040 イザベルから見た戦後
それは私、イザベルの目から見ても異様な光景だった。
満身創痍だったクルト。動くのも辛そうで、口から大量に血を吐いていたクルト。
そんな死にかけのクルトが超大型ゴブリンへと突撃していく。
「クルト!?」
思わず悲鳴が漏れてしまった。
クルトを援護しなければと思う。けれど、私にはもう魔力が残されていない。魔力のない魔術師なんて何の役にも立たない。
でも、クルトに私の援護なんて必要なかった。
今にも倒れそうだったクルトは、普段よりも速いのではないかと思ってしまうような速度で超大型ゴブリンへと突撃していく。
そして、超大型ゴブリンのメイスを間一髪で避けて、反撃に転じていた。
「すごい……」
隣でザシャの呟く言葉が耳を打つ。
私はその言葉に返すこともできずにクルトの動きに魅了されていた。
超大型ゴブリンの足の甲にダガーを突き立てたクルトは、迷うことなくダガーを手放す。
一瞬、クルトの狙いがわかったような気がした。クルトは超大型ゴブリンの足を狙うことで歩けなくし、その間に仲間を連れて逃げようとしているのではないか。
しかし、その直後になってクルトがその考えを否定する。
なんと、超大型ゴブリンの腰にあったフーゴさんのダガーを手に取ったのだ。
一度攻撃が当たれば必死。そんな中で間一髪の動きをしながらそこまで考えていたの!?
ビクリッとまるで雷に打たれたように大きく仰け反る超大型ゴブリン。きっとクルトが何かしたのだろう。
だけど、次の瞬間にはクルトは超大型ゴブリンの前へと移動していた。
そして、クルトは超大型ゴブリンの伸びきったお腹を斬り付ける。
でも、そんな軽い武器ではゲッツの大剣でも斬れなかった超大型ゴブリンの腹筋を切り裂けるとは思えない。
「え……?」
だというのに、気付けば超大型ゴブリンのお腹はパックリと割れ、傷口からは内臓が飛び出ていた。
今、自分が見ているものさえ信じられない。
そして、膝を着いて低くなった超大型ゴブリンの首にクルトのダガーが走る。
まるで噴水のように超大型ゴブリンの鼓動に合わせて噴き出す青い血液。
「勝っちゃった……」
ザシャが信じられないものを見たというような声で呟く。私も同じ気持ちだ。
だが――――。
クルトはそのままバタリと後ろに倒れてしまう。
「クルト!」
「クルトん!」
私とザシャが駆け寄ると、クルトは透明な表情で森を見上げていた。その瞳はまるで何も映していない。
「クルト! お願い、返事をして!」
「クルトんってば!」
呼びかけても反応はなく、クルトの瞳はそっと閉じられた。
その様子は、なんだか尽きる最後の一瞬だけ大きな炎になって消えていく蝋燭を連想させた。
このままクルトを死なせてはならない!
「どーしよ! クルトん息してない!」
「ポーション! ポーションを使えば――――」
私は迷うことなくポーションを呷るとクルトの口を開けて口移しで流し込んでいく。
「……ッ」
クルトが息を吹き返した!
もう一口ポーションを呷ろうとしたところで、ザシャが私の腕を掴んだ。
「何をするの!?」
「ゲッツんとデニスんも怪我してるんだよ!」
「ッ!」
そうだった。怪我を負っているのはクルトだけではない。ゲッツもデニスも怪我を負って動けない状態だ。ポーションをすべてクルトに使うことはできない。
「あなたはゲッツを見てきて。私はデニスを見るわ。ポーションが必要そうなら急いで呼んで!」
「うん!」
私は急いでデニスの下に向かう。
デニスはまるでテディベアのように木に寄りかかっていた。その身体は完全に弛緩していて、力が入っていない。
「デニス! 大丈夫?」
私はどうか気が付いてほしいという願いを込めてデニスの頬を軽く叩く。
「ぅ、うぅ……」
「デニス!」
「ここは……?」
記憶障害? もしかしたら頭を打ったのかもしれない。下手に動かさない方がいい。
「ここは森の中よ。私たちはゴブリン掃討作戦に参加しているの。思い出せる?」
「うん……。思い出した。あの巨人は?」
「倒したわ。痛む所はない? ポーションがあるの」
「んん!」
そう言うと、デニスはどうにか後ろの木を支えにして立ち上がる。
「無理しないで!」
「大丈夫だよ。痛いけど、動く」
そう言うデニスは私の前で手足を動かしてみせる。
「だから、ポーションは他の人に使ってあげて」
「デニス……」
おでこが切れて血を流すデニスは見ているだけで痛々しい。でも、デニスはポーションを他の人に使ってほしいと言った。
本当にお人好しなんだから。
「本当に大丈夫なのね?」
「うん。僕は大丈夫」
「大変! ゲッツんが! ゲッツんが! ベルベル早く来て!」
その時、森にザシャの悲鳴のような声が響いた。
「私は行くけど、デニスは休んでいて!」
「うん……」
「ベルベル、早く! お願い、早く来て!」
私はザシャの声を頼りにゲッツのいる場所を目指す。
ザシャは普段から大袈裟な子だけど、ここまで慌てているのは珍しい。よほどゲッツの状態が悪いのだと察した。
ふと手に持つポーションの瓶を見る。緑色の液体は残り三分の二しかない。しかも、ポーションはポーションでも最低クラスの最も安いポーションだ。これで間に合うといいのだけど……。
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