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ナズナと桃  作者: 花夜
5/13

朝ごはん


朝、腕に何かが当たって、目が覚めた。

目を開けると、目の前に困ったように慌てている小夜がいた。どうやら、俺を起こしてしまったことを自分で責めているらしい。


「お、おはようございます」

「ん・・・?・・・・おはよ。今、何時?」


小夜は時計を見てから、言った。


「5時・・15分ぐらいです。もう一眠りしていてください。7時になったら、起こしますから」

「ん・・・小夜は?」

「起きます。朝ごはんを作らなきゃですから」


「失礼します」と言いながら腕の中から逃げようとしたが、腕の力を強めて、動けなくする。小夜は、困ったようで、眉頭がぐぐっと下がって左右が寄った。今朝は、困らせてばかりだ。


「あの・・・恭弥さま?私、朝ごはんのしたくが・・・」


おそるおそるという感じで、意見を言うが、もっと強く小夜の体を締める。小夜が小さく「ん・・・!」と言葉を漏らした


「昨日、寝るのが遅かったろ?

もっと、寝てなよ。朝ごはんは、適当でいいから。白米と梅干だけでもいいよ」


小夜が、信じられない!というように目を見開いた。


「ダメです!!

恭弥さまと香里さまに、そんな粗末な食事出せません!放してください!!」


初めのうちは、腕の中でもがく小夜がかわいいと思って放さずにいたが、だんだん、小夜の目じりに涙が浮かんできたので、しぶしぶ、力を緩める。小夜の泣き顔は好きじゃない。

小夜は、慌てたように出て行って、落ちていた浴衣を着た。

何か、痛そうなそぶりも無いし、自分を嫌ってるようなこと感じもしないので安心する。


「では、失礼します」


襖の前で一礼する。それだけ、動ければ大丈夫だろう。安心して、二度寝をし始めた。


    *        *           *          *


「恭弥さま。起きてください。7時になりましたよ。恭弥さま」


おとなしい子犬のようなか細い声を合図に薄く目を開けるが、体は動きたくないと我が儘を言っている。


「・・・あと5分だけ」


小さく提案すると、今までの小夜が信じられないぐらい、厳しくなる。


「ダメです!

この前だって『あと5分』って言って、ずっと寝てたじゃないですか!それで、大学を遅刻したでしょう?電車だって、無くなっちゃいますよ!早く、起きてください、恭弥さま!!」

「分かった、分かった・・起きます」


ヨッと勢いをつけて上半身を起こすと、小夜は満足気に頷いて、


「じゃあ、朝ご飯の支度してますから。早く、来てくださいね。お味噌汁が冷めちゃいますよ」

「ん。分かった」

 

       *          *          *       *


居間では、誠二兄さんと香里姉さんが座って、テレビを見ていた。

「おはよ」というと「おはよぉ~」と「おはようございます」という2種類の返事が聞こえた。

小夜が、ごはんをお盆に載せて、持ってきた。


「おはようございます。どうぞ」

「ん。ありがと」


今日も、白米に味噌汁に魚。世間一般で言う、ちゃんした朝食というやつだ。物心つく前から、朝食はこんな感じだった。

小夜が、まだ何か作る気なのか、台所に立つ。台所は小夜の場所(もの)なので、一度も入ったことが無い。たぶん、姉さんもそうだろう。この家で、台所に入ったことがあるのは、小夜と小夜の死んだ母親ぐらいだ。


小夜が料理を作りだしたのは小学生の頃からだ。

それまでは、どこから来ていたのか知らないが、40ぐらいのおばさんが通い込みで作っていた。

そのおばさんから、少しずつ習っていたのだろう。小5ぐらいの時には、和洋中、ほとんど作れるようになっていた。


小夜の作った朝飯は、どれも出汁から取られており、どれだけ手間暇が掛かっているのかを静かに主張した。



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