第7話 ついに勇者にもさせられました。
またこの展開か…。
「はぁ」と2人に聞こえないように、小さくため息をつく。
アリアが何か呪文のような言葉を唱えると、スクリーンのような穴に美しい街が映し出された。そこは、ジュノが見してくれたところとは、何もかもが異なるようで、はっきり分かれていたんだと容易に想像できた。
自然と調和して、とてもいい雰囲気のその街には、魔族と違う魔法のようなものを使う人たちが、結構いた。
「あの人たちは、神族です。神から授かった力を使っているのです。」
「魔法じゃないの?」
「はい。魔法とは違い、自分で作ったりすることはできず、それぞれ生まれ授かった力を使うことしかできません。」
神族の力って応用聞かないのかぁ。残念にも思うけど、今は魔王並みの魔法が使えるのか。
ジュノは、無言で(まぁ、今猫の姿だから当たり前だけど)映像をにらんでいた。
相当、嫌いなんだろうな。
楽しそうに、力をうまく使いながら遊ぶ子供たち。それをそばで見守る母親。よく見ると、母親も力を使いながら、仕事をしていた。
急に映像が変わった。子供と母親たちが魔族の男に追われているのだ。逆の光景もジュノに見せられた。
「神族はその力の大きさゆえに、奴隷商人や違う種族につかまってしまったのです。そして、その多くが魔族の仕業。」
こぶしを握りしめながら言うアリアは、真剣に魔族を憎んでるんだと思う。でもあたしから言わせてもらえば、それぞれのはみ出し者の仕業で、全部が全部そうだというわけじゃない。この2つの国は、話し合いの場を設けなかったから戦争になって、魔族が虐殺される羽目になった。リセル帝国の、ただの判断ミスだ。先入観は怖いね。
それからしばらく映像を見た。ほとんどは、ジュノに見せられたものと同じだった。でも、ここから、違うものが入ってくる。ジュノの仲間が虐殺される、少し前のことが。
会議か何かをしているらしく、たくさんの老人たちが円を描くように座っていた。
その老人の中の、一番偉そうな人が立ち上がった。
「これより、魔界に兵を送り魔界のものを倒す。皆準備しろ!!」
その一言に、周りの老人たちは騒めいた。だが、誰も異議を唱える者はいなかった。
そこであたしは思う。こいつら完全にいかれてるか何かされている。洗脳じみたこととか。でも、だからと言ってどうにかなるわけではない。1000年も昔のことだ。もうこの老人たちは死んでいる。どうにかしなければならないのは、お互いの偏見。それをどうにかすれば、あたしもこんな苦労はしなくて済む。誰か、してくれないかなぁ。…無理か。だったらほっとく。あたしには、何も関係がないんだから。
それから、リセル帝国に続々と兵が集められ魔界に攻撃を仕掛けた。奇襲だった。慌てふためく魔族たちを、ニヤニヤと笑いながら見ている、あの偉そうな老人。
「あの人は誰?」
「あの方は皇帝陛下よりも上位に位置する存在。私の次ぐらいに偉い存在です。」
アリアの次に偉い存在。ってことは、実質あいつが国を操ってるわけか。
「今でも存在するの?ああいう役職?の人。」
「はい。今はベルウェール・アセリアルというものが、その存在『神族長』を務めています。」
アリアの話によると、『神族長』というのは神族の生まれ持っている力が一番強いものがなるのだという。皇帝はまだ、神族しかいなかった時代に女神リリーヌが一番信頼していた神族の長の子孫らしい。
信頼できるものと、強いものは違うのか。
映像をすべて見終わったらしく、気づくとさっきいた部屋にいた。
「お願いですユウラ様。どうか勇者になってください。」
「そんなこと言われても無理なものは無理。別の人探せば?」
「固定!!」
わけのわからない言葉を発したアリア。その言葉のせいかあたしは動けなくなった。
「ごめんなさいユウラ様。これは女神リリーヌの力を借りました。あなたになってもらわなければ困るのです。ご無礼をお許しください!!」
謝ったと思ったら、勢いよくあたしの腕にかみついてきた。
またこれかー!!もうこれ勇者確定じゃん。めんどくさ!!何にもしないけどね。
「女神リリーヌよ今このものに、勇者の力を与えたまえ。」
勇者になっちゃったみたいです。これであたしは、あたしを倒すことになりました。
魔王と勇者が同一人物なんて…。アリア、この事実知ったらどうなるんだろ?
なんだか急に眠たくなってきたから、意識を手放しやわらかいベッドへころがった。
遅くなりました。本当にごめんなさい。
途中で『固定』というのが出てきましたが、自分で適当に考えました。こういうのが時々あると思います。