030 作戦前日
潜って、掻っ切る。
潜って、掻っ切る。
潜って、掻っ切る。
何度繰り返してきただろう。体が休憩を求め始める頃、気が付けば空は赤く染まっていた。
「今日はこのくらいにしましょうか」
「そうだな。腹減ったぜ」
「そうだね」
イザベルの言葉に頷くゲッツとデニス。
「ね! ね! 明日は強制クエストだし、今日はお肉入りのパン粥にしよーよ!」
「いいね!」
オレは期待するような目でイザベルを見ると、イザベルは仕方がないとばかりに溜息を吐いて答えた。
「わかったわ。でも、ポーションを買ってお金が残ったらよ? さすがにポーションは持っておきたいから」
「やったー!」
「頼む! 残ってくれー!」
イザベルはやっぱり明日の強制クエストを危険視している。オレたちには治癒魔法使いはいないからポーション頼みになるから、ポーションはたしかに持っておきたい。以前持っていたのは、デニスに使ってしまったからね。
でも、今日はたくさんゴブリンを狩ったし、討伐報酬は二倍だ。たぶん、お金も余るだろう。
今日はお肉が食べられそうだ。
ウキウキ気分のままオレたちは冒険者ギルドでゴブリンの右耳を換金すると、その足でポーションを一つ、そして小さな鶏肉を買って安宿に帰ってきた。
宿に帰ればすぐにご飯だ。鍋に水を張り、その中に少しの塩を入れる。薪に火を着けて、鍋の水が沸騰すれば五つ均等に切った鳥肉を入れ、湯がいてから硬い石のような黒パンをハンマーで砕いて入れる。黒パンが柔らかくなれば完成だ。
「できたよー!」
「待ってました!」
「ありがとう、デニス」
「やったー! おっにくー! おっにくー!」
「ありがとう」
デニスから木の器を受け取ると、中には黄金に輝く脂が浮いたパン粥がある。パン粥の真ん中には、白い身を輝かせた鶏肉が鎮座していた。
お肉があるというだけで幸せを感じるね。
「いただきます!」
まずは白く輝くお肉からいただく。
「はふはふ」
熱い。それに、あんまり味はしないし、繊維質だ。お肉と期待すると確かにがっかりするかもしれない。
でも、これは出汁を絞り出した後のお肉だからだ。お肉のおいしさはスープに溶け込み、パン粥全体をおいしくしているのだ。
やっぱりお肉は偉大だぜ!
いつもよりおいしいパン粥を食べて大満足のオレたちは、この日は明日に備えて早く寝た。
ベッドで横になって、うつらうつらと考える。みんな、無事に帰ってこられるといいなぁ。
◇
そして運命の翌日。
冒険者ギルドには多くの冒険者たちが集まっていた。もう冒険者ギルドの中に入れないくらいだ。冗談じゃなく、千人くらいいるんじゃないだろうか。それくらい大通りにも溢れた冒険者たちの姿は、見ているだけでも頼もしい。
だが、同時に不安も広がっていく。イザベルが言っていた戦争という言葉。これだけの人数が必要な戦闘っていったいどんなものになるんだろう。オレには想像もつかなかった。
それに、情報不足も感じていた。
オレたちは冒険者部隊の中核じゃない。下っ端も下っ端の方だろう。だからかもしれないが、オレたちのところまで情報が降りてこないのだ。
例えば肝心のゴブリンたちがどこにいるのかもオレたちは知らない。森の中に集落を作っているのかも、洞窟の中に潜んでいるのかも不明だ。
たしかにオレたちは上に言われた通りに動いていればいいのかもしれないが、さすがに不安だった。
「情報が少なすぎるわ!」
イザベルも爪を噛んでかなりイライラしている。滅多に見ないぶちギレイザベルである。
「まあまあイザベル、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか! 私にはパーティのリーダーとして、みんなを無事に帰さないといけないのよ! それがこんなに情報も貰えないなんて! ナメてるわね!」
「あの……、リーダー、一応、俺……あ、はい……」
ゲッツがか細い声で訂正するが、イザベルに睨みつけられると黙ってしまった。さすがのゲッツも怒れるイザベルに触る度胸はないようだ。
イザベルは怒ると怖いからなぁ。
「あー……『蒼天』? 『蒼天』はいるか?」
その時、オレたちのパーティ名を呼ぶ男の声が聞こえた。
「ここよ!」
イザベルが手をあげると、壮年の男がやってきた。ヒゲが特徴的な男だ。
「そこにいたか。お前たちは俺たち『月影』の部下になった。俺たちの命令を聞いて動いてくれ。って言っても、俺たちは討ち漏らしの始末だがな」
「命令を聞くのはわかったわ。でも、何か知っているのなら教えてくれないかしら? 私たちはいったいどこで何をするの? 『月影』が全滅した場合の指揮系統も知りたいわ」
「縁起の悪いことを言ってくれるなよ。俺たちもすべてを知っているわけじゃないが、今回はゴブリンの巣穴になっている洞窟を攻めるらしい。だが、俺たちは冒険者ランクの低い奴らでまとめられた部隊でな。洞窟には入らず、洞窟を囲むように森の中に部隊を展開。その後は洞窟から逃げてくるゴブリンを討つ予定だ。俺たちの部隊には、冒険者ギルドの職員も同行することになっている。もし俺たちが全滅したら、そっちに指示を仰いでくれ」
「そう。その冒険者ギルドの職員はどこにいるの? 私たちは森で分散するのでしょう? 指示はどうやって伝達するのかしら? それと――――」
わからないばかりのところに事情を知っていそうな人物が現れた。チャンスだと思ったのだろう。イザベルがどんどん質問を重ねていく。男は辟易した様子でだんだん肩が下がっていくのがなぜか面白かった。
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