう。あと数時間もすれば来るだろうからの。そーと決まればこれは机に出して、おっと肝心なことを忘れておったこやつの名前を考えておらんかったの」


目の前に完成されたソレを眺めながら、必要になるであろう名称を寝不足の脳みそを使って考え出した。


「こやつの名は――」


そして、それは案外早く考え出される。



「人工神隠し機械(マシーン)だ!」



ババーン! と効果音が流されていそうな勢いで付けられた名前。徹夜さえしていなければ、もっと慎重に考えていれば、他にも誰かがいればと思ってしまうほど安直の名だった。


そして、満足して眠りに付こうとした老人は、寝る寸前で正気に戻る。


「…………ないな、あの名は……。何れ(いずれ)変えるか……」


こうして人口神隠し機械(仮)が完成した。



             ◆


どうなるかと思っていた雨は配達前には晴れ、新聞配達で古くなった自転車のブレーキ音が鳴り響いた。


「あー」


朝から厄介なものと遭遇して呆れて出る息はうっすらと白さが残る。自転車を漕いでいた分寒くはないけれど、まだまだ肌寒い季節だ。それも川の近くとなると視覚から寒さを感じるような気さえする。


帰り道のサイクリングロードは川を挟んで両側に伸びている。その川を渡す橋の下で、その厄介な事件は起きているため、俺は自転車を止めて見守らなければいけない。なぜなら、橋の下にいる片方が來稑(くるわせ)林檎(りんご)という名の幼馴染だからだった。


「……まったく」


毎度のことながらため息が出た。悪名が轟くほど有名になりつつある林檎は昨夜の嵐で早くなった川の流れを無視して怒号を発している。それも今回の相手は女の子のようだ。


「珍しいな」


男でも目を合わせることを避けるほどの親友に少女が相手になるのは初めてかもしれない。同い年ぐらいの少女は長い髪を後ろで縛っており、始めから戦闘準備を整えているようにも見える。


「まさか、向こうから…………」


これも珍しいことだ。大勢で林檎に因縁を掛けること事態少ないのに、それが女の子一人で立ち向かうなど無謀としか言えない。まず、相手にならないはずだ。


そう、思っていたのだが、俺が乗ってきた自転車のブレーキ音に気付いて林檎がこちらに顔を向けて状況は変わる。


「お、縁」


体ごとこっちに視線を送っている林檎は隙だらけもいいとこ、殴ってくださいと言っているようなものだ。もちろん、少女がその隙を見逃すはずもなく、林檎の脇腹に少女の拳が突き刺さった。


「あ、てめ」


会話を邪魔されたことにイラつきを覚えたようで、やっと少女の方へ林檎は向きなおした。


しかし、不意打ちを食らっても林檎の身体はピクリとも動いていない。知り合いという立場だが、卑怯だと表現したくなる――それと同時、少女を同情する。


少女は殴った拳を擦りながら苦い顔を作っていたからだ。攻撃を仕掛けたはずの少女の拳の方がダメージを負ってしまっている。勝つ勝たない以前に勝負にすらなっていない。


「くっ、こんなに……」


少女の唇がわずかに言葉を発しているようだが、サイクリングロードから橋の下までは距離があって聴こえるわけがない。何を言っているのか林檎ぐらいの距離なら聴こえているかもしれなかったが、


「弱すぎンだよっ!」


後で林檎に訊いても覚えていないだろう。それ以前に訊いていたのかさえ怪しいところだ。


林檎は殴られたことでようやく臨戦態勢を整える――


「逃がすかよっ」


よりも早く状況を悟った少女はその場を後にしようとしていた。


少女は無謀な行動をした割に状況判断は正しい。けど、そうなるとますます林檎から喧嘩を売ったとは思えない。自分が売った喧嘩で逃げる相手を追うことなど林檎はしないからだ。


「止めないとな」


そんな分析をしている場合じゃなかった。林檎が少女を捕まえようとする前に、林檎を止めないといけない。少女にわざわざ怪我を負わせる必要はないし、怪我をさせると後々面倒が増える。それが例え少女が喧嘩を売ってきたとしてもそれは変わらない。


「林っ!」


俺の声に林檎が止まる。長い付き合いだけあって余計な言葉を投げかける必要はないのが救いだ。


「ちっ」


素直に止まった林檎の様子を見る限り喧嘩を仕掛けてきたのはやっぱり少女の方、にも関わらず逃げて行くのが納得いかないのだろう。気持ちは分からないわけじゃないけれど、今は押さえてもらうしかない。俺も一旦事務所に戻らないといけないし、長い時間ここで立ち止まってはいられないのだ。

それでも林檎に喧嘩を売ってきた少女の事が気になって、最後に遠ざかる少女を見た。


すると、視線が合う。


その目には感謝の意図は窺えない。ただ確認の為だけだといったような視線、それも数秒と時間は掛からず少女は姿を消した。


少女がいなくなってから改めて林檎を宥めなければいけない。俺は斜面になった道を下り、橋の下まで近づいていく。


「それで何が?」


苛立ちを隠すことなく川べりの砂利を思いっきり蹴飛ばしている林檎に、一応理由ぐらいは訊いておくことにする。


「あっちから来たんだからな」


「みたいだね」


悪い事はしてないと言いたげな林檎の答えには肯定しておく。けど、喧嘩をしないという判断ができなかったのか……。そう思ったが、口に出すだけ無駄だから止めておいた。


「なんなんだあいつ」


「知り合いじゃないのか?」


「しらねぇよあんな格闘女」


「格闘?」


「たぶん、なんか習ってんだろ。動きがその辺のカスと違った」


それが林檎に喧嘩を吹っかけてきた理由か……。ようは腕慣らしの為に林檎を使われたか。


「しかしそんな相手に一発くらって平気なんだな……」


一応、褒めたつもりだ。


「しらね。あーあ損した、帰ろうぜ」


「残念、俺はまだバイトの途中だよ。それに博士(ドクター)のところにもいかないと、なんだか最近機嫌がいいみたいだから、何か嫌な予感はするんだけどね」


「あー、そうか。じゃあ先に帰るわ、博士によろしく言ってくれ」


林檎と博士は知らない仲ではないのだが、俺達が幼い頃に起きた機械の爆破というトラウマを植え付けられてから林檎は博士の家に行きたがらない。


「わかった」


ぴらぴらと手を振りながら帰っていく林檎を見送りながら、さっきまで二人が喧嘩していた後になにかが光った。


そこまで行き、川原の砂利を手で払いながらその物を拾い上げると、骨董品の鍵のようなものだった。銅のような素材で白色にコーティングされた鍵。


「林檎……のではないな。さっきの子のか? ……ま、いいか」


喧嘩の前から落ちていたのかもしれないし、機会があれば警察に届けるとして、そろそろ時間がなくなってきた。


「自転車返さないとなっ」


自転車の場所まで斜面を駆け上る。


そして、嫌な予感が当たるとも知らずに、博士の家へと行くために俺は急いでバイトを終らせに自転車をこぎ始めた。


変更点などは活動報告の方に記載しておきます。

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