032 ゴブリン掃討作戦
森の中、不安を抱えながらジッと木陰で待つ。
時折、鳥の奇怪な鳴き声に驚かされる。これがかなり心臓に悪い。
オレたちの目的はゴブリンだが、森にはゴブリン以外にもさまざまなモンスターがいる。その中には、今のオレたちでは勝てないモンスターもいるだろう。
そんなモンスターに見つかったら最後だ。
もう既にいつもよりかなり奥まで森に侵入している。オレたちにとって未知の領域だ。不安しかない。不安すぎてお腹が痛くなってきたし、森の中は蒸し暑いというのに冷汗が出てきた。
いったいいつまでこんな所で待機していなくてはならないのだろうか。もういっそ逃げ出してしまおうか。そんな考えまで浮かんでくる。
でも、孤児であるオレたちに他に就ける仕事なんてない。仕事に就くにはコネが必要だが、それが皆無だからね。それこそ男娼か娼婦くらいしかないだろう。まぁ、それも顔がよくなければなれないが。
それでも死ぬよりはマシかもしれない。
死んだら終わりだ。
オレが死んだらどうなるんだろう?
たぶん死体も回収されずにそのまま獣や虫の餌だな。
何のために生まれたんだろう?
「はぁ……」
不安だからか、嫌な想像ばかり浮かんでくる。
オレは嫌な想像を振り払うように頭を振ると、木陰からそっと周囲を窺う。まだゴブリンの姿はない。それはいいけど、想像以上に暇だ。イザベルとザシャ以外のメンバーはお互い離れて隠れているから話す相手もいない。
ふと上を見上げれば、木に厚く遮られて空は見えなかった。なんだか自由が奪われた感じがした。
それからどれだけ経っただろうか。ガサガサと腐葉土の上を走る音が聞こえてきた。方角的にゴブリンの巣穴があると教えられた方向だ。もしかしたら、ゴブリンかもしれない。
オレはそっとダガーと短剣の留め金を外す。
息を呑んで見つめる茂みを突き破って現れたのは、オレの腰くらいまでの高さの身長。緑の肌。体の大きさには不釣り合いに大きな尖った耳。頭には小さなツノがあり、大きな瞳は金色。その瞳孔はまるでヤギのように横長だ。
ゴブリンだ。オレたちがいつも相手にしているゴブリンだ。ご丁寧に粗末な棍棒を持っているのも一緒だ。
おそらく、オレたちが危惧しているゴブリンの変異種ではなく、普通のゴブリンだろう。
そう結論付けると同時に、ゴブリンの額に矢が生えてゴブリンが後ろに倒れた。きっとザシャの狙撃だろう。
しばらくそのまま待ってみるが、ゴブリンの後続はいないようだった。
オレは隠れていた木の影を飛び出すと、ゴブリンの額から矢を抜き、ゴブリンの死体を木陰に隠す。
そして、ザシャとイザベルが隠れている所に矢を届けた。
「ありがとー」
「いいよ」
それだけ会話を交わすと、オレもすぐに元いた木陰に姿を隠す。
ゴブリンが逃げてきた。ということは、洞窟の攻略は順調に進んでいると見ていいのだろうか。わからない。上手くいってくれているといいのだが……。
それからも散発的にゴブリンが姿を現したが、そのほとんどがザシャの矢で射抜かれて命を落とした。ザシャもかなり弓の腕がよくなってきているな。惜しむらくはまだ五本しか矢を持たせてやれないことだろう。ザシャは五本の矢を討ち尽くしたらカカシになってしまう。それはもったいないし、オレたちに動ける人間を余らせておく余裕なんてない。
一応、ザシャにはオレの使っていた包丁を持たせているが、それだけでは不安だ。やっぱり早急に装備を整える必要がある。
「よいしょっと……」
通算七体目になるゴブリンの死体を木陰に隠し、矢をザシャに届ける。
「ありがと! なんか悪いね」
「大丈夫だよ。気にしないで。それとイザベル、ちょっといい?」
「何かしら?」
「ゴブリンたちが逃げてきてるけど、これってゴブリンの巣穴の掃討がうまく進んでいると考えてもいいの?」
「まだ判断はできないけど、今のところ優位に進めているのだと思うわ。ゴブリンたちが優位なら、逃げてくるのは冒険者だと思うから」
「そっか。ありがとう」
ということは、冒険者が逃げてきたら注意が必要ってことか。冒険者たちが逃げてきたら、オレたちも逃げた方がいいだろう。
それからだんだんとゴブリンたちの逃げてくる数が増えた気がする。中には既に怪我を負っているゴブリンや、まだ生きているのが不思議なくらいボロボロなゴブリンもいた。
だんだん人間側が押しているのはないだろうか?
それ自体はいいことだとは思う。オレもべつに人間側の敗北を願っているわけではないのだ。
だが、人間側が押しているということは、今後は逃げてくるゴブリンが増えるということだ。
今のところ普通のゴブリンしか逃げてきてないのでまだ対処できるが、変異種が逃げてきたらどうするべきか……。
そんなことを考えていたからだろうか。ドシドシと今までのゴブリンよりも明らかに重い足音が響いてきた。
悪い予感って当たるものなのかもしれないな……。
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