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なにもないオレたちの、なにもかもがある英雄譚  作者: くーねるでぶる(戒め)


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002 『バルムンク』と研ぐ

 アスマン山脈と海を繋ぐように位置する城塞都市ヘーネス。ヘーネス以東に存在するモンスターの脅威から人々を守るために作られた古い都市だ。


 立派な防壁に囲まれたこの都市こそがオレたちのホームである。


 いつものように首から革紐で結んだ羊皮紙に名前が書いてあるだけの冒険者証を門を守る門番に見せてオレたちはヘーネスに入った。


 途端に香ってくる雑多な、しかしおいしそうな匂い。東門広場には数々の屋台が軒を連ねて人々を誘惑している。


「あー! 肉食いてえ!」

「黙って歩きなさいな」


 屋台の肉の串焼きを見ながらぼやくゲッツを一蹴するイザベル。


 まぁ、お肉を食べたいのはみんな一緒だ。でも、装備が整うまでは我慢すると決めた。食べたいのに食べれないというのはけっこうキツイ。みんなお肉の存在を忘れようと必死なんだ。イザベルがゲッツを一蹴するのも無理はない。


 お肉のことを必死に頭から追い出しながら歩く。向かう先は冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドは、ここヘーネスから東を冒険する者たちを支援するために作られたギルドである。


 まぁ、冒険者と言ってもモンスター専門の駆除専門業者になって久しいけどね。本当にヘーネス以東を冒険できるのは、一握りの天才冒険者だけだ。


 そんなことを思いながら歩いていると、すぐに冒険者ギルドが見えてきた。石造りで飾り気のない武骨で大きな建物。東門から近い場所にあるのは、いざという時のことを考えてのことだろうか?


「よいしょっと」


 先頭を歩いていたデニスが冒険者ギルドのドアを開けると、途端にガヤガヤと冒険者たちの話し声や怒号が聞こえてくる。今日も冒険者ギルドは大盛況だ。


「さあ、さっさと換金を済ませましょう」


 イザベルが促すと、オレたちは冒険者ギルドのカウンターに並ぶ。


 その時、冒険者ギルドの中がザワザワしだす。


「おい、見ろよ。『バルムンク』の奴らだぜ?」


 ゲッツの声に振り向けば、ピカピカの鎧に身を包んだ金髪の若者の姿があった。


 ブルクハルト・カウニッツ。オレたちと同期の冒険者だ。噂ではカウニッツ伯爵家の嫡子らしい。


「ブルクハルト様、今日も素敵ね」

「ヤンの兄貴も就職先が見つかってよかったぜ」

「ワイバーンを倒したんだろ?」

「あれが新進気鋭の冒険者パーティ『バルムンク』か」


 ブルクハルトのパーティ『バルムンク』はオレたちとはまるで違った。ただ整うだけではなく、業物と評していい装備をしていた。


 『バルムンク』のパーティメンバーは、十代後半の若者ぞろいだが、その中に一人だけ四十代の男がいる。シルバー級冒険者ヤン。本当の意味での冒険者。一握りの天才だった者だ。怪我をして引退したらしいが、彼は今『バルムンク』の指導役としてパーティに参加しているらしい。


 整った装備に道先案内人。オレたちに足りないものをすべて持っているパーティだ。さすが、伯爵家のお坊ちゃまだね。


「ケッ。見せびらかしやがって」


 ゲッツの視線の先をたどると、ブルクハルトの持っている豪華な装丁の大剣を見ているようだ。


 ゲッツは同期だから『バルムンク』に競争意識を持っているようだけど、オレにそんなものはない。だって、オレたちと彼らはその生まれから違うんだ。争ったって無駄だよ。


「次の方どうぞ」


 どうやらオレたちの番らしい。


「ほらゲッツ、呼ばれてるよ」

「おう」


 ゲッツがドンッと銀のトレイに血に汚れた麻袋を置いた。


「ゴブリンの右耳、十個よ。確認してくださる?」

「かしこまりました」


 その後、オレたちは無事に五枚の銀貨を手に入れて冒険者ギルドを後にした。



 ◇



 いつものように常宿にしている安宿に帰り、帰りがけに買った黒パンと野菜でパン粥を作って食べた。ちょっとしか塩を入れないので、黒パンのえぐみが目立つオレたちの常食だ。


 城塞都市ヘーネスは海が近いとはいえ、安全な場所ではない。なので塩も高いのだ。


 夕食を済ませたら、今度は体を拭く。汗もかいたし、ゴブリンの血で汚れているからね。


 シャボンなんで高級品はないので、ボロキレでごしごしと擦るように洗っていく。


 それが終われば就寝時間なのだが、今日はやることがある。


 宿屋の店主に砥石を借りて包丁を研ぐのだ。


 井戸の近くに行くと、月明かりに照らされた大きな人影があった。


「デニス? どうしたの?」

「クルト……」


 デニスはちょっとバツが悪そうな顔をしている。


 見れば、デニスは右腕に布を巻いて井戸水で冷やしているようだった。


 昼間は平気そうにしていたけど、やっぱり痛かったのだろう。


「大丈夫? 骨とかは折れてないの?」

「骨は大丈夫だけど、腫れが引かなくてね……。クルトはどうしたの?」

「オレは包丁を研ぎに来たんだ」

「なるほどね」


 砥石に水をかけ、包丁を研いでいく。


「いつまでこんな生活が続くんだろうね……」


 デニスが呟くように言う。


 その声は驚くほど沈んでいた。


「さあ……。でも、明日もがんばろうよ」


 オレの声は震えていなかっただろうか?


「うん。そうだね……」

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