018 過労
「ふむ。これは過労かもしれないね」
「かろう?」
冒険者ギルドの医務室。そこでデニスを診てもらうと、医者らしい男性はそう言った。
「ようするに、とても疲れているから体が休憩を欲して寝ているんだ。命に別状はないよ」
「そうですか……」
「よかったー!」
「ったく、人騒がせな奴だぜ!」
「よかった……」
ホッとした様子のイザベル。デニスが無事とわかって喜ぶザシャ。悪態を付きながらもちょっと涙声のゲッツ。もちろんオレもホッとした思いだ。
「だが、この子が過労だとすると、キミたちも過労の可能性が高い。体が疲れているんじゃないかな? 体が怠いとかはないかい?」
「まぁ、ちょっとな」
ゲッツがそう証言すると、医者の男は真剣な顔で言う。
「過労を甘く見てはいけない。働きすぎると人は死ぬからね」
「死ぬのか!?」
「そうなんだ……!」
ひどく驚くゲッツとザシャ。イザベルも声には出さないが驚いたように眉をピクリと動かしていた。
オレ? もちろん驚いたよ。斬られたり、殴られたり、怪我があるなら死ぬのはわかる。でも、働きすぎで人が死ぬなんて聞いたことがなかった。
でも、相手は冒険者ギルドに雇われている医者だ。これまでにさまざまな怪我の多い冒険者を相手にしてきたエリートである。そんなことあるわけないと切って捨てるにはその言葉は重すぎた。
「キミたちも無理せず、数日休養を取るといいだろう。冒険者はただでさえ体を酷使する。休みの日くらいは体を労わってあげたまえ。以上だ」
そう言って医務室を出て行く男性。きっと次の患者の診察に行ったのだろう。
「休め、か……」
そういえば、冒険者になってまともに休んだことなど数えるほどしかない。たしかに体が怠いと感じることもあるが、それは自分の鍛え方が足りないからだと思っていた。
まさか、働きすぎると人は死ぬなんて……。考えたこともなかったよ。
「ま、デニスが無事でよかったぜ! 一時はもうダメかと思ったもんな!」
「そうね……」
イザベルがゲッツの言葉に適当に返しつつ、考え込むような仕草を見せていた。
「イザベルどったの?」
「ちょっと反省していたのよ。これからはちゃんと休みも作らないといけないのね」
ザシャに問われたイザベルは難問に挑戦するような顔でそう言った。
「あいつの言うこと信じるのか? 働きすぎで死ぬなんて聞いたことないぜ?」
「専門家の言葉は素直に聞いておくべきよ。あの男が私たちを騙しても得なんてないもの。そうと決まれば、まずは宿に戻りましょう」
「デニスの奴重いんだよなぁ……」
「そうだね……」
「がんばってー!」
ザシャに応援されて、オレとゲッツはデニスの肩を持ってそのまま宿に持って帰った。
そして、デニスをベッドに寝かすと、汗が滝のように流れていた。
「水浴びに行こうぜ」
そう言うゲッツも汗が顔中流れていた。
「いいね。行こうか」
オレたちは宿の庭に出ると、パンツ一枚になって井戸の水を浴びながら飲んだ。干からびた体が蘇っていくような心地だ。熱くなった体が冷えて気持ちがいい。
「ぷはっ! うめー!」
「お酒飲んだ後の水は甘露とか言うけど、運動後の水とどっちがおいしいんだろうね?」
「酒か。飲んでみてーなー! 俺は肉も酒も好きなだけ飲み食いできる伝説の冒険者になるんだ!」
「いいね。オレはその前にソーセージチーズカケターノをたらふく食べたいよ」
「いいじゃねえか! ビッグになろうぜ!」
「だね」
ゲッツがいい笑顔を浮かべて拳を突き出してきたので、オレも拳を作ってゲッツの拳を軽く叩く。口調が強いし、喧嘩っ早いし、でも、ゲッツは仲間思いの優しい奴であることをオレは知っている。そうじゃなかったら、オレはゲッツの提案に乗って冒険者にはならなかっただろう。
「あなたたち、早く拭かないと風邪引くわよ?」
「おう!」
「うん」
竈の前で鍋を見ているイザベルに注意されて、オレたちはいそいそと体を拭いて部屋に戻る。
「デニスはまだ寝ているみたいだね」
「みてーだな。まったく、人騒がせな奴だぜ」
ゲッツがデニスの鼻を摘まんで遊んでいる。
「遊んでないで行こう。きっとそろそろ――――」
「ご飯できたよー!」
部屋のドアをバーンと開けてザシャが現れる。
「わかったよ」
「おう! 今行く!」
オレとゲッツは急いで服を着て宿の庭の竈へと行く。そこではイザベルが五等分に分けたパン粥を用意して待っていた。
「来たわね。デニスは?」
「まだ寝てるぜ。起こすか?」
「寝かせておいてあげましょう。きっとまだ疲れているのよ」
「そうだね」
疲れているデニスを無理やり起こすのもかわいそうだ。
「じゃあ、ご飯どうしよっかー?」
「取っておきましょう。夜中に起きるかもしれないから」
「らじゃ!」
「じゃあ、食べるわよ」
「うん」
「おう!」
「食べよー、食べよー!」
この日の夕食は鶏肉の入っていない、いつものパン粥だった。ソーセージチーズカケターノが懐かしい。
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