017 デニス
「くっ!?」
オレの斬撃はオークの左手によって防がれた。
オークの棍棒がくる!
オークによる棍棒の振り下ろし。
オレは右に横っ飛びすることによって避ける。
オークの棍棒はかつてゲッツが使っていた棍棒よりも巨大だ。避けるのも一苦労だな。
横っ飛びの勢いそのままぐるりと前転することですぐに立ち上がる。
一瞬前までオレがいた場所には太い棍棒が落ち、まるで爆発するような音と共にに土が爆ぜた。
口の中に土が入ってじゃりじゃりする。
しかし、そんなことにはいちいち構っていられない。攻撃を外したことに気が付いたオークによる次の攻撃がくる。地面すれすれを這うように走る横薙ぎだ。
バックステップじゃ間に合わない。サイドステップじゃオークの間合いから抜け出せない。
オレが選択したのは上だった。
上に思いっきりジャンプして、足を収納するように折り曲げる。
オレの真下を鈍い風音を立てて通り過ぎるオークの太い棍棒。
躱せた……!
そして、地面に着地した瞬間にオレはオークに向けてダッシュする。
腰だめに短剣を構え、オークの顔面へ。
しかし、オークは嫌がるように顔を左手で隠そうとする。
「ファイアボール!」
オレを追い越すようにイザベルの魔術による火の玉がオークの左腕を吹き飛ばす。
「PIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
一瞬にして肩から左腕を失うオーク。
まったく、イザベルの魔術は最高だな!
邪魔なものはなくなった。
オレは左から右に短剣を走らせる。狙いはオークの目だ。
「AAAAAAAAAAAAA!? AAAAAAAAAAAAAAA!?」
視界を失ったオークの混乱ぶりはひどかった。
でたらめに残った手足を振ってオレたちを威嚇するようにバタバタ暴れるオーク。
棍棒もぶんぶん振り回し、手が付けられない。
オレはイザベルを見ると、イザベルはオレの視線に気が付いて頷いた。
「ファイアボール!」
イザベルの魔術が正確にオークの頭を潰し、これで終わりだ。
オレはすぐに吹っ飛ばされたデニスの様子を見に駆け出した。
「ザシャ! デニスは!?」
「デニスは無事!?」
イザベルも駆けつけてきた。
「デニスは大丈夫かよ!?」
あちこちに痣を作ったゲッツも合流する。
三人から問われたザシャは涙を隠すこともなく首を横に振った。
「そんな……」
その声は誰のものだったのか。
冒険者は危険と隣り合わせ。いつ死んでもおかしくはない。
わかっていた。
わかっていたはずだった。
でも、こんな簡単に……。人間ってこんなにあっけなく死んでしまうのか……。
本当に一瞬のことだった。
オレは何も言う気力もわかず、どこか遠い景色を見るような感覚でみんなを見ていた。
「俺のせいだ!」
ゲッツが叫ぶ。
「俺が大剣を欲しがったから! デニスの盾を後回しにしたから!」
俯いたまま叫ぶゲッツ。その下を向いた顔からはポタポタと雫が落ちて行く。
「俺がデニスを殺したんだ! 俺が――――」
「それは違うわ!」
ゲッツの言葉を遮るようにイザベルが叫ぶ。
「あの時、みんなで決めたはずよ。ゲッツ一人だけのせいじゃないの。それよりも、早く撤収するわよ」
「それよりも? それよりもって何だよ! デニスが死んだんだぞ! それをー―――」
イザベルに噛み付くように吠えるゲッツ。
しかし、イザベルは目に涙を溜めて口を開く。
「この場にいたらモンスターに襲われるかもしれない。それよりも、デニスをヘーネスに連れて帰るのが――――」
「ちょっと! ちょっと待って!」
その時、ザシャが涙声で叫ぶ。
「デニ、デニスは死んでないってば!」
「「「はあ!?」」」
さすがにザシャの言葉に驚きを隠せなかった。
だって、さっきザシャは首を横に振ったじゃないか。
「怪我はポーションで治ったと思うんだけど、顔を叩いても起きないのー……」
ザシャで隠れていたデニスに姿を見ると、その顔は安らかで、胸はちゃんと上下していた。
デニスの隣には、空になったポーション瓶が転がっている。
そのことを確認したのだろう。イザベルとゲッツの間に弛緩した雰囲気が漂い始める。
「あのなあ! 紛らわしいことすんなよ!」
「いだッ!?」
ゲッツにポカリと殴られたザシャが悲鳴のような声をあげる。だが、今回ばかりはオレもゲッツと同じ気持ちだ。
「でも、起きないのは心配ね。とりあえず、いつでもここを撤収できるように準備しましょう。さあ、みんな動いて」
「はぁ……」
なんだか感情が激しく上下して疲れてしまった。とりあえず、ダガーを回収して、ゴブリンとオークの右耳を集めよう。
オークは顔面を爆発させてしまったから右耳を探すのは大変そうだな……。
そんなことを思いながら、オレは動き出す。
しかし、デニスは起きる気配はなく、オレとゲッツでデニスの肩を担いで城塞都市ヘーネスまで連れて帰るのだった。
冒険者ギルドでデニスを診てもらおう。
デニスが起きない原因がわかるかもしれない。
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