031 ゴブリン掃討作戦開始
冒険者パーティ『月影』の案内でオレたちは森の中を進軍していく。
進軍といえば聞こえはいいが、オレたちを含めて部隊のほとんどがブラックウッド級の若い冒険者だ。オークを倒せるのだからゴブリン相手なら十分という考えもできるが、ゴブリンにはたまに変異種と呼ばれる強者がいる。本当に十分なのかはわからない。
慣れない団体行動。普段はこんなに森の奥に入ったことがないので、かなりの緊張を強いられる。森の中を歩いているだけで疲れてきた。装備がやけに重たく感じた。
「この辺りでいいだろう。『蒼天』はここで待機だ」
「はい?」
周りは見渡す限りの森だ。こんな所で待機? いつモンスターに襲われるかもわからないのに?
「『蒼天』を残して、あとのパーティは付いて来い」
「えぇー……」
オレの困惑をよそに、『月影』のメンバーとそれに付き従う冒険者パーティがどんどん森の奥に行ってしまう。
「大丈夫かな……?」
つい不安になってそんなことを零してしまった。そんなの聞かされたって、わかるわけないのに。
「大丈夫よ、クルト」
イザベルがホイッスルを取り出して答える。
「この笛を鳴らせば、『月影』が救援に来てくれることになっているわ。つまり、私たちに求められているのは、鉱山のカナリア役ね」
イザベルがどこか不機嫌そうに答える。
「カナリア?」
カナリアって何だろう? なんで鉱山?
「なんだそれ?」
「さあ、何だろう?」
ゲッツやデニスにもわからなかったのか、首を傾げていた。
「詳しい説明は省くけど、自分たちの手に負えないモンスターが来たら笛を鳴らす。つまり、私たちはモンスターの居場所を伝える役なの」
「そういうことかよ」
ゲッツが楽勝だと言わんばかりに頷いていた。それを見てイザベルは溜息を吐いていた。
「あのね、ここにやってくるゴブリンの強さも数も不明。ついでに言えば、いつ来るのかもわからないわ。そんな状態でこの笛で知らせたとして、『月影』が来るまで私たちが無事だと思う?」
「そいつは……」
ようやく考えが及んだのか、ゲッツの顔が青ざめていく。
「で、でも、相手はゴブリンだろ? それなら――――」
「忘れたの? フーゴさんの最期を」
「ッ!」
そう。ゴブリンは弱い。おそらくこの辺りでは最弱のモンスターだ。
だが、時折とんでもない強者が生まれる可能性がある。そいつにフーゴさんは殺された。
しかも、その時フーゴさんは一人じゃなかった。パーティメンバーと一緒にいたんだ。それなのにそのゴブリンには勝てなかった。ゴブリンは決して侮っていいモンスターじゃない。
今回の作戦は、そんなゴブリンたちがうようよいるゴブリンの本拠地への攻撃だ。ここにも変異種のゴブリンが逃げてくる可能性がないわけでもない。気は抜けない戦場なのだ。
「オレは全員で隠れて、倒せる相手だけ倒したらいいと思う」
「それ、いいの?」
オレの提案にデニスがちょっと驚いたように言った。デニスは真面目だからなぁ。
「残念だけど、オレたちはまだ弱い。勝てるゴブリンと勝てないゴブリンがいると思う。勝てるゴブリンなら戦うけど、勝てないなら戦わない。笛を吹いて終わりだ。場合によっては笛すら吹かなくてもいいと思う」
オレの言っていることは、命令無視だし、仕事の放棄とも言えた。
でも、オレはそれで例え冒険者ギルドからペナルティを貰うとしても、みんなと一緒に生きていたかった。
少し前まで、オレは生きることをここまで意識していなかった。
当たり前のことだと思っていたんだ。
でも、フーゴさんは死んでしまった。冒険者は死と隣り合わせの職業だということを思い出した。
だから、オレは死にたくないし、仲間を死なせたくない。
「そうね。私もそれがいいと思うわ」
「いいのー?」
「ザシャ、まずは自分たちが生き残ることを第一に考えなくてはならないわ。だから、いいの」
イザベルもオレも考えに賛成してくれた。ゲッツとデニスはいいのかなと言わんばかりにお互いの顔を見ているけど、反対ではないようだ。
「じゃあ、まずは隠れる場所を決めよう。幸い、ここは森の中だ。ジッとしていれば見つかる可能性は低いと思う」
隠れるのはオレの得意分野だ。オレがみんなの隠れる場所を決めていく。
それだけではなく、ゲッツの大剣とデニスの盾にも泥を塗って金属の光の反射も抑える。
パーティ資金に余裕がなかっただけだし、決して誇れることでもないが、金属鎧を着ているパーティメンバーがいなくてよかった。ボロ着は隠れるには最適だった。
各自の隠れる場所が決まり、準備は整った。そのまま時間が過ぎるのを待つ。
今さら気が付いたけど、オレたちの作戦は味方の本隊がゴブリンの洞窟を攻略する前提の作戦だ。もし、攻略に失敗したら、逃げ出すゴブリンもいないだろう。
攻略に失敗したら、本隊は逃げるだろう。だが、その場合、オレたちはどうなるんだ?
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