039 大型ゴブリン④
超大型ゴブリンがオレに向き直る。どうやらオレを先に殺すと決めたらしい。
そこでオレは右にステップを踏んだ。
超大型ゴブリンはまたしても少しだけ遅れてオレに向き直る。その角度はちょっと左に寄っている
「やっぱりそうか」
このゴブリン、傷だらけでわからなかったが、どうやら左目が見えていないらしい。よくよく見れば、超大型ゴブリンの左目のあるべき場所にはキラリと輝く何かがあった。たぶん矢の鏃だ。もしかしたらザシャの撃った矢かもしれないし、最初から超大型ゴブリンの左目は潰れていたのかもしれない。
だが、これで活路が見えた。
先ほどオレが感じた感覚。あれは潜る時の感覚に近かった。つまり、超大型ゴブリンの死角に入ったわけだ。
そして、超大型ゴブリンの左脚。かなり痛むのか、その動きは遅い。方向転換にも若干の時間が必要なほどに。
なら、オレのやるべきことは何だ?
『クルトはアサシンだから、敵の裏をかけばいいんだよ。それは直接戦闘でも同じだ。こうして、足を絡めたり、相手の手を引いてみたり。意識するのは相手の意表を突くってことだな。そいつはいつでも変わらねえよ』
フーゴさんの言葉が頭を過る。
そうだね。オレはアサシンだ。直接的な戦闘能力や攻撃力は戦士には及ばない。
でも、オレにしかできないこともある。
「ふぅー……」
オレは肺の中の空気をすべて出し尽くすように吐いていく。
「ハッ!」
そして、一気に空気を吸い込むと、超大型ゴブリンへと駆け出した。
「クルト!?」
後ろからイザベルの悲鳴のような声が聞こえる。
オレから超大型ゴブリンに近づくなんて、たしかにイザベルから見たら自殺行為に映るかもしれない。
でも、オレにも勝算がある。
ほんの小さな思い付きのようなものだけど、勝算があるんだ。
駆ける。
もう体の痛みは気にならない。むしろ、何も感じない。でも、動く。もしかしたら、いつもよりも調子がいいかもしれない。
視野がどんどん狭くなっていく。それと同時に見えるものがあった。
オレを超大型ゴブリンへと誘う赤い線だ。
オレは赤い線を追うように超大型ゴブリンの懐に入った。
超大型ゴブリンも黙っていない。その鉄塊のようなメイスを振り上げて、オレを叩き潰そうとする。
だが、オレは赤い線を信じて地面を前転した。
髪の毛がチリチリ鳴るほどの至近距離を巨大なメイスが通り過ぎていく。
普段のオレなら足が竦んでしまいそうな光景だ。
だが、今のオレはそんな普段のオレを笑ってしまいそうだ。
だって、こんな簡単なことなのに。なぜ今までできなかったんだ?
前転したの勢いそのまま、オレは赤い線に導かれるようにダガーを超大型ゴブリンの左足の甲へと突き立てる。
泣き叫ぶような超大型ゴブリンの声が聞こえた気がした。
オレはそのままダガーを手放して右にジャンプする。
唯一の武器を手放していいのかって?
だって、武器ならここにあるじゃないか。
「返してもらうよ」
オレは超大型ゴブリンが腰に差していた大振りのダガーを抜く。
いつも使っているダガーよりも重たいな。これがフーゴさんのダガーか。
「使わせてもらいます」
抜いたダガーでさっそく赤い線に誘われるままに超大型ゴブリンの背に突き立てる。
人間でいえば腎臓の位置。フーゴさんのダガーはいつも使っているものより大きい分、深く刺さった。
そのまま手首を捻りながらダガーを抜く。ブチブチとまるで太い繊維を千切るような感覚がした。
超大型ゴブリンはまるで電気でも流されたように大きく仰け反る。
この瞬間を待っていた。
オレは超大型ゴブリンの正面に回ると、その腹を斬り上げる。
オレの腕力では硬い腹筋に守られた腹を斬っても無駄だろう。
そう。オレ一人の力だったらね。
その瞬間、超大型ゴブリンの腹から群青色の血を噴き出し、青い内臓が顔を出す。
超大型ゴブリンの腹を斬れたのは、ゲッツのおかげだ。ゲッツが何度も大剣を叩き込んでくれたから、斬ることができた。オレはゲッツの攻撃の最後の一押しをしたに過ぎない。
左足の甲にダガーを突き立てられ、左脚の膝裏も破壊され、腹も切り裂かれた。もともとそこまで体力が残されていなかったのだろう。超大型ゴブリンがついに地面に片膝を着く。これまでの動作を死角でやられたのだ。超大型ゴブリンにとっては何が起こったのかわからなかったかもしれない。
でも、それももう終わりだ。
まるでオレに首を垂れるように跪く超大型ゴブリン。その右目からはツーッと涙が溢れていた。後悔しているのか?
たとえ詫びているとしても、オレにはこの超大型ゴブリンを許す理由はない。
「あの世でフーゴさんに詫びてくれ」
超大型ゴブリンの太い首の横。頸動脈を掻っ切る。
腹を斬った時の比ではないくらい勢いよく噴き出す群青色の血。
そして、超大型ゴブリンの残された右目は、だんだん光を失っていった。
オレはそれを確認すると、後ろに倒れ込んだ。先ほどまで動けていたのが不思議なくらい体が重たい。全身の感覚がない。まるで自分の体ではないみたいだ。
最後に見上げたのは白い視界にぼんやりと映るイザベルとザシャの顔だった。必死な顔で何か口を動かしているが、まったくわからない。もう耳が聞こえないようだった。
オレはそのまま自然と目を閉じる。
オレはイザベルとザシャが生きていることに満足感を感じていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。
☆1つでも構いません。
どうかあなたの評価を教えてください。




