027 報告と模擬戦
それから夕方まで森で場所を転々としながら狩りをしたが、結局オークは一体も見つからなかった。あんなにいたオークが一体もいないなんて、やはりどこかおかしい気がする。言葉にできない不安を感じた。
城塞都市ヘーネスに帰ると、ゴブリンの右耳を換金するために、そして、オークの不在を報告するために冒険者ギルドを訪れる。
「おい、今日は飲んでいかねえのか?」
「飲んだらまた母ちゃんに叱られちまうよ」
「所帯持ちの辛いところだねぇ」
「最近ゴブリン多くねえか?」
「こりゃひょっとすると……」
「知ってるか? 『疾風』が解散したんだと」
「マジかよ。最近いい感じだったじゃねえか」
「それが死人が出たんだとよ」
冒険者ギルドの中は相変わらず混沌としていた。冒険者ギルドのドアを開けた瞬間から食堂にいる冒険者たちの大声や怒声などが耳を叩く。
それらを無視して受付嬢さんの待つカウンターへと向かう。いつものようにゴブリンの右耳を換金した後、イザベルが気になることがあると受付嬢さんに報告し始めた。
「どうかされましたか?」
「今日、森に潜ったのだけど、一度もオークに遭遇しなかったわ。明らかにオークの姿が消えているの。冒険者ギルドの方でなにか情報はないかしら?」
「そのことでしたら、明日の早朝、ギルド長より発表があるそうです」
「ギルド長から?」
ギルド長といえば、滅多に姿を現さない冒険者ギルドのトップである。それだけ大きなことがあるのだろうか?
「ですので、明日のギルド長からの発表をお待ちください」
「早朝ね? わかったわ」
発表があるのなら、それを待つしかないね。
その後、オレたちは安宿に戻って、体を拭いていつものようにパン粥を食べた。
「明日の発表ねえ。えらくもったいぶるな」
「ギルド長の発表だもんね。それだけ大きなことになると思うけど……聞きにいく?」
デニスに問いかけられたイザベルはパン粥の入った器を膝の上に置いて答える。
「聞きに行った方がいいわ。今は少しでも情報が欲しいもの」
「そんな気にするようなことか?」
「ゲッツ、情報が時に生死を分ける時もあるわ。冒険者は情報に敏感じゃなくてはいけないわよ」
「へいへい」
「でも、気になるね。オレはギルド長を初めて見るからそっちも気になるよ」
「噂だとメガネかけてるんだってー」
厳めしい顔をしたザシャが片手ずつで二つの輪を作り、両目に押し当てていた。もしかしたら、メガネのつもりなのかもしれない。
◇
食事の後、イザベルとザシャが井戸の傍で鍋や器を洗っている。
「よっと!」
「おらあああああああ!」
庭では、ゲッツとデニスが模擬戦をしていた。
オレは二人の模擬戦をぼんやりと見ている。
空にはまん丸の月が浮かび、月明かりが明るかった。
月明かりに照らされた城塞都市ヘーネスの姿はどこか幻想的ですらあった。まるでこの世のあの世が曖昧になったような気分だ。
だからだろう。オレはフーゴさんの言葉を思い出していた。
『あん? 直接戦闘が苦手? クルトはアサシンだから、敵の裏をかけばいいんだよ。それは直接戦闘でも同じだ。こうして、足を絡めたり、相手の手を引いてみたり。意識するのは相手の意表を突くってことだな。そいつはいつでも変わらねえよ』
フーゴさんはそう言って笑っていたっけ。
「どはッ!?」
気が付けば、ゲッツが尻もちをついて庭に転がっていた。デニスが勝ったみたいだ。
オレは双剣を手に立ち上がると、デニスの前に立つ。
「一本お願いできる?」
「クルトがやるなんて珍しいね。いいよ。やろう」
「ありがとう」
快く受け入れてくれたデニスに感謝して、オレは双剣を構える。
対するデニスは、大きな盾を前に突き出した構えだ。
いつものデニスの構えだ。オレはあまり模擬戦に参加しないけど、二人の模擬戦はよく見ていたのでわかる。
おそらく、オレの攻撃を凌いでショートソードでの攻撃を狙っているはず。
オレの視界は大きな盾に防がれてデニスのショートソードがどこにあるのかわからない。どこから攻撃がくるのかわからない。対峙してわかったけど、これはかなり厄介だ。
「いくよ」
「いつでも」
オレはデニスに向けて疾走する。オレのデニスより勝っている部分、素早さをフル活用するつもりだ。
『意識するのは相手の意表を突くってことだな。そいつはいつでも変わらねえよ』
頭の中でフーゴさんの言葉がリフレインした。
その時、咄嗟に体が動く。
右手のダガーをデニスの大盾に向けて投げつけた。
ガコンッと音を立てて、当然のように弾かれるダガー。
だが、オレの武器は双剣。もう一本ある。デニスもそれを警戒しているようで、大盾の構えを解かない。
オレは右手を伸ばす。掴んだのはデニスの持つ大盾だ。
「くっ!」
オレは急ブレーキをかけると、体重をかけてデニスの大盾を思い切り引っ張る。
「ああっ!?」
すると、予想以上に軽い力でデニスの体勢が崩れた。
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