029 イザベルの懸念
「うおおおおおお! ゴブリンの討伐報酬が二倍だってよ! こりゃ狩るしかねえぜ!」
ゲッツはやる気に満ち溢れている。オレたちのメインに狩っているモンスターはゴブリンとオークだ。オレたちにとっては普段の狩りでも十分旨味がある。
「ホワイトウッド級以上は強制参加って、ギルド長は戦争でもするのか?」
「ゴブリンどもも数が数だからなぁ。戦争ってのはあながち間違いじゃない」
「今さらゴブリンと戦うのかよ」
「なんかしらけるよなー」
「報酬倍って言われても、ゴブリンなんざいくら倒してもエールにすらならねえぞ」
一方の冒険者たちはどこかやる気のないムードだった。彼らがメインに狩ってるモンスターはたぶんゴブリンよりも強く、そして報酬が多いのだろう。それを報酬が倍とはいえ、強制的にゴブリンを狩ることになったのだから不満も出る。
パッと見た感じ、オレたち以外に喜んでいるパーティは少なそうだ。
「たくさん狩って、装備を揃えちゃおー!」
「おー!」
ザシャとゲッツは気楽に構えているみたいだけど、オレはイザベルの様子が気になった。先ほどからずっと少し俯いて考え事をしているみたいだ。
「イザベル、どうしたの?」
「クルト……。いえ、私の考え過ぎなら問題はないんだけど……」
そう言うイザベルの顔から不安の色は消えていない。やっぱり何か懸念すべき点があるんだ。
「よかったら聞かせてくれる?」
「これはあくまで私の推論になるのだけれど……。クルトはゴブリンアサシンのことを覚えてる?」
「ゴブリンアサシン……」
オレの使っている短剣の元の持ち主。忘れることなんてできない。一歩間違えば、イザベルかザシャを失っていたかもしれないのだ。
「覚えてるよ」
「今回の作戦では、ゴブリンの変異種との戦闘が予想されるわ」
「変異種……」
ゴブリンの中でも特別な力を持つゴブリンのことだ。ゴブリンはその母数が多い。だから、比較的変異種が多いモンスターだと言われている。ゴブリンアサシンもその一種だ。他にも弓の扱いに長けたゴブリンアーチャーや、中には魔術を使うゴブリンもいるらしい。
ゴブリンはこの辺りでは最弱のモンスターとして知られている。だが、一口にゴブリンといっても、人間と同じでその強さはまちまちなのだ。
「それに、私たちがこれだけ毎日ゴブリンを狩っているのに、ゴブリンの数は増え続けている。ゴブリンの総数は、私たちの想像以上に多いのかもしれないわ。そして、それだけ多ければ、何らかのコミュニティーが発達してもおかしくない。それこそゴブリンの国ができていてもおかしくないわ。誰かが言っていたけど、これは戦争になるかも……」
「戦争……」
常日頃からモンスターと戦っているオレたちだが、それは局所的な意味しか持たない。戦争というワードは言い知れない不吉な感情をもたらした。
「すべては私の推論でしかないけど、用心するに越したことはないわ。どうせ逃げられないしね」
「そうだね……」
オレたちはオークを安定して狩れるようになったことを認められてホワイトウッド級に昇級している。今回の作戦には強制参加だ。逃げられない。
「なに暗い顔してんだよ! 報酬二倍だぜ! さっそく行くぞ!」
ゲッツにベシベシと背中を叩かれる。
オレもゲッツくらい気楽な思考でいたかったよ……。
そんなわけでゲッツに引きずられるようにしてオレたちはいつもの森の入り口へとやってきた。
やっぱり報酬二倍というワードが効いたのか、いつもよりもゴブリン狩りをしている冒険者の姿が多いような気がする。
「じゃあ、行ってくるねー!」
「気を付けてね」
森の奥に潜っていくザシャを見送り、オレはいつものように木の裏に隠れる。
頭の中では、イザベルが口にした戦争という言葉がリフレインしていた。
ゴブリンとの戦争。本当にそんなものを始めてしまっていいのだろうか?
「ふぅー……」
まぁ、オレはそれを決定する立場にないし、強制参加だし、言われた通りやるしかないんだけどさ。
願わくば、オレたちを指揮するパーティがまともなパーティであることを祈るばかりだ。
「来たよー! ゴブ五匹!」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
「でりゃあああああ!」
ボーッとしていたようだ。気が付いたら戦闘が始まっていた。こんなことじゃいけないな。今は目の前のことに集中しよう。
「潜れた……!」
誰にも注目されていないという確信。オレはそろりそろりと戦闘区域を迂回し、ゴブリンたちの背後に回る。
そして、一番後ろにいたゴブリンの首を背後から掻っ切る。
ゴブリンは断末魔の叫びをあげることなくそのまま倒れた。
まだ他のゴブリンにはバレていない。
そのまま二匹目のゴブリンの首を掻っ切る。
その頃になると、前衛陣の戦闘も終わっていた。
そのままゴブリンの右耳とゴブリン袋を漁ると、次の戦場へ。
今日の狩りは始まったばかりだ。
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