008 鶏肉のうま味がヤバい
久しぶりに食べた鶏肉は旨味が全部スープに出てしまったのか、パサついた物体でしかなかった。期待外れだ。もしくはオレたちの期待値が高すぎたのかもしれない。
でも、その代わりパン粥のスープは絶品だった。キラリと浮いた丸く輝く脂を見ているだけでも幸せになれる。
「かー! うっめー!」
「うん! うん!」
ゲッツとデニスもご満悦だ。
「おいしー! 明日もこれにしようよ!」
ザシャがナイスな提案をする。
こんなにおいしいなら、毎日でも食べたいよ。
「ダメよ。今日だけだから」
「「「「えー!?」」」」
イザベルの言葉に全員が声をあげてしまった。オレも声をあげるつもりはなかったのにあまりの絶望に声が出てしまったよ。それぐらい、いつもの質素なパン粥に戻るのが嫌だった。
「まぁまぁイザベル。たまにはいいんじゃない?」
「ダメよ。そういうのは装備を整えてから言ってちょうだい」
「そりゃそうだけど……」
「クルト! 負けてんじゃねえよ!」
「クルト、がんばって!」
「クルトー!」
そんなこと言われたって、イザベルに口では勝てないよ……。
「異存はないようね?」
「はい……」
「見損なったぞ、クルト!」
「クルト……」
「クルトのバカー!」
なんでか知らないけどオレが株を落としてこの件は片付いたようだった。
悔しいです。
◇
その次の日からも、オレたちはオークを含むゴブリンたちを倒しまくった。やっぱりオークはお金を持っていることが多いのか、オレたちのパーティ資産は右肩上がりだ。
怖いのは怪我だ。
たしかに怪我をすることもある。だけど、今のところ大怪我をしたことはない。やはり、デニスが受け流しを覚えたことが大きいのだろう。怪我の頻度も少しずつ少なくなっている気がする。
まぁ、ゲッツの怪我は減る気配はないけどね。肉を切らして骨を砕くを地で行く戦法だから。だからゲッツの体はいつも痣だらけだ。ちょっと心配ではある。
今はゴブリンもオークも武器が棍棒だから殴られるだけで済んでいるけど、相手が剣とか使ってきたらマズい。それまでにゲッツに鎧を用意しないとな。
オークを含むゴブリンたちを安定して狩れるようになってきたオレたちだが、敢えて狩場の移動はしなかった。
たしかに狩場の難易度を上げれば収入も大きくなる。でも、その分リスクも大きくなるのだ。
今のオレたちは、オークに勝てるようになったとはいえ、まだ装備も満足に整っていないひよっこにすぎない。装備がある程度整うまでこのままオーク狩りだね。
そして、オレたちにとって嬉しいことがあった。
それはオークを倒し始めて三日目くらいのことだ。冒険者ギルドもオレたちがオークを倒す実力があると認めたのだろう。冒険者ランクがペーパー級からホワイトウッド級に上がったのだ。
この時ばかりはイザベルも財布の紐を緩くして、また鶏肉入りのパン粥を食べることができた。これを食べると、またがんばろうという気持ちになる。気持ちが前向きになる。食べ物の力ってすごい。
そして、パーティ資金も貯まってきたので装備を買うことになったのだが、ここで悩ましい選択をすることになる。
それは、いつもの宿の庭での夕食の時間。デニスの盾を新調するか、それともゲッツの大剣を買うかで論争が起きたのである。
「ぜってー大剣だね! いつまでも棍棒じゃ恰好つかねえし、武器を代えるなら慣れるまで時間がかかるって聞くぜ? それなら早い方がいいだろ? それに、デニスはもう盾を持ってるじゃねえか! ここは棍棒しか持ってない俺の番だって!」
デニスは既に鍋の蓋の改造品とはいえ盾を持っている。そう考えればゲッツの大剣を買った方がいいだろう。
「私もゲッツの意見はわかるの。でも、今回はデニスの盾を新調した方がいいと思うわ。オークの棍棒に叩かれて、もうかなりボコボコだもの。命に直結する盾の方が重要よ」
ここのところのオーク戦でかなりデニスの盾もくたびれてきた。ここでデニスの盾を新調するというのもいい考えな気がする。
「みんなはどう思うの?」
イザベルがパン粥の入った木の器を膝に置いてみんなの顔を見渡した。
「ぜってー大剣だって! な?」
「オレはデニスの盾かなー」
「あたしは矢が欲しい! 三本だけじゃ足りないー!」
「そうね。矢も追加して二本くらい買いましょうか」
「そうじゃねえだろ!」
「僕はゲッツの大剣でいいと思うよ。僕はもうみんなが作ってくれた盾を持ってるし……」
「さすが我が友デニスだ! そうだよなあ!」
結局、デニスが譲る形でゲッツの大剣を買うことが決まった。
翌日。
オレたちは狩りに行くのを休んでゲッツの大剣を見にいくつかの鍛冶屋を巡っていった。
やはり、鉄の塊である大剣になると、オレの包丁よりも何倍も高い。鉄自体が高いんだよなぁ。鉱山がモンスターに占拠されて久しいから。
「うーん……」
ゲッツがセール品の大剣を握りながら渋い顔をしている。
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