3話
男は、夜中やはり熱がでた。
水分補給に気をつけ、一定の時間に様子を見るようにした。
詩帆は男の額に乗せていた布をとり、水に濡らして絞り、また額に乗せた。
もともと体力があるのか、明け方には熱はひき穏やかに寝ている。
詩帆は仮眠をとろうかと思ったが、ベッドの隣の床には男を寝かしている。
さすがに隣で寝るのは、無防備な気がした。
寝るのを諦め、朝食の準備をするため台所へ向かった。
「・・・ここは?」
料理を作っていると少し離れたところから声が聞こえた。
どうやら、男は目を覚ましたようだ。
振り向こうとしたが、冷たく対応しなくてはいけないことを思い出し、振り向かず料理の続きをすることにした。
「・・・お前は、誰だ?」
足音を立てずに近づいてきたのか、真後ろから声がした。
振り向いてみると、男は剣を抜き、こちらに向けて構えていた。
詩帆は息を詰まらせたが、男の様子を見て溜め息をついた。
立っているのが、やっとのようだ。
机に片手をついて、さらに薬を付けて貼っていた布からは、血がにじんでいる。
よく足音を立てずにここまで歩けたものだ、と感心した。
「動いたせいで血がにじんでますよ、布を付け替えますね。」
布と薬を取りにいき、男に近づいた。
剣で威嚇されるかと思いきや、詩帆にされるがまま、おとなしく立っていた。
かなりしみるはずだが、なんの反応もない。
不思議に思い、男の顔を見るため見上げると、頬を赤く染めていた。
熱が出たのかと思い、男のおでこに手をあてたが平熱だ。だが、さらに頬が染まった。
この男が照れ屋なのか、それとも男女の接触があまりないのがこの世界の当たり前なのか。
そういう事情を師匠から教わっていない。もっと、聞いておくべきだったと後悔した。
とりあえず今後の対応としては、あまり接触はしない方がいいと判断した。
「お前が私を助けたのか。」
・・・上から目線だ、貴族決定。
なら、この質問の答えは決まっている。
「家の前で死なれては凶暴な獣が寄ってきます。それは困るので仕方なく・・・。傷が塞がったら出て行ってくださいね。」
あくまで迷惑そうに、だが失礼になりすぎないよう敬語を使った。
プライドの高い貴族を怒らしたらなだめるのに大変だ。暴れられて薬作りの器具を壊されたら、ここでの生活ができなくなる。
男の様子を見てみたが、迷惑そうな対応でもあまり気にしていないようだ。
「名は?」
「名乗るほどの者ではありません。それより、早く直して出て行ってください。」
名乗るのは非常にまずい。
この世界はアジア系の名前は少ない。
現に師匠は黒目黒髪で見た目は日本人なのに名前はリセリア。完璧に外国人名だ。
一応、偽名は考えているのだが、あまり使いたくはない。
「ここには薬師が住んでいたはずだが?」
「3ヶ月ほど前から出て行ってます。まだ、一度も帰ってきてません。」
「チッ・・・逃げたか。お前は薬師とどういう関係だ。」
「弟子です。3年ほど前からお世話になっています。」
どうやら男は、師匠を追っているようだ。一体、師匠は何をしでかしたのか。
疑問が表情に出ていたのか、男は説明を始めた。
「何も知らないのか・・・。あの薬師は異世界人、それも王と同じアザを持つものだ。5年前に城から逃げた。王はすぐこの場所を把握していたが、あえて自由にさせていた。・・・だが、もう限界のようだ。我慢しきれず、王命を出した。薬師を城に連れ戻せと。」
「!!!!」
この男の言うとおり師匠が異世界人なら、言っていた強制労働もしくは監禁は正しいことになる。
私が師匠から聞いたこの世界のことは、師匠自身がこの世界に来て、実際にうけた仕打ちだろう。
多少違うとすれば、王族が傍観ではなく、王族も強制労働もしくは監禁するという悪い方向に。
「居場所は、知らないか?」
「知りません。」
その質問を最後に、男に背を向け朝食作りを再開した。
後ろでため息が聞こえたが、あえて無視した。
詩帆は朝食を作り終えるまで、青ざめた表情を元に戻すことに集中した。
小屋の広さは12畳の1ルームマンションの一室くらいです。広いですが、家具に本棚、薬を作る道具などがあるので、狭く感じます。
風呂はなし、近くの川に入ってます。
ちなみに、トイレもなし。その辺の草むらでしてます。