010 赤い線と成長
目の前に広がるピンクの体毛が生えた大きな背中。オークの背中だ。獲物は絶えず動くし、そこに印などはない。
だが、数をこなしたからか、オレはなんとなくの直感でオークの急所がわかってきた。
特に感が冴えている時は、オークの体に印のように赤い点や線が見える時があるほどだ。そこを穿てば、斬ればオークが死ぬ線が見える。
一応、フーゴさんにも相談したことがあるのだが、アサシンは多かれ少なかれそういうものらしい。適性があってよかったじゃないかとフーゴさんに喜ばれたくらいだ。
オレはオークの体に走った線に沿ってダガーを走らせる。
すると、今まで活発に動いていたオークがブルリと震えて倒れてしまう。これで終わりだ。
「ナイスだ、クルト!」
「やったね、クルト!」
「ああ。ありがとう」
ゲッツとデニスに称賛され、オレは手を上げて応える。
オークのような真っ正面から戦っても手こずるモンスターに止めを刺すのは、オレの役割になりつつあった。
その分、オレの役割は重要になる。途中でオークにバレてしまえば、デニスやゲッツの負担になる。イザベルやザシャも戦闘が長引くことで余計に魔力や矢を消費するはずだ。かなりのプレッシャーだが、これは慣れていくしかないだろうな。
「みんな、よくやったわ。ザシャは矢の回収を。クルトは耳の回収をお願いしてもいい?」
「らじゃ!」
「うん。みんな休んでいてよ」
その場に座り込むゲッツとデニス。やっぱり重い装備を振り回して戦うのは疲れるのだろう。
オレは二人に感謝しながらゴブリンの右耳を切り取っていく。その際にゴブリン袋の確認も忘れない。
「こいつは持ってないか……」
ゴブリン袋に入っているのは食べかけの木の実や綺麗な石、何かの骨だった。これはハズレだな。
オレは次々とゴブリンの右耳を切り取り、ゴブリン袋の中を確認していく。
「うーん、銅貨三枚だけか」
ゴブリン五体倒したにしてはかなりしょっぱい。
「あとは……」
オレの視線はドーンと地面に横たわるオークの死体へと向く。いそいそとオークの頭に近づいて右耳を切り取る。その後はオーク袋探しだ。
「これか?」
オークの腰にはゴブリン袋よりも大きい袋が括り付けられていた。
さっそく取って中身を確認する。すると、見えるだけでも銀色に光る銀貨が四枚も確認できた。当たりだな。やっぱりオークは金持ちだ。
「銀貨五枚と銅貨十二枚だった」
「そう。ありがとう。クルトも休んでちょうだい」
パーティ資金を管理するイザベルにお金を渡すと、イザベルに休むように言われた。
じゃあ、休もうかな。
オレはゲッツとデニスの近くに行くと、腰を下ろす。
「ゲッツ、大剣の調子はどう?」
「やっぱ重いけど、その分パワーがあるよな。ゴブリンの首をスパーンと刎ねたんだぜ、見たかよ?」
「見たよ。すごかった」
「だろ? やっぱ大剣だよなあ!」
ゲッツは大剣を使えることに喜んでいるみたいだ。
「これ、ゴブリン袋だけど、よかったら血を拭くのに使ってよ」
「おう! さんきゅ!」
ゲッツはオレからゴブリン袋を受け取ると、キュッキュッと大剣を磨き始める。
「デニスの方はどう?」
「だいぶ慣れてきたかなあ。やっぱり痺れるけどね」
デニスは苦笑を浮かべると、両腕を振っていた。
盾で防いでも腕が痺れる一撃か。オークは巨漢で動きが鈍いが、その分パワーがある。おそらく、練習していたゲッツの一撃よりも重いのだろう。
デニスは敵の攻撃を一心に受ける立場だ。やっぱりデニスが一番怪我をする確率が高い。そんな役目を進んで受けてくれるデニスには感謝しかない。
「じゃあ、そろそろ場所を移動しましょう」
イザベルの言葉にオレたちは立ち上がると、森の外縁部を移動する。
血の臭いに惹かれて他のモンスターが来るかもしれないし、こうして一戦ずつ場所を変えるのが冒険者のセオリーだ。
「じゃあ、行ってくるね!」
やがて、十分に離れた所に陣取ると、またザシャが獲物となるモンスターを探しに行く。
ザシャの単独行動は心配だけど、みんなで森の中に入るのはまだ怖い。ザシャなら身軽だし、何かあっても逃げ帰ってこれるだろうという信頼もあった。
オレは今のうちに木の裏に隠れておく。この方が奇襲の成功率が高い。
今の陣形は、ザシャとゲッツにゴブリンの相手を頼み、イザベルとデニスがオークを攻撃。そしてオークに止めを刺すのがオレの仕事だ。
「ふぅ……」
自分を落ち着けるためにいろいろなものがない交ぜになった溜息を吐く。
オークも倒せるようになったし、収入も上がった。ゲッツに大剣を買うこともできたし、現状はいい。
そりゃ、『バルムンク』なんてすごいスピードだし、普通の冒険者に比べても遅々とした成長だし、誇れるようなものじゃないかもしれない。
でも、オレたちは確実に成長している。でも明日を信じることができる。そのことが無性に嬉しかった。
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