015 次の戦いへ
「うめー!」
「おいしいー!」
先に食べ始めたゲッツとザシャが大喜びで騒ぎ出す。これは期待できるな。
「へい、お待ち!」
「ありがとう」
オレもソーセージチーズカケターノを受け取ると、熱々だった。チーズの香りが鼻をくすぐって堪らない。
「先に食っていいぞ。熱いうちがうまいからな」
「ありがとうございます、フーゴさん」
「ありがとう、フーゴ兄!」
もう堪らないとソーセージチーズカケターノにかぶりつく。
ぶつりと噛み千切れるぶっといソーセージ。豚肉だろうか。とってもジューシーで肉汁に溺れそうなくらいだ。そして、それを優しく包み込むチーズの芳醇な香りとコク。パンもオレたちが普段食べている物より上等なものだ。まったくソーセージとチーズの邪魔をしないどころか、下から持ち上げている。シャキシャキ感じるのは葉野菜の酢漬けだな。脂っぽくなった口を綺麗さっぱり洗い流してくれる。そして、またソーセージを食べたくなる。無限ループだ。
「はぁ……」
その溜息は満足の溜息だったのか、もうなくなってしまったことへの不満なのかもわからない。でも、間違いなく、オレが食べてきたものの中で一番うまかったのは確かだ。
「いいか、お前ら。冒険者になったなら、ソーセージチーズカケターノくらいいつでも食べられるくらいまで稼げよ。そいつが一人前って証だ」
「フーゴさん」
これが一人前の味か。うまいなぁ。これをいつでも食べれるようになるとか天国かよ。
「イザベルよお、節約するのも大事だが、たまには息抜きしないとな。筋肉も育たねえよ」
「フーゴさん……。わかりました」
さすがのイザベルもフーゴさんには敵わないのか、困った顔で頷いていた。
「ぜってーだぞ! ぜってーだぞ、イザベル!」
「ほんと頼むよー!」
ゲッツとザシャが言質を取ったばかりに騒いでいた。
「わかったから、静かに食べなさいな。ザシャ、口の周りにチーズが付いてるわよ」
そう言ってイザベルがザシャの口の横に付いたチーズを指で挟んで取った。
「ありがとー!」
「ちょっと!?」
ザシャがぱくっとイザベルのチーズの付いた指に口を付け、イザベルが慌てた声を出していた。
それを見ていたデニスが固まっていた。その手に持つソーセージチーズカケターノからチーズが零れ落ちそうだ。
「デニス! チーズ!」
「え? あっと!?」
デニスが危ないところで零れかけていたチーズを口に含む。危なかったな。こんなおいしいもの、粗末にしちゃもったいない。
「んじゃ、俺はもう行くぜ? これからはいい物食うんだな」
「おう! フーゴ兄、ありがとう!」
「ありがとー!」
「「「ありがとうございます!」」」
後ろ手に手を振って行ってしまうフーゴさん。やっぱりフーゴさんはかっこいいなぁ。オレもお金に余裕ができたらフーゴさんを真似てモヒカンにしようかな。
その後、オレたちは宿に帰っていつものように自分たちの得物を手入れする。
オレは今日拾ったゴブリンアサシンの短剣を一生懸命研いでいた。
元々は業物だったのか、錆を取るとキラリと輝く刃が露わになる。その辺の草で試し切りしたが、めちゃくちゃよく斬れた。これはついに包丁を卒業して真の双剣デビューかもしれない。
「重……ッ!?」
今まで包丁を握っていた左手で持つと、短剣はかなりの重量を感じた。やっぱり包丁とは違うね。
オレは腰に差したダガーを抜く。短剣とダガー、比べてみるとまだ短剣の方が短く、そして軽かった。オレは右手でダガー、左手で短剣を使うことに決める。
いつかのゲッツじゃないが、使うのが楽しみだ。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみー!」
「おやすみなさい」
その後はイザベルたちと別れて男子部屋へ。装備を置いて自分のベッドに潜ると、すぐに睡魔が襲ってきた。
今日はイレギュラーがあったからなぁ。
でも、そのおかげでソーセージチーズカケターノを食べられたのだからラッキーだった。短剣も手に入れたし、オレ的にはかなり得をした一日だった気がする。
「明日もがんばろう……」
そう呟くと、薄手のボロ布をお腹にかけて横になる。迫る睡魔に全面降伏し、オレは意識を手放した。
◇
次の日。
オレたちは朝早くから活動を開始する。
デニスが早起きして作ってくれたいつものパン粥を食べつつ、今日やることを確認していく。
その時だった。イザベルの視線がデニスの盾へと向かう。
「デニスの盾もだいぶ痛んできたわね。早々に買い替えないと……」
「ボロボロだー!」
イザベルとザシャの言う通り、デニスの盾は昨日と比べてもかなり痛んでいる気がする。たぶん、オークの一撃を真正面から受け止めたせいだ。
「たぶん、直しながら使えば、まだいけるんじゃないかな?」
「そうかな?」
元々、盾といっても鍋の蓋を木材で強化しただけの物だし、買い換えるなら早い方がいい気がする。
「まあ、デニスが大丈夫ってんなら大丈夫なんだろ。買いたくても金がねえしな」
ゲッツの身も蓋もない言葉でこの話は終わってしまった。
今にして思う。
この時、もっとこの事態を深刻に受け止めていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
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