033 ゴブリン掃討作戦②
ドスドスという腐葉土を穿つような足音はだんだんこちらに近づいてくる。できれば別の所に行ってほしかったんだが……。こちらに来るなら仕方がない。
このまま隠れてやり過ごすか、戦うか。それを決めるのはイザベルの役目になっている。イザベルが何も言わなければ、やり過ごす。イザベルが戦うといえば戦う。単純だけど、決定権を握るイザベルにかかる負担が大きいことが懸念点だ。もし怪我でもすれば、死人が出れば、イザベルは自分を極端に責めるだろう。イザベルは理論的に振る舞っているけど、情の深いところがある。
イザベルのためにも怪我をするわけにはいかないな。
ドスドスという足音はなおも近づいてくる。そして、他にも小さな足音も聞こえてきた。複数のゴブリンが接近しているらしい。
オレは慎重にダガーと短剣の留め金を外す。そして、自分の気配を消していく。
潜れた。
そのままそっと木陰から窺っていると、茂みを突き破ってゴブリンが現れた。片腕のない棍棒も持っていないゴブリンだ。その断ち切られた腕からはダラダラと濃い青色の血が流れている。
ザシャの射撃がない。イザベルも判断しかねているのだろう。
次に現れたのもゴブリンだ。こちらは肩に矢を受けている。
やはり怪我を負ったゴブリンの数が増えている。戦場では人間側の優位に進んでいるらしい。
そんなことを思っていた時、そいつは現れた。
それはゴブリンなのだろうか?
頭に生えた小さなツノ、大きく尖った耳、緑の肌。たしかにパーツを見ればゴブリンに間違いないだろう。だが、サイズがおかしい。普通、ゴブリンといえばオレの腰くらいまでしか身長がない。だが、そいつはオレと同じか下手したらオレよりも大きかった。
間違いない。ゴブリンの変異種だ。
ここはスルーすべきか?
「やるわよ! 戦闘準備!」
しかし、予想に反してイザベルの鋭い声が森に響く。
予め打ち合わせをしていたのだろう。それと同時に矢が放たれ、ゴブリンの胸を貫く。
足を止め、周囲を警戒しだすゴブリンたち。
こうなったらやるしかない。
潜った後、オレはデカいゴブリンの変異個体を狩るべくゴブリンの後ろに回り込む。
その時になると、デニスとゲッツも姿を現し、ゴブリンたちに斬りかかった。
デニスはいつものようにウォークライをあげない。ここは森の中。いつゴブリンの後続がくるかもわからない状況でこれ以上ゴブリンを集めないためだ。
普段叫ぶゲッツも黙々とゴブリンの首を刎ねる。
残るはゴブリンの変異種のみ。
ゴブリンの変異種の前に立つのはデニスだ。彼は変異種の操る棍棒を華麗に受け流すと、その腕を浅く斬り付ける。
ただ耐えるだけではなく、攻撃にも転じて変異種の視線をさらに集める。
変異種が再度棍棒を振り上げた瞬間、オレは後ろからその顎を掴み、首にダガーを走らせる。
溢れ出る群青色の鮮血。確実に命を奪った手応えがあった。
ゴブリンの変異種だから警戒していたけど、オークより楽だったな。
「お疲れ様。怪我はなさそうね?」
「おう」
「うん。大丈夫だよ」
「オレも大丈夫だ。イザベル、これはゴブリンの変異種だと思うんだけど、どうして戦おうと思ったの?」
「これはホブゴブリン。ゴブリンの変異種の中でもかなり一般的なものだわ。オークよりも弱いと聞いていたから、仕掛けることにしたの」
オレが問うと、イザベルが簡単なことだと言わんばかりに答える。
「なるほどね」
イザベルは情報収集もしっかりしている。自信があったのだろう。
たしかに改めてホブゴブリンを見れば、けっこう弛んだ体付きをしている。これでオークよりも強者だと言われても首を傾げていたかもしれない。そのあたりもイザベルは観察して判断を下したのだろう。
イザベルがリーダーでよかった。イザベルはこんな初めての状況に放り込まれても冷静だ。心強い限りだね。
「急いで今まで倒したゴブリンの右耳を回収してちょうだい」
「何かあるの?」
「ホブゴブリンの死体を片付けるのも手間でしょう? 場所を移動しましょう」
なるほど。たしかに同族の死体があればゴブリンたちも警戒するだろう。ホブゴブリンの死体を片付けられればベストだが、それは手間がかかる。だから、こちらが移動する。
「そんなことして大丈夫かな?」
心配性なデニスが困った顔をしてイザベルに問う。
「大丈夫よ。どうせ適当に配置されただけだもの。律儀に従う必要はないわ」
「そうだね。オレもそう思う」
イザベルの提案は、違反をしてでも仲間と共に生き残りたいオレの目標とも一致している。反対する理由はない。
「さあ、決定したならさっさと動く。この間もゴブリンが来るかもしれないから、注意しながらね」
「ああ」
オレは率先して短剣でゴブリンの右耳を回収していく。ついでにゴブリン袋の回収も忘れない。集めたゴブリンの右耳は、風下に置いておけば血の臭いでゴブリンたちに勘付かれることもないだろう。
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