016 いつもと同じようで少し違う
朝日も上がらぬうちから忙しそうに活動を始める城塞都市ヘーネス。その街並みをいつものように通り抜け、屋台のおいしそうな誘惑にも負けず、オレたちは森に向かう。
雑木林を抜け、いつものように森の中へ。ゴブリン狩りをしている他のパーティとは違う場所を選択して、とりあえずの戦闘区域にする。
「んじゃ! 行ってくるねー!」
「あ、ちょっと待って」
「およ?」
森の中に駆けていきそうなザシャを呼び止め、オレはある物を渡す。
「これって?」
「オレが今まで使ってた包丁。念のため持っておいて」
「らじゃ!」
イザベルとザシャは近接攻撃能力を持たないから心配だった。まぁ、包丁渡した程度で解決するとは思わないが、まったく何もないよりマシだろう。
「んじゃ! 行ってくるー!」
「行ってらっしゃい」
森の中へと駆けて行くザシャを見送り、オレはいつものように木の裏に隠れる。
「来たよー! ゴブ四! オーク付き!」
ガサガサ茂みが揺れる音がして、ザシャが森の奥から飛び出してきた。
「ふぅ……」
オレは深呼吸一つしてゴブリンやオークから逃れるように潜っていく。
よし、潜れた。
オレは潜れたことを確信すると、いそいそと移動を開始する。
静かに。しかし、素早く。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
デニスのウォークライが森に響き渡る。戦闘開始の合図だ。
「うおらあああ!」
「当たってよー!」
ゲッツの勇ましい声とザシャの祈るような声。ゲッツたちも戦闘開始だ。
「ファイアボール!」
そして、イザベルの魔術が発動する。派手な爆発音が響き、オークの悲鳴のような声が響く。
そして、オレはついにオークの背後を取ることに成功した。
ここからはいつものパターンだ。
オレの目にはオークの背に赤い点が見えている。
「…………」
声をあげることはない。ただオークの急所を貫き、抉る。それだけでオークは声もなくブルリと震えて倒れた。
その後は掃討戦だ。残ったゴブリンを片付け、右耳を刈り取り、袋を回収して次の狩場へ。
そういうサイクルでオレたちは行動している。
いつもと変わらないオーク狩り。オレたちの誰もがそう思っていた。
「来たよー! ゴブ三! オーク付き!」
ザシャがまた獲物を連れてくる。今日だけでもう四度目だ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
デニスのウォークライが戦いの開始を告げる。
オレはコソコソとゴブリンたちの視界から外れ、潜るように森の中を進む。
もう少しでオークの背後を取れる。
事件はその時起こった。
「ああ!?」
それが誰の声だったのかは覚えていない。状況を見ていたイザベルだったのか、デニス本人だったのか、それともオレのものだったのか。
オークの棍棒をデニスの盾が受け流そうとした瞬間、まるで空中分解するようにデニスの盾が弾けた。オレたちが作った鍋の蓋に木材を打ち付けただけの簡単な作りの盾。木材が破れるように折れて弾け、ベコベコだった鍋の蓋が大きく凹む。
そして、デニスの盾を破壊したオークの棍棒がデニスへと襲いかかる。
「ごはッ!?」
オークの棍棒はデニスの脇腹に突き刺さり、デニスは体をくの字に曲げて吹っ飛んでいく。
「デニス!?」
「デニス!? くそが!」
みんながその一瞬デニスに視線を奪われた。その瞬間を見逃すオークではない。
オークはデニスを撃破すると、そのままイザベルとザシャ目がけて走り出す。今まで手の届かないところから攻撃されて恨みを溜めていたのだろう。
オレはそのことに気が付くと、駆け出した。
オークが動き出した以上、悠長に急所を狙っている暇などない。
早くオークの進行を止めなければ!
そして、オークとのすれ違いざまにオークの右脚にダガーをぶち込む。
「PIGA!?」
オレの存在には気付いていなかったのか、オークが悲鳴をあげてその進行を止めた。
ホッとするのもつかの間、オークがオレ目がけて棍棒を横に薙ぐ。
オレはダガーから手を放して、地面に伏せて棍棒を回避する。頭の上をオークの太い棍棒が通過し、髪の毛が棍棒とぶつかってチリチリと鳴り、攫われそうになる。
なんだこれ、この重圧!? デニスはこんなのといつも向き合っていたのか!?
デニスのすごさに感嘆しつつ、デニスのことが心配になる。視界の端では、ザシャが吹き飛ばされたデニスに駆けていくのが見えた。
デニスのことはザシャに任せる!
そう決断すると、オレは短剣片手に飛び起きる。
「いくわよ! ファイアボール!」
イザベルの魔術がオークを襲う。しかし、オークの分厚い脂肪に阻まれて、なかなか知命打とはならないようだ。
オークが這うようにしてイザベルに向かおうとする。
イザベルを一番の脅威として認めたようだ。
これ以上、イザベルに近づけさせてはならない。
「はあああああッ!」
オレは短剣を右手で握ると、オークの目を狙って斬撃を放つ。
さすがに目を潰されるのは嫌なのか、オークの意識がこちらに向いた。
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