035 ゴブリン掃討作戦④
「ファイアボール!」
生を諦め切れないオレの耳にイザベルのこれが届いた。
その瞬間、オレは火傷しそうな高熱の爆風を感じた。
後ろに吹き飛ばされそうになる。
疾走するために前傾姿勢だったのよかったのか、なんとか耐えた。
顔や腕などが熱かった。
いったい何が起きたんだ?
オレは生きているのか?
恐る恐る目を開くと、目の前には杖を振り下ろした格好のゴブリンメイジと目が合った。
生きてる!
なら、やることは一つだ!
ゴブリンメイジもオレの無事を確認したのだろう。もう一度杖を振り上げようとする。
だが、オレの方が速い!
「あああああああああ!」
普段は声など上げないのだが、この時ばかりは自然と声が出た。
疾走の勢いそのまま、オレはゴブリンメイジの胸を掬い上げるようにダガーを走らせる。
ブツリとゴブリンメイジの皮膚を突き破る感覚。ボキボキと骨を砕く手応えを返しながら、ダガーはゴブリンメイジの背中まで抜けた。
止めとばかりに左手の短剣をゴブリンメイジのさらされた後ろ首に叩き落とした。
ビクリとゴブリンメイジの体が跳ねた後、体から力が抜けたように弛緩する。
倒せた……。
ホッと安堵しそうになるが、戦闘はまだ続いている。
オレはゴブリンメイジの死体を捨てると、残された二匹のゴブリンに向き直る。
二匹のゴブリンは立ち上がろうとしているところをゲッツとデニスに倒されていた。
周囲を窺えば、ゴブリンの姿はない。
「はぁ……」
今度こそ安堵の溜息を吐くと、オレはダガーと短剣を振ってゴブリンの群青色の血を振るい落とす。
落ち着いたからだろうか。顔と腕がヒリヒリピリピリと痛んできた。
「クルト、大丈夫?」
「おいおい、大丈夫かよ? 顔も赤いし、腕とか水ぶくれできてるじゃねえか!?」
「一応、大丈夫。オレって何で生きてるの?」
オレはてっきりゴブリンメイジの魔法に殺されるんだと思っていたけど、蓋を開けてみれば火傷はしたが命は助かった。ゴブリンメイジの魔法がそれだけの威力しかなかったとは思えない。何で自分が生きているのかわからないんだ。
「僕は丁度見てたんだけど、イザベルの魔術のおかげだよ」
「イザベルの?」
「ゴブリンメイジの魔法がイザベルの魔術とぶつかって、クルトに当たる前に爆発したんだ」
「大丈夫かしら?」
「みんな、平気ー?」
その時、イザベルとザシャが合流する。
「うわ、いたそー……」
ザシャがオレの腕を見て言った。
イザベルもオレの顔や腕の火傷を見ると悲しげに眉を下げる。
「ごめんなさい、クルト。私がもう少し早ければ、ゴブリンメイジに魔法を使わせることもなかったのに……」
「いや、イザベルは悪くないよ。むしろ、オレがお礼を言わなくちゃ。助けてくれてありがとう」
「いえ……。ごめんなさいついでに、ポーションは一つしかないから慎重に使いたいの。だから、クルトに使うことはできないの……」
「オレならポーションがなくても大丈夫だよ。まだ戦える。それよりも早く移動しないとね。この数のゴブリンを片付けるのは大変だから」
「……そうね。ごめんなさいね」
「気にしないでよ」
イザベルがこれ以上自分を責めることがないように敢えて明るい調子を意識して言った。
ぶっちゃけ、腕の火傷がかなりの痛みを訴えている。顔もヒリヒリするし、熱風を吸ってしまった気管はまだ焼けているようだ。ポーションを使えるものなら使いたい。
でも、命に係わる怪我ではない。
イザベルの言う通り、ポーションは一つしかない。使う場を慎重に選びたいというイザベルの主張は理に適ったものだった。イザベルの判断は正しい。だから、オレはイザベルに大丈夫だと答える。
「さあ、素早く行動しましょう。ゴブリンの右耳を回収。場所を移すわよ」
「ああ」
オレは率先して動く。短剣でゴブリンメイジの右耳を切り取り、残るゴブリンたちの右耳も切り取っていく。
もうゴブリンの右耳を入れるために持ってきた麻袋はパンパンだ。ホブゴブリンが持っていた大きめのゴブリン袋を代用に使っているほどである。その袋さえもかなりゴブリンの右耳が詰まっていた。
ゴブリンの耳は無駄に大きいからね。すぐにいっぱいになってしまう。もう三袋目だ。
オレたちはゴブリンの右耳やゴブリン袋を回収すると、すぐに場所を移動する。最初にいた場所からかなり離れているが、まぁ、仕方がないと思ってほしいところだ。
それだけ奇襲するメリットが大きいのだから仕方がないよね。
そうして新しい場所に移り、それぞれのポジションを確認しながら身を潜ませる。
ゴブリンの右耳の入った袋は、みんなまとめて森の風下に置いておいた。あとはゴブリンが来るのを待つだけである。
「ふぅ……」
腕や顔が焼けるように痛い。だが、我慢だな。きっとデニスやゲッツなら軽く耐えられる痛みだろう。彼らは前線で体を張っている分、痛みへの耐性が高い。
オレは隠れて奇襲ばかりしていたから、怪我することなんてあんまりなかった。だから、痛みへの耐性が低いんだな。
「こればっかりは仕方ないか……。帰ったらデニスやゲッツとの模擬戦を増やそう……」
そんなことを思いながら、オレはジッと木陰に身を潜ませるのだった。
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