038 大型ゴブリン③
腹から出血はないようだが、どんどん痛んでいく。
もしかして、殴られた? いや、蹴られた?
その瞬間の記憶はないが、どうやらオレは超大型ゴブリンの攻撃を受けてしまったらしい。
「そうだ。あのゴブリンは?」
尻餅を突いたまま辺りを見渡すと、超大型ゴブリンが暴れていた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
大質量のメイスでデニスを吹き飛ばし、デニスは木に叩きつけられて動かない。
動かなくては……!
ゲッツ一人じゃあの超大型ゴブリンの相手は無理だ。
オレはもう一度立ち上がろうとすると、ふらつくがなんとか立つことができた。
気が付けば左手の短剣がどこかに行っていた。ダガー一本しかないが構うもんか。
オレは駆け出す。
しかし、自分では精一杯駆けているつもりなのだが、そのスピードは亀のように遅い。
「デニス!? くそがあああああああああああああ!」
ゲッツが自棄になったように超大型ゴブリンの間合いに飛び込む。
そんなの自殺行為だ。
ゲッツが死んでしまう!
急げ!
いいから急げ、オレ!
このままだとゲッツが! デニスが!
「ぐあああああああああ! げはッ!?」
痛みを押し殺して駆ける。また血を吐いてしまったが構うもんか!
間に合え!
しかし、オレと超大型ゴブリンとの間にはまだまだ距離があった。
間に合わないかもしれない……。
くそが! 間に合わせるんだよ!
「ファイアボール!」
「当たって!」
イザベル、ザシャの叫ぶ声が耳を打つ。
みんなゲッツを援護しようと必死なんだな。
しかし、現実はいつだって非情だ。
超大型ゴブリンは胸に刺さる矢を無視して、なんとファイアボールに向けて鉄塊のようなメイスを振るう。
ファイアボールとメイスが激突し、ファイアボールは超大型ゴブリンに届くことなく爆発する。
「だりゃああああああああああ!」
それを隙と見たのだろう。ゲッツが大剣で超大型ゴブリンの腹に向かって突きを放つ。
だが――――!
たしかにゲッツの大剣は超大型ゴブリンの腹を突いた。
しかし、またしても硬い腹筋によって防がれる。
「くそがああああああああああああああ! ごはッ!?」
なおも大剣で押し切ろうとするゲッツ。
だが、超大型ゴブリンのメイスに殴られて吹き飛ばされた。
「ゲッツ!?」
ザシャの悲鳴が森の中に響いた。
超大型ゴブリンがイザベルとザシャの方を見たのがわかった。
今、イザベルとザシャを守る壁はもうない。
矢を撃ち尽くしたのだろう。ザシャが弓を捨てると包丁を構えた。でも、へっぴり腰だし、包丁の先がぷるぷる震えている。あまり期待はできないどころか、超大型ゴブリンに包丁で立ち向かうとか無理だ。
イザベルも杖の先端の鉄球に手を当てて、魔術を発動を発動しようとしている。しかし、今まで魔術を連発していた弊害か、その顔には脂汗が浮いており、具合が悪そうだ。
超大型ゴブリンが、イザベルとザシャの方向に一歩踏み出す。左脚を庇うような歩き方。オレも少しはダメージを与えられたらしい。それもあって、オレはなんとか超大型ゴブリンがイザベルとザシャを襲う前にその前に立ちはだかることができた。
「…………」
デカい。オレがジャンプしても奴の腰くらいまでしか届かないだろう。
しかも、オレの武器はダガー。ゲッツの大剣のように間合いがない。これでは超大型ゴブリンの致命的な部分に届かない。
オレなんか超大型ゴブリンの脅威にもなれないだろう。
実際、超大型ゴブリンはオレを見ても足を止めることなく向かってくる。
でも、オレの後ろにはイザベルが、ザシャがいるんだ!
ここでオレに下がるという選択肢はない!
オレは痛む腕で一本しかないダガーを構える。
腹はズキズキと痛むし、体はフラフラしてまっすぐ立てない。痛くない所なんて体のどこにもなくて、視界もなんだか白く濁っている気がする。おまけに思考までぼんやりしていた。
正直、気力だけで立っている。今にも倒れそうだ。倒れて楽になりたい気持ちもある。折れそうになる闘志を燃やす。
敵は見上げるほど大きい超大型ゴブリン。左脚を引きずるように歩く敵も満身創痍だが、そんな状態でもこちらのパーティを半壊にした強者だ。侮ることなんてできるわけがない。
超大型ゴブリンがメイスを振り上げる。
振り下ろされる巨大なメイス。オレに死を運ぶもの。
その瞬間、オレは思いっきり右に飛んだ。後先考えない横っ飛びだ。
しかし、巨大なメイスはまるで磁石のようにオレに吸い付いてその軌道を変える。
避けきれない。
終わった……?
「ファイアボール……!」
イザベルの震えた声が耳を打つ。
目の前で起きる爆発。その爆発に吹き飛ばされる形で、なんとか超大型ゴブリンのメイスを躱すことができた。
その瞬間、オレはある確信を得る。
「かはッ!?」
もふっとした腐葉土に叩きけられ、息が詰まる。
けど、生き延びた。
オレは急いで飛び起きる。
火傷や体の痛みはもう気にならない。またせり上がってきた血の塊を吐いて、オレは超大型ゴブリンを睨みつけた。
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