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なにもないオレたちの、なにもかもがある英雄譚  作者: くーねるでぶる(戒め)


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022 イザベルの心

「ケッ。なにが『バルムンク』万歳だよ!」


 あれから一時間ほど経っただろうか。デニスを連れて安宿に戻ってきたオレたちは、今日も狩りに行くことができずに宿でのんびりしていた。


 まぁ、ゲッツの言う通り、心までのんびりとはいかなかったけどね。


 『バルムンク』の活躍は目覚ましいものがある。それは確かなことだし、すごいことだとは思う。でも、心から『バルムンク』の活躍を喜べない自分がいるのもまた確かなことだった。


 それもこれもブルクハルトの奴が目敏くオレたちを見つけて挨拶しにきたことが原因だ。


 冒険者ギルドでデニスの点滴の時間を待っている時にそれは起こった。


 ギルド長との話も終わったのだろう。『バルムンク』のメンバーが帰ってきたのだが、その時、ブルクハルトがまっすぐオレたちのところにやってきた。当然、オレたちにも視線が集まった。


「お! 帰ってきたぞ!」

「『バルムンク』万歳!」

「ん? あのみすぼらしいパーティは何だ?」

「教会の孤児じゃねえか?」

「あー、たしか『バルムンク』と同期のパーティだな。名前は何だったか……」

「同期?」

「同じ日に冒険者に登録したんだと」

「そりゃ、えらく差がついたな」

「おいおい、お貴族様と孤児なんかを一緒に比べてやるなよ。かわいそうだろ」

「そいつはどっちがかわいそうなんだ?」

「お貴族様だろ。孤児なんかと比べられたなんて知ったら不敬罪で首が飛ぶぞ」

「ちげえねえ!」


 冒険者たちの心ないヤジにも身が削れるような思いがした。


 そんな中、ブルクハルトは親しげに語りかけてくる。


「『蒼天』の皆も来てくれたんだね」

「何の御用かしら、カウニッツ様?」


 代表してイザベルが返すが、その返事にブルクハルトは不思議そうな顔を浮かべた。


「『蒼天』も私たちのことをお祝いしに来てくれたのかと思ったんだが……。違ったかな?」

「それはおめでとうございます。でも、私たちがここにいたのはただの偶然よ」

「リーダー、彼らの仲間の一人が怪我をしてまだ目を覚まさないらしい」


 そう言ったのは、ヤンと呼ばれている壮年の男だった。


 それを聞いて、ブルクハルトが腰の小袋から何かを取り出した。


「それは心配だね。これを受け取るといい」


 それは黄金に輝く金貨だった。初めて見たけど、たぶん大金貨というやつだと思う。その価値はオレにもわからない。


 だが、それが施しであることがオレにもわかった。


「ッ!?」


 イザベルの背中が微かに震えていることがわかった。それは初めて金貨を見た感動なのか、それとも施しを受けることへの屈辱なのか、オレにはわからない。


 でも、今のイザベルは迷っているように思えた。


 責任感の強いイザベルだ。もしかしたら、デニスの怪我も自分のせいだと思って自分を責めているのかもしれない。


 その責任を取る意味でも、イザベルは己の屈辱を押し殺そうと一生懸命なように見えた。


 オレはイザベルのわなわな震える背中に手を置く。


 賢い者なら、屈辱を呑み込んで、笑顔でこの金貨を受け取って、パーティの装備を整えて躍進するのかもしれない。それくらいはイザベルだって考えているだろう。


 大金貨はそれだけの力を秘めている。大金貨の価値はわからなくても、オレにもそれはわかった。


 でも、それじゃあいつまで経ってもオレたちはブルクハルトたちの下だ。


 べつにどちらが偉いか、どちらが上か下かなんて今まで特に気にしたことはないし、オレ自身はどうでもいいと思っている。


 オレたちは孤児だからね。下に見られることにだって慣れている。


 でも、イザベルが望まないなら、大金貨なんていらない。


 そして、イザベルの横から金貨を乗せたブルクハルトの手に手を伸ばし、そっとブルクハルトの手を金貨ごと握らせた。


「ありがとう。でも、気持ちだけでいいよ」


 ブルクハルトは意外なものを見るような顔でオレを見ていた。


「クルト……。本当にいいの?」

「うん」


 オレは迷いなく頷くとイザベルの纏う雰囲気がふわりと柔らかくなった気がした。


「カウニッツ様、お気持ちだけ受け取るわ」


 イザベルもそうブルクハルトに返すと、ブルクハルトは苦笑を浮かべて確認してくる。


「それがキミの答えなんだね?」

「ええ」


 ブルクハルトのイザベルに向けた問いかけの意味はオレにはわからない。そのことがちょっと苦しかった。


「わかった。余計なことをしたようだ。許してほしい。では、行こうか」


 それから『バルムンク』は冒険者たちの輪の中へと消えていく。


「『バルムンク』万歳!」

「ヤンの兄貴だけじゃねえ。これで『バルムンク』も上級パーティの仲間入りだな」

「英雄ってのはこういうのをいうのかねえ」

「大金貨を貰わないとか、信じられねえな」

「孤児だから価値がわからなかったんだろうよ」

「がはは! そうかもな!」


 オレたちのやり取りを見ていた冒険者たちのオレたちの評価は散々だ。


 でもいいんだ。イザベルの心を守れたような気がしたから。

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