雄介と恭弥2
雄介さまが楽しそうに微笑みながら、私の説明を待っている。
そうされると、余計、話しづらいんだけど・・・。
「エッと・・・村治家のことでいいんですよね?」
雄介さまは、聞き分けのいい子供のように「うん!」と言い、そのあと、あわてて「あと、河瀬家も」
と云った。
「村治家と河瀬家ですね?
エエッと・・・じゃあ、簡単に。
村治家はごらんの通り、恭弥さまが現在の24代目当主になります。
村治家は戦国時代に一帯を治めていた暴君、久迩田氏を追い出し、村の人々の熱い支持によって村の代表となり、その状態が今も続いています。
それに対して、河瀬家は江戸時代の初期に出来ました」
「ん?」
雄介さまが反応した。
「『出来ました』? どういう意味?」
「・・説明が悪かったですね。すいません。
河瀬家という家名がついたのは江戸時代からという意味です。
江戸時代の前から、河瀬家の先祖にあたる人々はいたんですが、その人達は、村の人々の奴隷――召使いとして生活していましたので、苗字は必要なかったのです。
江戸時代の初期に、村治家専属の召使いを作ろうと長老が言い出したのをきっかけに、その当時、村治家の奥様と仲の良かった『ふさ』という女性――河瀬家の先祖です――が村治家専属の召使いとなりました。
身分の高い人のお世話をするのですから、苗字が必要だろうということになりまして、『ふさ』が川の傍に住んでいたから『河瀬』という苗字を授かりました
・・・・説明がへたくそですいません。細かいことは恭弥さまに聞いてください」
隣に座っている恭弥さまを見ると、恭弥さまは『よく出来ました』と言うかのように頷き、私の腕を掴み、自分の後ろに引っ張った。まるで、何かから私を隠すように。
「ほら、小夜が説明したぞ。雄介も説明しろ」
恭弥さまが雄介さまをせかす。
そういう交換条件だったとは・・。私がお菓子を買いに行っている間に話したのだろう。
香里さまと兄さんは静かに、後ろでお茶をすすっていたが、雄介さまの説明が始まろうとしているのに気づき、少し、前に出てきた。
「分かってるよ。小夜ちゃんぐらい上手く説明できるかわからないけどね。俺、国語の成績2だから。
エッと・・どっから話そうかなぁ。
俺、母子家庭で育ったんだけど、この間――といっても、6か月ぐらい前だけどね――母親が死んじゃったんだ」
「・・・!!」
突然のカミングアウトに部屋の空気がガラリと変わった。涙もろい香里さまは、もう、涙目になっている。
「で、死ぬ間際に母さんから
『死んだら、棚の中にある箱を燃やしちゃって。中は絶対にみちゃだめよ』って言われたから、
初めは、ちゃんと燃やそうとしたんだけど、好奇心が抑えられなくて・・・。中を見ちゃったんだ。
その中身が・・・・・・これ」
雄介さまはポケットの中を探って、4通の手紙と1枚の写真をみんなの前に出した。
「見ていいよ」と言って、恭弥さまに投げる。
受け取った恭弥さまは、手紙を広げて、「姉さんたちにも聞こえるように読んで」と言いながら、こちらに渡した。
心の中で雄介さまのお母さまに謝りながら、文字を目で追い、読み上げる。
「前略。村治清さま・・・・」