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なにもないオレたちの、なにもかもがある英雄譚  作者: くーねるでぶる(戒め)


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037 大型ゴブリン②

 オレは反射的にダガーと短剣を抜いてゲッツの後を追おうとする。


 しかし、飛び出そうとした瞬間、肩を強い力で掴まれた。


 振り向けば、イザベルが青い顔をしながら悔しそうに首を左右に振っている。


 そう。イザベルの読み通り、オレたちではあの超大型ゴブリンには勝てないだろう。今、オレが出ても犠牲者が増えるだけ。そんなのはわかってる。


 でも――――!


「見捨てたくない! そうだろ?」


 イザベルはビックリしたように目を見開いた。緑の瞳が綺麗だ。


 まぁ、こんなのイザベルの心を読んだうちにも入らないだろう。だって、オレたち全員の総意だから!


「こうなったら、やるしかないよね!」

「しかたがないにゃー!」


 デニスがザシャがオレに続いて立ち上がる。


 でも、本当は怖いのだろう。特にザシャなんて声だけじゃなくて体まで震えていた。


 それでも立った。立ってくれた。


「イザベルはどうする?」


 オレは未だに座ったままのイザベルに問いかける。


「もう! 死んでも知らないからね! 攻撃よ! 攻撃!」


 ピーッ! ピーッ!


 甲高いホイッスルの音が深い森の中に響き渡る。イザベルが鳴らしているのだ。


 そういえば、いざという時は鳴らせって言われてたっけ。あの超大型ゴブリンを見た衝撃で忘れていた。 


 オレはイザベルに頷くと、すぐに潜る。超大型ゴブリンの背後を取るためだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 デニスのウォークライ。だが、その声はいつもと比べると少し震えている気がした。


 事前の打ち合わせでは、ウォークライは今回しないはずだった。周りにいるゴブリンが寄ってきたら面倒だからだ。


 それでもデニスは叫んだ。


 それは超大型ゴブリンの注意を自分に向けるためだったし、自分を鼓舞するためだったかもしれない。


 既に鉄塊のようなメイスを振り上げた超大型ゴブリン。


 そのメイスが振り下ろさんとした瞬間、爆炎が超大型ゴブリンを包み込む。イザベルの魔術だ。


 それによって狙いが少しズレたのだろう。振り下ろされたメイスはゲッツの左の地面を打ち鳴らした。


 空高く舞い上がる腐葉土。それはまるで地面が爆発したかのような光景だった。まともに当たったら即死だろう。


 ゲッツもメイスの直撃を免れたが、その凄まじい爆発力に吹き飛ばされてゴロゴロ腐葉土の上を転がっていた。


 そのゲッツが大剣を杖のようにして立ち上がりながら叫ぶ。なぜかその顔は怒りに満ちており、戦意は天を突かんばかりだ。


「フーゴ兄のダガーだ! そいつがフーゴ兄を殺したんだ!」


 こいつが、フーゴさんを……?


 フーゴさんのパーティメンバーが言っていた言葉を思い出す。


『相手はとてつもなく強いゴブリンだった。それを相手に立派な最期だった』


 フーゴさんを殺したのはゴブリンだ。このゴブリンがそうなのか?


 よくよく見れば、超大型ゴブリンの腰には小さな短剣が差してあった。ゴブリンの縮尺がおかしいから小さな短剣に見えるが、たしかに見覚えのあるダガーだった。


 フーゴさんによく懐いていたゲッツだ。彼我の実力差を超えて許すことができなかったのだろう。


 その気持ちは痛いほどわかる。


 オレだって、このゴブリンを許すことはできない。殺してやりたい。


 でも、このままではオレたちがたどる道はフーゴさんと同じ道だ。


 それだけは避けたい。


 ゲッツを追撃しようとする超大型ゴブリンの進路を遮るように盾を構えるデニス。その顔にも怒りが見える。普段温厚なデニスが滅多に浮かべることがない般若のような表情。


 デニスも怒っている。


 そんなデニスにも容赦なく浴びせられる超大型ゴブリンの鉄塊のようなメイス。


「うああああああああああああああああああああ!」


 デニスは両手で盾を持って横薙ぎに振るわれるメイスを迎え撃つ。


「ぐああああああッ!?」


 超大型ゴブリンのメイスが、まるで魔法のようにデニスの盾の上を火花を散らしながら滑っていく。メイスの軌道が上方に変わる。


 デニスがフーゴさんから受け継いだ技。受け流しだ。


 メイスはまるで鉄塊のように巨大だ。それを自在に操る超大型ゴブリンだが、受け流されることは予想外だったのか、メイスの重さに振り回されるように体が流れる。


 その隙を見逃すオレたちじゃない。


「ファイアボール!」


 イザベルの魔術が再び超大型ゴブリンを襲う。


 ファイアボールは超大型ゴブリンの顔に直撃し、さらにその体勢を崩す。


 超大型ゴブリンは左手でファイアボールを受けようとしたようだが、その左腕は肘から先がない。ファイアボールは顔面に直撃だ。


「だらああああああああああああああああ!」


 立ち直ったゲッツが大剣を大上段に振り上げ、血煙を上げる超大型ゴブリンの顔面に叩き込む。


 オレもこのチャンスを逃すわけにはいかない。静かに、しかし素早く超大型ゴブリンの背後に忍び寄り、その左脚、膝の裏にダガーを走らせる。


 硬いッ!?


 超大型ゴブリンの体はまるで鋼のように硬かった。鍛え上げられた筋肉が断ち切れない。


「ならッ!」


 オレは左手に握った短剣を目の前の超大型ゴブリンの膝裏に思いっきり体重をかけて突き立てた。


 そして、ひねる!


 ブチブチと太くて硬い糸を千切るような感覚が返ってきた。


 そのままさらに短剣を差し込み、またひねる。


 その瞬間、急に視界が切り替わった。


「え……?」


 気が付いた時、オレは腐葉土の上に寝て森の木々を見上げていた。


 慌てて立ち上がると、ふらりと体が揺れて尻餅を突いてしまった。


 じんわりと腹が熱を持っている。


「かはッ!?」


 喉を昇ってくる熱いもの。我慢できずに吐き出すと、赤い血が腐葉土の上にぶちまけられた。


 オレは怪我をしているのか?


 じんわりと熱を持っていた腹がどんどん痛みを訴えてくる。

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