043 寝ていた間に起きたこと
『バルムンク』ってたしかゴブリンの巣穴の攻略の主戦力として期待されてたんじゃなかったっけ? どうして森に来るんだ?
「どうやらあのゴブリンチャンピオンを追って来たらしいわ」
「ゴブリンチャンピオン?」
「あのクルトが倒した大きなゴブリンのことよ」
「へぇー……」
あの大きなゴブリン、ゴブリンチャンピオンを追って『バルムンク』が来た。そして、既に倒されたゴブリンチャンピオンを見つけたって感じなのかな?
「それがクルトの奴、自分がゴブリンチャンピオンを倒したことを覚えてないらしいぜ」
「そうなの?」
デニスがちょっと驚いた様子で問いかけてくる。
「うん。そうなんだ。何も覚えてない」
「うそー! クルトんすごかったんだよ? シュバッ! シュババッ! ってあんなに大きなゴブリン倒しちゃったんだから!」
「そうなんだ……?」
覚えていないのもあるけど、みんなが一致団結してオレを騙そうとしてるんじゃないかとさえ思ってしまう。それぐらいオレがあのゴブリンチャンピオンを倒したというのは無理があった。
すると、考え込むように少しだけ俯いていたイザベルが口を開く。
「意識が飛んでいたのかしら? でも、あの動きは……。とにかく、クルトがゴブリンチャンピオンを倒したのは事実よ。あの『バルムンク』も驚いていたわ」
「『バルムンク』がねぇ……」
「それで、合流した『バルムンク』に力を借りて、ヘーネスに帰ってきたわけよ」
「それじゃあ、『バルムンク』に借りができちゃったね」
「それがそうじゃねえんだわ!」
ゲッツが急に大きな声をあげた。
「そうなの?」
オレは確認を取るようにイザベルに問うと、イザベルが珍しく不機嫌を隠そうともせず語気を強めて言う。
「そもそも、あの『バルムンク』のせいなのよ。私たちがゴブリンチャンピオンと戦う羽目になったのは! 『バルムンク』がゴブリンチャンピオンを追い詰めたのに、取り逃がしたの!」
「そうだったんだ……」
出会った時、もうゴブリンチャンピオンはボロボロだったことを思い出す。片腕だったし、傷だらけだった。
ということは、『バルムンク』は完全な状態のゴブリンチャンピオンと戦っても優位に戦えるということだろう。どうすればあんなバケモノ相手に優位に戦えるのだろう? もう同じ人間なのが不思議なくらいの力の差だ。
「一応、ゴブリンチャンピオンを倒したのは私たちということになってはいるし、賞金も貰えたけど、割に合わないわ!」
たしかにオレたちにとってお金よりもゲッツが左腕の方が大事だ。
「教会で治せなかったの?」
「それが無理って言われちゃったんだ……」
デニスがしょぼくれた顔でそう言った。
「腕を生やすのってとっても高いんだってさー。もう! いくら頼んでもお金が足りないしか言わないのよ! やになっちゃう!」
ザシャが腕を組んで、ものすごく嫌そうな顔で言った。
ゴブリンチャンピオンの賞金は貰ったのに、それでも足りないんだ……。一体どれだけ必要なんだろう?
「正確には、手足の欠損を治すことができる治癒術士が限られてて、いつも順番待ちの状態なのよ。そして、その順番は教会へのコネや寄付金額で決まるの。ある意味、順番待ちと言われるよりも、無理と最初から言ってもらった方がわかりやすいわ」
「えぐい商売してるなぁ……」
教会の孤児院で育った身ではあるし、そのことには感謝しているけど、一気に嫌いになりそうだ。
「まあ、俺なら右手一本でも余裕だろ!」
そう言って笑ってのけるゲッツ。
ゲッツ自身はあんまり気にしているようには見えないけど……。
落ち込まれるよりはいいかもしれないけど、カラ元気だとしたら痛々しい。
◇
「そうだ。クルト、受け取れよ」
みんなからオレが寝込んでいる間の出来事について聞いた夕食の後。ゲッツが一本のダガーを取り出してみせた。
そのダガーには見覚えがあった。
「それ、フーゴさんの……」
それはフーゴさんのダガーだった。
「オレが使ってもいいの?」
フーゴさんはオレの尊敬する孤児院出身の先輩冒険者だ。でも、この中で一番懐いていたのはゲッツだろう。ゲッツはそれでいいのか?
「実はもうみんなで話し合っていたのよ。フーゴさんのダガーはクルトに預けようって」
「クルトんすごかったもんね。フーゴ兄のダガーでズバズバッてゴブリンチャンピオン倒しちゃったんだよ!」
「オレは覚えてないんだけどね……」
「やっぱりダガーならクルトが使った方がいいと思うんだ」
「そうだぞ。フーゴ兄に負けないくらい強くなってくれ!」
オレは半ばゲッツに押し付けられるようにフーゴさんのダガーを受け取った。
フーゴさんのダガーは刃が厚くて、いつもの使ってるダガーよりも重かった。武器には金をかけろと常々言っていたフーゴさんらしい良いダガーだ。
「ありがとう、みんな。このダガーに誓うよ、オレはフーゴさんよりも強くなってみせる」
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