表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナズナと桃  作者: 花夜
3/13

結婚したい人


「誰か結婚を約束した人はいないの?」


姉さんが、花を活けながら尋ねる。庭から取ってきた、水仙の色が鮮やかだ。


「いない。というか、19歳でいる方が不自然じゃない?」

「まぁ、普通はね。でも、あなたは普通じゃないのよ。分かってる?」


パチン、と枝を切る。剣山は、亡くなった母親の物だ。


「村治家の長男なのよ、恭弥。村治家のためにも、子供を―――跡継ぎを(つく)ってもらわないと」

「・・・分かってるよ」

「なら、いいけど。

  じゃあ、結婚したい人、今つき合ってる人とか居ないの?恭弥なら、モテるでしょう?」

「つき合ってる人はいない。でも・・・・」


この後を、続けようかと悩み、窓の外を見る。姉さんの部屋は、茶室を広くした感じだから、窓は小さく、丸い。外では、小夜が、汗をかきながら洗濯物を干していた。確かにいい天気だ。


「『でも・・』何よ?」


姉さんが、少しイラついた口調で尋ねる。目線を外さずに、呟くように言った。


「・・結婚・・したい人、いるよ。」


姉さんが身を乗り出してきた。


「だれなの?この町の人?名前は?」

「うん。この町の人」


改めて、着物の裾や帯を直し、正座で姉さんに向きなう。我が家は、基本的に着物だ。


「俺が結婚したい人は・・・河瀨、河瀨小夜です」

「えっ・・?」


姉さんは、口を開けたまま全ての行動を止めた。無言で、俺の顔を見つめてくる。

数分後、やっと


「・・本気で言ってるの?」


と、震える声で尋ねた。本気だと言う事を伝えるため、大きく首を縦に振る。姉さんは小さく、深呼吸した。


「小夜ちゃんは、いい子だと思うよ。真面目だし、働き者だし、可愛いし、頭もいい。正直、恭弥が惚れる気持ちも分かる」

「じゃあっ・・!」


許してもらえると思い、思わず大きな声が出た。姉さんが、諭すように手のひらを向ける。


「でも、恭弥。小夜ちゃんに拒否権が無いこと、分かってるでしょ?」

「・・・」

「恭弥が『結婚してくれ』って言ったら、どうなると思う?

 小夜ちゃんは、どんなに嫌でも断れないのよ?返事は『はい』以外、認められて無いの、河瀬家には」

「で、でも!今までとは違って、結婚だよ?結婚っていう人生が変わる出来事ぐらいは、さすがに小夜だって、自分の意見をさぁ・・・」


言いながら、だんだん声が小さくなる。

自分でもわかってる。

小夜は、絶対に『はい』と言うだろう。どんなに自分が嫌でも、俺が命令すれば。そういう、掟が村治家には残ってるのだ。


「本気で思ってるわけじゃないんでしょ?

それに、小夜ちゃんが『やだ』って言っても、彼―――誠二さんが無理やり、結婚させるでしょうね。おの人も真面目だから・・・。それでも、結婚したい?」

「・・・うん。小夜には悪いけど、俺は結婚したいと思ってる。

その――――気持ち悪がらずに聞いてくれよ?―――――小夜だって、いくら河瀬家と言っても、いつかは結婚するわけじゃん。それでさぁ、小夜が男――まあ、夫だな――と、ご飯食べたり、買い物したり、子育てしたりしているとこを想像すると、その・・・何て言うんだろ?心臓を、思いっきり掴まれたような感じになるんだよ。わかる?」


姉さんは、小さく頷いた。


「なんとなくなら。

いつからなの?小夜ちゃんを、好きになったのは?」

「ウ~ン・・・・小学校ぐらいから、一緒に居ると楽しい的なこと思ってた気がするけど・・・本格的?に、好きだって思ったのは、中学ぐらいからかな?

そんなに昔っから好きだったの、よく襲ったりしなかったなぁって思うよ。同じ家に住んでるのに」

「ふふっ」


姉さんが、この話をしてから初めて笑った。


「そこがいい所よ、恭弥の。

まぁ、そんなに好きならいいわ。小夜ちゃんに言ってくる。ちょっと、待って。」


姉さんはすくっと立ち上がり、窓から顔を出した。


「小夜ちゃぁ~ん!!

その仕事が終わったらぁ、部屋に来てくれるぅ?話があるのぉー」

「あっ、はい!今、行きます!!」


小夜の、まだ微かに幼さの残る声が聞こえたと同時に、忙しそうな足音が聞こえた。縁側から入ってくるのだろう。静かに立ち上がる。


「俺、自分の部屋に居るわ」

「そうね。そうしたほうがいいわ。多分、途中で誠二さんも来るだろうから」


     *          *          *


あの会話から2週間ほど経った今、小夜は俺の腕の中で、静かに寝息をたてている。

まだ、寝顔にはあどけなさが残っているのに、体のほうは、もう十分、大人だ。

裸なので、寒くならないよう、腕に力を込める。自分も裸だから、ちょうどいいだろう。むしろ、暑すぎるかもしれない。

 

やっぱり、やめたほうが良かったかもしれない。今更ながら後悔する。

あの時――あの、抱き寄せたとき、自分では気づいていないかもしれないが、小夜はかすかに震えていた。手はギュッと、血が出るんじゃないかと思うぐらい握りしめていたし。


「はぁ」


自分でも、うれしいのか悲しいのかよく分からない。 

 小夜は初めてだし、緊張してたから、できる限り優しくしたつもりだけど・・。


時計を見ると、もう1時になっていた。

  寝なくては。明日も大学があるから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ