021 『バルムンク』の偉業
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「聞いたかよ? あの『バルムンク』が今度はオークキングを倒したらしいぜ!」
「マジかよ!? まだ結成してから三か月も経ってねえだろ?」
「どこまでいくのかねぇ」
「楽しみだ!」
「ソーセージチーズマゼターノってやつがうめえのなんの!」
「おい! それはどこで食える? 言わなければ――――」
「に、西門だ! だから、もう勘弁してくれ!」
冒険者ギルドの大きなドアを開けると、中から一斉に冒険者たちの騒ぐ声が聞こえてくる。
どうでもいいけど、朝から酔っぱらってるあの冒険者たちの収入源って何なんだろう?
気になるな。
「お? なんだなんだ? 朝から怪我人か?」
「おー、不吉だねえ」
「げはは! 助かるいいな!」
「行くわよ」
オレたちは冒険者たちの言葉を無視してカウンターの受付嬢さんに訳を話し、医務室へと急ぐ。
医務室にはいつもの男が椅子に座っていた。
「キミたちは……。そっちの彼かね?」
「はい。お願いします」
「ひとまずベッドへ」
デニスを担架ごとベッドに寝かせると、医者の男はデニスの腕を取ったり、デニスの瞼を押し上げて目を確認したりしていた。
「ふむ。問題はなさそうだが……」
「でも、もう三日も目を覚まさないんですよ?」
「ふむ……。まぁ、そろそろ目を覚ますだろう。一応、点滴だけ打っておこう」
医者の男はなんでもないようなことのように言ってのけた。
点滴ってなんだろう?
それから男はデニスの腕に袋の付いた針を刺す。
「四半刻ほどそのままにしているといいだろう」
「これは?」
イザベルが問うと、男が答えるために口を開く。
「点滴というものだ。眠っていては食事がとれないからな。その代わりだ。彼はこの部屋で寝かせておけばいいだろう。また三日後、まだ目を覚まさなかったらまた来るといい」
それだけ言うと、男は行ってしまった。
「点滴ねえ。こんなのが飯ってマジかよ」
「かわいそう……」
ゲッツとザシャがベッドで眠るデニスを憐れむように見ていた。
「点滴……。そういうのもあるのね」
イザベルは感心したようにデニスの腕に刺さった袋を見ながら呟く。
「すごいものがあったね」
「ええ」
オレたちは一刻が過ぎるまで冒険者ギルドの中で待つことにした。
久しぶりにクエストボードで今のオレたちにもできるクエストがないか探してみたりしながら時間を潰していると、突然、冒険者ギルドがわあっとさらに喧しくなった。
「何だあ?」
「あれって!」
「『バルムンク』……!」
冒険者たちの視線の先。冒険者ギルドの入り口には久しぶりに見た『バルムンク』のメンバーたちがいた。
リーダーであるブルクハルトの姿もある。
その後ろのドアの向こうでは、なにか大きなピンク色の物体があった。
何だあれ?
「あれが『バルムンク』!」
「後ろのは倒したっていうオークキングじゃねえか!?」
「あんなデカ物、持って帰ってきたのかよ!?」
「こいつは予想外だ!」
「マジか……」
オークキング? それを倒した? 『バルムンク』が?
キングってことは、オークの王様だ。オレたちが普段相手にするオークよりどれだけ強いのだろう?
王様ということは、王様を守るオークもたくさんいたはず。それらを薙ぎ倒してオークキングを討ち取ったのか。
しかも、『バルムンク』はその証拠だと言わんばかりにオークキングの死体を持ち帰った。
オークキングの死体にどんな利用価値があるのか、オレにはわからない。
でも、それがどれほどの偉業なのかまざまざと見せつけられたような気分だ。
「思ったよりやるじゃねえか、『バルムンク』」
「自分たちを持ち上げるフェイクニュースじゃなかったってことか」
「『バルムンク』……。その名、覚えたぞ」
上級冒険者と呼ばれるすごい人たちも『バルムンク』を認めたようだ。これまであったような『バルムンク』の実力を疑問視するような声はこれで完全に消え失せていた。
「すげーな、『バルムンク』!」
「ヤンの兄貴の力だけじゃねえな」
「その成長スピード、まさか彼らは……!」
「ちっ」
冒険者たちの歓声の中、ゲッツが面白くなさそうに舌打ちする音が聞こえた。ゲッツはまだ『バルムンク』に嫉妬できるだけの心の強さを持っているようだ。だけど、オレにはもうその強さを持てる自信がない。
同じ日に冒険者に登録したのに、この差はどこで生まれてしまったのか。
そんなことを考える余裕すらなかった。
今までは、生まれさえ違えば自分たちだってと思う心もなかったといえば嘘になる。
だが今は、ただただ、そのすごさに圧倒された。
「『バルムンク』の方々、ギルド長がお呼びです! すぐにいらしてください」
「わかった。行こうか」
颯爽と先頭を歩くブルクハルト。その後に続く『バルムンク』のメンバーたち。彼らはオレの目から見ても輝きを放つオーラを纏っているようだった。
そして、『バルムンク』が行くのをただ見送るしかないオレたち。
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