020 三日目の担架作り
「ふぁー……。朝か……」
デニスが倒れて三日目の朝。
ベッドの下を見ると、まだデニスは寝ているようだ。それだけ疲れていたんだなと思うと同時に、さすがにそろそろ起きないと心配になってくる頃合いだ。
「でへへ……。おっぱい……」
横を見ると、ゲッツが腹を掻きながら寝ている。男の情けで寝言は聞かなかったことにしておこう。
オレはベッドの二階から飛び降りると、そっとデニスの体を揺する。
「デニス、朝だよ? お腹は空いてない?」
デニスは相変わらず安らかな顔をして眠っていた。こんなに安らかに眠っているのに無理に起こすのはかわいそうだけど、さすがにそろそろなぁ。
オレはそう思いながら部屋を出る。まだ朝日が昇る前。いつもより薄暗いくらいだ。今日はちょっと早起きしてしまったらしい。でも、目が冴えている。今日はこのまま起きていよう。
「そうだ」
今日はオレが朝食を作るのはどうだろう。料理はしたことはないけど、いつもデニスやイザベルが作ってたのを見ているし、たぶんできるだろう。
「そうと決まれば、さっそく準備だな」
安宿の外に出れば、冷たい風が体を撫でる。そして、庭からパチパチと薪の爆ぜる音が聞こえてきた。
「あら? 今日は早いのね?」
「おはよう。イザベルこそ早いね」
竈の前ではイザベルがもう鍋をかき混ぜていた。どうやら遅かったらしい。
それにしても、イザベルは早起きだな。
「おはよう。デニスはどう? 起きる気配はある?」
「体を揺すってみたんだけど、まだみたいだ」
「そう……」
イザベルの顔に陰ができる。
「やっぱりそろそろ心配になるよね」
「そうね。やっぱり、また冒険者ギルドの専門医に診せるべきかしら?」
「その方がいいかもしれない。もう三日も食べてないから、ちょっと痩せた気がするし」
「そうね……」
「おっはよー!」
イザベルと話していると、ザシャが元気いっぱいな様子で現れた。
ザシャはいつも明るいな。見ていると暗い気持ちも飛んでいきそうだ。素直にありがたい存在だと思える。
「あれ? どったの? 何か二人とも暗いぞー?」
「デニスがまだ起きないのよ」
「心配だねって話してたんだ」
「そっか。そりゃ心配だよねー」
うんうんと頷くザシャ。そんな動きもどこかコミカルで面白い。
「それでデニスをもう一度冒険者ギルドの専門医に診せようかという話になったのよ」
「にゃるほど。たしかに心配だもんねー。いいと思うよ!」
「デニスを担ぐのは大変だけどね」
またオレとゲッツでデニスを担いで冒険者ギルドまで行くのは大変だが、やらないわけにはいかない。
「それなら簡易な担架でも作りましょうか?」
イザベルが何でもないようなことの言うが、オレには驚きだった。
「そんなの作れるの!?」
「期待させて申し訳ないけど、本当に簡単な作りよ?」
「運ぶのが楽になるなら何でもいいよ!」
「じゃあ、ちょっと待っていなさい」
イザベルが薪の置いてある小屋に行くと、二本の枝とロープを持ってきた。
「ちょっと手伝ってくれる?」
「うん」
「らじゃ!」
「まず、こうしてロープを棒に結んで……」
手伝うといってもオレとザシャがやったのは木の枝を持っていただけだ。イザベルはまるで二本の枝を縫うようにロープを走らせていく。そして、すぐに完成した。
「このロープの部分にデニスを乗っけるの。そして、クルトとゲッツが棒の端を持つ。これだけよ」
「うーん……」
「これって……」
予想以上に簡単な作りでビックリしてしまう。
「大丈夫なの?」
思わずイザベルに訊いてしまった。
「想定では大丈夫だけど……。もう少し補強しておきましょうか」
イザベルはまた別のロープを取り出す。
「おっすー! おん? 何やってんだ?」
その時、ゲッツが顔を出した。腹をバリバリ掻きながら眠たそうである。
「デニスを運ぶ担架を作ってくれてるんだ」
「たんかー? それで本当に大丈夫か?」
やっぱりゲッツの目にも即席の担架は不安に映るらしい。
「もう少し丈夫にしてみましょう」
「そだねー」
そうして四人でああでもないこうでもないと担架作りに精を出すことになった。そのせいでパン粥が少し焦げてしまったよ。焦げたパン粥が苦かった。
◇
「いくぞー!」
「うん。よいしょっと!」
そして朝食後、オレたちは作った担架にデニスを乗せて冒険者ギルドを目指して安宿を出発した。
即製の担架でもあるとないのでは全然運ぶ苦労が違う。やっぱり作ってよかったな。簡単な作りだし、必要な材料は少ない。これは便利だ。覚えておこう。
一度、城塞都市ヘーネスの東門広場に出て、西に舵を切って冒険者ギルドを目指す。
屋台で売られている食べ物の匂いが朝食を食べたばかりの胃袋を直撃するが、我慢我慢だ。
オレたちはもう三日も狩りに出ていない。当然、その間の収入はゼロだ。屋台のご飯を買うような余裕なんてない。
フーゴさんの言っていた一人前の冒険者への道は長いなぁ。
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