006 オーク戦
「そんなのあり!?」
ザシャが悲鳴のような声をあげながら弓を構えて矢を放つ。
気が動転していたからか、ザシャの放った矢は狙いを外れ、茂みへと消えていった。
「やるしかないわ! いくわよ!」
イザベルが杖の先端に付いてる丸い金属球に触れるのが見えた。
イザベルは魔術を発動するつもりだ。
オレは静かにサイドステップを踏んで茂みへと姿を隠す。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
普段は温厚なデニスが大声を上げてモンスターを威嚇する。戦いの開始の合図、ウォークライだ。ゴブリンやオークの視線を集めてくれる。敵はゴブリン四匹にオーク一体だ。
オレはその隙にゴブリンたちの背後へ回ろうと迂回しながら森の中を進む。
「でりゃああああああああ!」
ゲッツの棍棒がゴブリンの頭を叩き潰した。
これで、残りのゴブリンは三匹。
「当たって!」
「ファイアボール!」
ザシャの矢と同時にイザベルの魔術が発動する。
ザシャの矢はゴブリンの頭を射抜き、イザベルの魔術はオークに直撃する。
ゴブリンはそのまま後ろに倒れて絶命。オークはと言えば――――。
「UGAAAAAAAAAAAAAAAA!」
その大きなお腹を抉られながらもまだ生きていた。分厚い脂肪が邪魔で倒せなかったようだ。
オークはイザベル目がけて駆け出そうとするが、その道を阻む者がいる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
デニスだ。デニスがオークを狙って片手剣を振るう。オークも目の前のデニスから片付けることにしたのか、その手に持つ大きな棍棒を振り上げた。
デニスが両手で盾を構えるのが見えた。
ゴスンッと大きな打撃音を響かせてオークの棍棒がデニスの持つ盾とぶつかる。
そして、ゴリゴリと音を立てて盾の上を滑るように棍棒が流れ落ち、腐葉土の地面を耕す。
オークはもう死に体だ。どうとでも調理できる。
「やあああ!」
そこにデニスのショートソードの突きが放たれた。その狙いはオークの顔だ。
「BUHI!?」
さすがに顔の痛みは我慢できなかったのか、オークが背を反るようにして棍棒を放して両手で顔を押さえた。
オレはそれを待っていた。
あくまで静かに。そして、素早く。
オレはオークの背中、腰の上、人間なら肝臓のある場所を目がけてダガーを突き込む。オレのダガーはオークの背中の分厚い脂肪層を抜けると、柔らかいものに届いた手応えがあった。
オレは力いっぱいダガーをねじる。少しでも傷を押し広げ、オークに致命傷を負わせたかった。
すると、オークの体がビクビクと痙攣し始め、そのまま前のめりに倒れた。
残った包丁でオークの首の横の動脈を斬るが、もう動き出す気配はない。
オレたちはついにオークを倒したのだ。
今すぐにでも叫びたい達成感に包まれる。
だが、まだ戦闘は終わっていない。残り一匹のゴブリンが残っている。
しかし、もうデニスとゲッツに挟まれて絶体絶命だった。おそらく倒せるだろう。
オレはそこから視線を逸らして辺りを警戒する。
その時気が付いた。ブルクハルトをはじめ『バルムンク』のメンバーがこちらを見ている。その視線はまるで母親が息子の成長を見守るかのように穏やかだ。
「うっし!」
最後のゴブリンを倒せたのだろう。ゲッツの喜ぶ声が聞こえた。その瞬間――――。
パチパチと森の中に鳴り響く場違いな拍手。ブルクハルトだ。ブルクハルトがオレたちに拍手を送っているのだ。ブルクハルトに感化されたのか、他の『バルムンク』のメンバーも拍手を送ってくる。
相手が全員ヤンくらい高名な年も実力も離れた冒険者だったらオレは素直に嬉しかったかもしれない。
でも、『バルムンク』を構成するメンバーの大半はオレたちとそう歳の違わないメンバーだ。おまけに同じ日に冒険者に登録した同期でもある。それなのにこの差は何なのか。なかなか素直に喜べない自分がいることに気が付いた。
「あん?」
背後からゲッツの凄むような声が聞こえてくるが、空しいだけだ。
「まあまあゲッツ」
「でもよ!」
宥めるようなデニスの声と反発するゲッツ。
「お褒め頂いているという認識でいいのかしら、カウニッツ様?」
少し棘のあるイザベルの言葉に、ブルクハルトは苦笑を浮かべて頷いた。
「もちろんですよ、『蒼天』の皆さんの成長には目を瞠るものがあります」
『蒼天』とは、オレたちのパーティ名だ。ブルクハルトがオレたちを認知していることがオレには少し不思議だった。
「自分たちはそれより優れていると言いたげね?」
「事実ですから」
棘を刺しにきたイザベルの言葉を軽くいなし、ブルクハルトは言葉を続ける。
「驚いたのは本当ですよ。まさか、オークを倒せるとは思いませんでしたので」
「それでこちらを見ていたというわけね。ご心配をおかけしました。ですが、この通りですわ」
「ええ。ですから驚きました」
べつに『バルムンク』の面々が悪いことをしたわけじゃないし、むしろ感謝するべきなのだろう。オレたちが『バルムンク』より劣っているのは確かだし。
でも、やっぱりなにか心に刺さる棘があった。
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