6話
お互い探りあいながらも、穏やかな日々が続いていた。
だが、それは突然終わった。
昼食を食べ、食後のお茶でくつろいでいた時、乱暴にドアがノックされた。
急いで出るとそこには茶髪で垂れ目の体格がいい1人の兵士らしき格好をした人が立っていた。
「何か御用でしょうか?」
「ここに銀髪の男はきていないだろうか?」
そう言われ、小屋の中で優雅にくつろいでいるギルに視線を向けた。
兵士も詩帆につられてギルの方へ視線を向けると、詩帆を押しのけズカズカと小屋の中に入っていた。
「こんなところで何のん気に茶なんか飲んでるんですか。俺たちをさんざん使っておいて・・・。隊長が戻らないから王が心配してますよ。」
「・・・うるさい。あの男が心配するわけがない。」
「・・・薬師は城下街で見つかりました。ただ駄々をこねて城に戻るまで時間が掛かりそうですが・・・。」
「そうか。」
「・・・・・・早く、戻りますよ。そんで、薬師を説得するのに手伝ってください。」
「戻る気はない。」
「仕事人間のあんたが何言ってんですか!!!」
今、とんでもないことが聞こえた。
ギルは何かの隊長で、さらに師匠は捕まってしまったと・・・。
師匠の方はどうやら説得とか言っているから、暴力沙汰にはならなさそうだからとりあえずは大丈夫そうだが、ギルは隊長って・・・私には関係ないが本当にここでのんびりしていて、大丈夫なのだろうか。
まあ、大丈夫ではないからこの兵士が向かえに来たのだろう。
ギルがここを去れば、異世界人だとばれる要素はなくなるので、ここぞとばかりに兵士の味方をすることにした。
「・・・あの、師匠が見つかったのなら、ギルがここにいる理由はないですよね?」
「私がここに居ては迷惑か?」
・・・そんな捨てられる子犬のような目をしなくても。
そんな顔をされると、はっきり迷惑だといいにくい。
ノーが言えない日本人には、私じゃなくてもこの場ではそんなことは言えない。
「そういうことではなくて、ただの疑問です。前に言ってたじゃないですか、師匠が戻ってくるかもしれないからここに居るって。師匠が見つかったのならここにいる意味ないですよね?・・・しかも、隊長って呼ばれてたじゃないですか。そんな上位な役職の人が、ここでのんびり過ごすのはどうかと思います。」
「・・・わかってはいる、だが私はお前と離れたくない。」
「・・・・・・。」
何言ってんだ、この男は。
そういえば、私が作る料理を大絶賛してたな、こんなおいしい料理は食べたことないって、世界一だって・・・。出汁もとれないし、下味もつけていないほぼ塩のみの味付けを。普通に考えたら、おいしくないと思うが、この世界の料理が壊滅的ならありえる・・・。料理の味が忘れられなくて離れたくないとか?
もしくは・・・一緒にいる内に恋が芽生えたとか?
ほとんど会話してないぞ?
でも、考えるとその兆候はあったような気がする。
薬草摘みに行った時、毎回その辺にあるきれいな花を摘んできては、渡してきた。
そういえば、やたらとスキンシップをしたがったような気がする。
なら、料理がおいしいって言っていたのも、惚れた弱みかも・・・。
・・・うん、このことについて考えるのはやめよう。自意識過剰女になる。
ギルの気持ちは置いといて、帰ってもらうことだけに集中しよう。
「・・・とりあえず私は自分の仕事を放り投げる人は嫌いです、嫌いな人とは一緒に居たくありません。」
「そんな!!それでは、帰らなくてはいけなくなるじゃないか!!だが、私はお前から離れると生きてはいけない・・・。」
「なに大げさなこと言ってるんですか。死にはしないですよ、離れたぐらいで。っていうか、この人生で一緒にいた時間の方が少ないのに。」
「その穴を埋めるために一緒にいたいのだ!!」
「意味がわかりません。」
「はいはい、ストップ!!」
いままで、黙っていた兵士が突然口をはさんだ。
「要するに、この女は隊長のアザの持ち主ですね、異世界人って訳だ。」
「なに言ってるんですか!私は異世界人じゃないです!!」
「・・・隊長を今まで知る限りでは、物にも人にも執着したことはない、仕事以外に無関心な人だ。これほどの変化があるのなら、間違いなく隊長と同じアザを持つ異世界人だ。薬師から聞いてないのか?同じアザの異世界人はこの世界ではかなり影響力があることを。」
・・・そこまでは、聞いていなかった。こっちが不利になることしか、聞いていない。
ってか、やばい。
ギルが私を強制労働もしくは監禁する人ってことか。
目の前にいるから・・・もう、逃げようがないじゃないか。
「私をどうしようと言うのですか。」
「とりあえず、俺たちと一緒に城に来てもらう。そんで、隊長にくっついて行動してれば、貴族たちに睨まれることもない。・・・それなら戻ってきますよね、隊長。」
「ああ、もちろんだ。」
またもや、選択肢はないのか・・・。
口惜しいがとりあえず付いて行って、機会を見て師匠と合流するにしよう。
この森でしか生活したことがない私一人では太刀打ちできない。
「ということだから、出かける準備してね。出かけるって言っても、戻れない可能性のほうが高いけど。」
「わかりました。」
こうして、私は嫌々ながらも森をでることになった。