007 オークの初討伐祝い
「ハルト、下っ端の世話なんて焼いてないで早く行こうよ!」
「そうね。ハルトがどうしてもって言うから付き合ったけど、これ以上は時間の無駄だわ」
『バルムンク』のメンバーも退屈なのかそんなことを言い出した。
「だとコラ!」
下っ端と明確に言われたからだろうか、ゲッツがキレている。キレたゲッツをデニスが後ろから羽交い締めにしていた。
「お猿さんが怒ってるー! キッモ!」
「ぶっ殺す!」
「あんたなんかに殺されるわけないじゃん? バカなの?」
「やめないか、アデーレ」
「ゲッツもやめなさい」
「はぁ。私たちは先を急ぐのでこれで失礼するよ」
「ええ、そうしてちょうだい」
その言葉を最後に、『バルムンク』は森の中へと消えていった。きっと森の奥地かそのさらに奥で狩りでもするのだろう。
「放せよ! んだ! あの女!」
「まあまあ」
「デニスには悪いけど、ゲッツはもう少しそのまま頭を冷やしなさい」
「くそっ!」
「ゲッツ、落ち着いて、ね」
「ケッ」
もう暴れることはなさそうだけど、ゲッツも相当イライラしているなぁ。
「まぁ、あたしもゲッツんの言うこともわかるけど、やっぱり勝てないよね……。別格って感じ」
矢を探しながら言うザシャの言葉に頷いてしまいそうになる。
きっと『バルムンク』こそが物語の主人公であり、本物の英雄なのだ。
オレたちはきっとその他大勢の一人である。
「んなことねえよ!」
叫ぶゲッツだが、その声はどこか弱弱しい。
「その棍棒で?」
「くそっ!」
ザシャの言葉にまた悪態を付くゲッツ。そうだね。オレたちはまず自分たちのことをどうにかしないと。それは装備だったり、食事だったりね。他人のことを気にしている暇はないのだ。
「みんな聞いて。私たちはオークに勝ったの。これはすごいことよ。私は確実に前進している。そうでしょ、ゲッツ?」
「まあな」
「なら、そんなに怒ってないで今は喜びなさいな」
「でもよ! ったく、わかったよ……」
イザベルに諭され、ゲッツが渋々頷く。それを見て、デニスがイザベルに視線を送った。イザベルが頷くのを見て、デニスがゲッツを解放する。
「クルト、悪いけどゴブリンとオークの右耳を切り取ってくれないかしら?」
「わかった」
イザベルの言う通り、オレたちはオークに勝てたんだ。今はそれを喜ぼう。ゴブリンの右耳を切り取る時は何の感慨も湧かなかったけど、オークの右耳を切り取る時はちょっと感動した。
オレたちはオークを倒すことができたんだ……!
初心者冒険者はオークにつまずくことが多いと聞く。オレたちはオークという壁を乗り越えたんだ!
これでもうオークから逃げ回る狩りからも解放である。いいことしかないね。
いいことついでにゴブリン袋も開けていく。四匹分開けて、銅貨二枚とはまたしょっぱい……。
「へぇ、オークも袋を持ってるんだ」
戦闘中は気が付かなけど、オークも腰に粗い麻袋をぶら下げていた。
開けてみると、何かの牙や果物などに紛れて銅貨や銀貨の輝きが見えた。
でも、いつもの銅貨や銀貨じゃない。形が丸じゃなくて四角だ。
「獣人貨か」
モンスターの間で流通している貨幣だ。ヘーネスの街でもたまに見かける貨幣である。いつもの銅貨や銀貨との交換レートは一対一だと聞いているので、銅貨と銀貨と呼んでしまってもいいだろう。
「取り終わったよ」
「ありがとう、クルト」
「聞いてよ、みんな。オークだけど、銀貨を四枚、銅貨も十七枚も持ってたよ」
「マジか!」
「やったね!」
「ラッキー!」
オレの言葉にゲッツが、デニスが、ザシャが喜びの声をあげた。イザベルも声はあげないが嬉しそうにしている。
「オークの方がお金を持っている可能性が高いのかしら? これはもう狩るしかないわね」
「んだな!」
「うん!」
「がんばろー!」
それからもオレたちはゴブリンやオークを狩っていった。
イザベルが予想した通り、やっぱりオークはゴブリンたちよりもお金を持っているみたいだ。これでオレたちの稼ぎは飛躍的に上昇することになる。その日は冒険者を始めてから一番稼いだ日になった。
「いやー疲れたなー」
「うん。そうだね」
「二人とも大丈夫?」
部屋の中でゲッツとデニスがベッドに横になりながら呟く。二人は前衛だ。体を張ってモンスターの進行を止め、真っ向勝負をする以上、怪我を負うことも多い。
今日は運がよく後に響くような怪我をしなかったが、いつもそうだとは限らないのが辛いところだ。
「俺は大丈夫だ。こんなの屁でもねえよ」
「僕も大丈夫だよ」
「ならよかった。動くのが辛いようなら夕食を運ぶけど、どうする?」
「いや、行くぜ。全然辛くないからな!」
「そうだね!」
二人がやけに嬉しそうにしているのは、今日のパン粥にはお肉が入っているからだ。オーク初討伐祝いらしい。
まぁ、お肉って言っても五人で分けたら一口で終わってしまう程度の量しかない。
でも、それでもオレたちには十分嬉しい出来事だった。
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