プロローグ
年配の女の先生が、児童の前に立った。手に紙芝居を持っている。紙芝居に気づき、子供たちが騒ぎ出した。その騒ぎに負けないように、先生の声が大きくなる。
「みなさん!今日は町の歴史を学びますよ。この中で、村治さんの事、知ってる人?」
「は~い!!」
無邪気な返事と共に挙げられた手を数えて、先生は満足そうに頷いた。
「全員、知っていますね。では、始めたいと思います」
先生は紙芝居を、教壇の上に置いた。
「この山美町は、昔っから、山・川・土に恵まれていました。だから、よく周りの人に襲われてたんです。」
「ひどーい!!」「やだーー!!」「そんなやつ、僕がやっつけてやる!!」
児童からさまざまな声が飛んだ。無邪気な子供たちに、先生の頬が少しゆるんだ。
「その中、久迩田というお侍さんが、この地を治めました。
その久迩田という人は、ひどい人で、町の人々からお金や持ち物を取り上げていました。
山本くん。久迩田さんの行動はどう思いますか?」
「はい!」
指名された男の子が立ち上がる。
「人の物を勝手にとるのは、いけないと思います!!」
「そうですね。山本くんなら、久迩田さんに何をしますか?」
「人の物を取っちゃだめだ、と注意します!!」
先生は満足げにほほ笑んだ。
「そうですね。その時代もそういう山本くんの様な人がいました。それが、村治さんです」
生徒から、小さな歓声が上がる。
「村治さんは、久迩田さんに注意しました。それで、久迩田さんは反省して、心を入れ替え、町に仲良く一緒に住むことになりました。
その頃から、村治さんは、この町を治める人になりました。」
「地主っていうんだよ!!」
クラスの中でも一番、本を読んでいる女の子が叫んだ。先生が少し苦笑する。
「そうね。でも、こういう時は名士と言ったほうがいいかなぁ。でも、地主でもOKよ。
村治さんは、周りの人たちを注意しなければいけないので、身の回りの生活は町の人々が世話をしました。そんな中、いつの間にか、お世話をする人が決まっていきました。
ところで、みなさん。今の当主――村治家で1番、偉い人のことです――は、村治恭弥さんですよね。この前の結婚式、行った人はいますか?」
「はい!」
「・・・・・全員、行きましたか。では、その中で、花嫁の小夜さんを見た人?」
みんなの手が下がり、周りをきょろきょろと見回し始めた。
「だれもいないんですか?まったく。いくら料理が美味しくても、ちゃんと周りを見なさいよ。
花嫁の小夜さんは、その村治家のお世話を代々している河瀨一族の人です。
この間の結婚は・・・」
『キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴り、開いていた口がゆっくりと閉じた。みんなが、外に遊びに行きたくてうずうずしている。
「この話は今度にしましょう。日直さん、号令を」
指名された日直が頷き、大きな声で言った。
「きりーつ!!」