009 ゲッツの大剣
「ゲッツ、どうしたの?」
「なんか違うんだよなあ!」
そう言ってセール品の樽に大剣を戻すゲッツ。
オレには何が違うのかわからないけど、彼に言わせると違うらしい。そんなゲッツの視線は、壁に飾られた豪華な大剣に向かっていた。
「言わなくてもわかるだろうけど、無理だからね?」
「わーってるよ! 次だ! 次の鍛冶屋に行くぞ!」
「えー? またー?」
ザシャが嫌そうな声をあげる。ゲッツに振り回されるのに疲れたのかな?
見れば、イザベルもデニスも苦笑を浮かべている。
ここ城塞都市ヘーネスは一応イン類最前線の街だから武器を製造する鍛冶屋が多いけど、無限にあるわけじゃない。そろそろゲッツには決めてほしいところだ。
そんなゲッツを伴ってオレたちは次の鍛冶屋に入った。扉を開けるとやかましいくらい聞こえてくる鉄を打つハンマーの音。ここは工場と店舗が一緒になった店らしい。
「大剣が欲しい!」
「ならそこの樽の中から選びな」
店番をしているでっぷり太った肝っ玉母さんのような店員さんが、店の隅に置かれた樽を指差す。
たぶん、オレたちの格好を見てお金をあまり持ってないと判断したのだろう。正解だ。
「うーん……」
ゲッツが樽に無造作に刺さった大剣を一つ一つ点検していく。そのゲッツの目は今まで見たことがないくらい真剣そのものだ。
一本大剣を取り出しては握ってみたり構えたりする。
「おし、これにしといてやるか」
やがて納得がいったのか、謎の上から目線で一本の大剣を選ぶ。意外にもオーソドックスな大剣だ。ゲッツもフーゴさんに鍛えられて基本の大切さがわかっているのだろう。
「それにするのね?」
「おう!」
パーティ資金を管理するイザベルにゲッツが頷き返すと、支払いを済ませる。
「あんた、大剣は初めてかい?」
「ああ」
「じゃあ、これも付けといてやるよ」
「おん?」
肝っ玉母さんみたいな店員さんに渡されたのは、革のベルトのようなものだった。
「これで大剣を背中に吊れるようになるんだよ」
「マジかよ! ありがてえ!」
ゲッツが笑顔でお礼を言って革のベルトを受け取る。
「あんたら、冒険者だろ? 簡単に死ぬんじゃないよ?」
そう言う店員さんは遠くを見ているような不思議な顔をしていた。
もしかしたら、親しい冒険者を亡くしたことがあるのかもしれない。
「心配すんなって! 俺たちは死なねえよ! じゃあこれ、ありがとな、おばちゃん!」
「ありがとうございました。ほら、行くわよ」
「うん。ありがとうございました」
「ありがとー!」
「ありがとうございます。また来ます」
冒険者をしていると、いつでも死と隣り合わせだ。死にたくて死ぬ冒険者なんていない。でも、今までかなりの数の冒険者が帰ってこなかった。
オレの両親に当たる人も冒険者だったらしい。親を失って孤児院に来る子どもは多い。そういう子はやっぱり最初は寂しがって泣いてしまう。オレは小さすぎたので記憶に残っていないからわからないが、やっぱり親しい人を亡くすのは寂しいものなのだろう。
オレたちも今のところは順調だが、いつ危険な目に遭うかわからない。
そうなった時、オレはみんなに生きてほしいと思った。
◇
「じゃあ、行こうぜ!」
翌朝。
ようやく手に入れた大剣をピカピカに磨き上げたゲッツが、みんなを急かすように朝の城塞都市ヘーネスの通りを先頭に立って進んでいく。
早く手に入れた大剣を使ってみたいのだろう。
昨日、大剣を持ち帰ったゲッツは、一日中素振りをしていた。棍棒から大剣に武器を代えたため、大剣の感覚に慣れようと必死なのだ。
だが、ゲッツの顔には隠し切れない笑みがあった。
やっぱり新しい武器ってテンション上がるよね。オレもダガーを買った時そうだった。だから、ゲッツの気持ちが手に取るようにわかる。
早く試してみたくて仕方がないのだ。
そのままゲッツに先導される形で城塞都市ヘーネスの立派な門をくぐり、藪を抜け森へとやってきた。
ここからちょっといつもと変わる。以前はゲッツもモンスターを探しに森の中に入っていったが、今回からザシャ一人でおこなうことになる。
棍棒ならまだしも、大剣を担いで走ったりするのはさすがのゲッツもしんどいだろうからね。
「ゴブ五! オーク付きー!」
森から駆けてきたザシャは、そのままイザベルのいる後方へと行って弓を構える。
ザシャの報告通り、ゴブリンたちとオークが森から飛び出してくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
戦いの開始を告げるデニスのウォークライ。
「だっしゃあッ!」
モンスターたちの視線がデニスに向けられた一瞬、風を切って放たれたザシャの矢がゴブリンの側頭部に命中し、ゲッツの大剣がゴブリンの首を刎ねる。
これで残ったのはゴブリン三匹とオークが一体。
「ファイアボール!」
イザベルの魔術も発動し、戦いはいよいよ佳境へ。
オレはそっと闇に潜るようにゴブリンやオークの視線を逃れ、森の中を静かに駆けて行くのだった。
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