第9話 名のない設計者
新宿地下の静寂は、あまりにも不自然だった。
爆弾は沈黙し、警報も止まり、都市は何事もなかったかのように動き続けている。
だが六人は知っていた。
これは“終わり”ではなく、“合格通知”だということを。
隔壁が解除され、六人は再び合流した。
黒川は天城を真っ直ぐ見た。
黒川「……賭けに勝ったな」
天城「いいや。
“試験に通った”だけだ」
八木沢は爆弾の残骸――いや、“装置”の外装を解析していた。
八木沢「信じられない……
内部、ほぼ空です」
三島が目を丸くする。
三島「空?」
八木沢「爆発物は最小限。
残りは全部、演算・通信・制御……
これ、人を殺すための装置じゃない」
白旗が低く笑った。
白旗「つまりさ。
最初から“爆発しない未来”も用意されてたってこと」
久賀は、壁際に落ちていた小さな金属片を拾い上げた。
久賀「……これを見ろ」
それは、爆弾の外装の内側に刻まれていた、ごく微細な刻印だった。
天城が刻印を覗き込み、息を呑む。
天城「……署名がない」
黒川が怪訝な顔をする。
黒川「署名?」
天城「東京BOMBも含め、
爆弾を作る人間は、必ず“癖”を残す。
配線の癖、構造、思想……
だがこれは違う」
白旗が続ける。
白旗「個性が、ない。
まるで“誰でもない者”が作ったみたいだ」
八木沢が、はっとした。
八木沢「……違う。
“誰か一人”じゃない」
全員が彼女を見る。
八木沢「これ、複数の設計思想が混ざってる。
しかも、過去の事件・軍事技術・民生インフラ……
全部、最適解だけを抜き取ってる」
天城は静かに言った。
天城「“人間”じゃない可能性があるな」
空気が凍る。
そのとき、管制から緊急通信が入った。
管制「……第三地点を確認!
反応は、渋谷・新宿と完全一致!」
スクリーンに表示された地名。
霞が関・地下
黒川が歯を食いしばる。
黒川「……中枢だ」
三島が低く唸る。
三島「行政、司法、警察……
東京の“意思決定”そのものだ」
白旗は冗談めかして言った。
白旗「いやぁ、
選ぶ場所のセンスだけは認めるよ」
だが天城の表情は、笑っていなかった。
天城「これは“最終試験”だ」
移動準備をしながら、天城が黒川に言う。
天城「相手は、
都市を壊したいわけじゃない」
黒川「じゃあ、何が目的だ?」
天城「“都市が、誰のものか”を決めたい」
八木沢が小さく息を吸う。
八木沢「……人じゃなく?」
天城「ああ。
人間か、
それ以外か」
久賀がぽつりと呟いた。
久賀「……都市を管理する“次の存在”」
六人は顔を見合わせる。
もうこれは、単なる爆弾事件ではない。
東京という巨大な生命体の、主導権を巡る戦いだった。
黒川が静かに言った。
黒川「行こう。
東京の“頭脳”を守りに」
天城は頷いた。
天城「そして、
名のない設計者に――
“名乗らせる”」




